新しい課題のために制作途中の曲がそこそこ形になってきたので、トキヤくんに確認をしてもらおうと思い男子寮まで来てみた。
メールで連絡を入れてから来たかったんだけど、生憎携帯電話の充電がゼロ。一度寮の自分の部屋に戻ってからでは時間がかかってしまう…、ということで、レコーディングルームからそのままトキヤくんの部屋の前まで来てみた。
ちなみにここはトキヤくんだけではなく、音也くんの部屋でもある。
音也くんは恋人じゃなくなった私に、友達だったころと変わらずに優しい。本当に友達に戻ることってできるんだなあ。
それに、私たちはお互いにちゃんと新しい恋をしてる。だから疎ましい気持ちとか罪悪感というのは全くない。

まあ音也くんの話はとりあえずいいとして、問題はどうやってこの扉を開けるかということ。
さっきからノックを何度もしてみた。でも扉が開く気配がない。
寮の各部屋にはインターホンなんてものは存在しないのだ。いつもみんな、メールや電話をして部屋の前まで着いたことを知らせていた。
しかし、今は連絡手段がない。だからこの扉をノックする以外に方法はないのである。
でも、もしヘッドフォンで音楽を聞いていたら、ノックなんて聞こえない。いや、そうじゃなくても集中してたらノックの音は耳に入らない。この寮は全室防音設備が完璧に整っているのだ。
せっかくここまで来たのになあ…


「わっ!!」


と、その時突然扉が開いた。扉の直前に立っていた私は顔面をぶつけそうになったけれど、ぎりぎりのところで回避。


「え、名前?」
「わ… 音也くん」
「あっ、大丈夫?もしかしてぶつかった?」


何も知らずに出てきた音也くんが、私の目の前であたふたしだす。
肩に鞄をかけてる。出かける予定のようだ。


「大丈夫だよ、ギリギリセーフ!」
「よかったあ」
「音也?どうかし…って、名前?」


ひょこりと顔を出したのはトキヤくんだ。私と音也くんを交互に見つめて、頭の上に疑問符を作っていた。


「って、わっ!わわわ!」
「名前?どうしたの?」


音也君も私を疑問の目で見てくる。どうしたもこうしたもない!


「とっトキヤくんふふ服着てちょうだい」
「え?」
「ああ…そういえば着替えていた最中でしたね」


トキヤくんは上半身に何も着ていなかったのだ!私は初めて見たトキヤくんの素肌(凄く綺麗です)に目を向けられなくて、くるりと後ろを向いた。


「あ、じゃあ俺翔のとこに行かなきゃ」
「ええ、くれぐれも迷惑をかけないように」
「わかってるよ〜!も〜!」


ゆっくりしてってね、とウインクをして、音也くんは私の肩をぽんと叩き部屋を出て行ってしまった。


「…名前、音也にときめいているんですか」
「そ、そんなことな…って!ふ、服を着てくだs」


言い終わる前に、トキヤくんにぐいっと片手を引かれて強制的に部屋に連れ込まれる。
… ここまでは、まあよしとしよう。しかし。


「なっ…と、きやくん…!離して…ッ」
「彼氏の抱擁を拒否するのですか?ひどい人だ」
「ちがっ!トキヤくんこそ!その前に服を着てよ!」


部屋に引き込まれたまま、私はトキヤくんの胸に顔を押し付けられ、そのまま抱きしめられてしまったのだ。
突然頬に直で感じるトキヤくんの肌の暖かさに、思わず硬直してしまう。


「…あなた、もしかして男の体を見るのは初めてなのでは?」
「わ…悪いですか…っ」
「ふふ、いいえ。悪くありませんよ」


私の髪に指を通して、髪の毛を弄ぶように触るのがくすぐったい。その手が首に触れたので、びくりとしてトキヤくんの背中に手を回してしまった。


「!」


手の平に伝わるトキヤくんの肌の感覚。ドキッとして両手を離すと、トキヤくんが思い切りぎゅっと抱きしめてくる。


「…なんで離すんですか」
「だ… だって…」
「……名前、」


ちゅ。おでこに柔らかいキスが落ちてくる。
トキヤくんの優しい微笑みが見えた。さっきまでのちょっと意地悪な感じは、もう感じられない。


「…私は、あなたに触れて欲しい」
「で、でも」
「ドキドキしてください、より近くで私を感じて欲しいんです」



私の肩口に頭を埋めて、トキヤくんが静かに言った。少し寂しそうな、そんな声音。 私はそっと彼の背中に手を伸ばし、そして触れた。 あったかくて、吸い付くような肌。すべすべなのに、程よく筋肉がついたそれは、やっぱり男の人の体だ。


「… すべすべだね」
「手入れは欠かしていませんからね」
「私の方がざらざらかも」
「じゃあ、今度あなたの手入れもして差し上げます」
「… トキヤくんがやると変態みたいになりそうだから嫌」
「ほう…」
「あっ… いや、なんでもない、です…」


でも、女としてトキヤくんに負けないように手入れしなきゃ。
今日は帰りにボディクリームを買っていこう。



伝わる心拍の音




「…そういえば、私に用があったのでは?」
「そうだった!忘れてた!」
「というか、いつからドアの前にいたんですか」
「いや、そんなに前からはいないけど…、何度もノックしたけど反応がなかったからちょっと焦っちゃったかな」
「すみません、私シャワーを浴びたばかりだったので…、あの馬鹿を叱りつけておきます」
「いいいえいえそそんないいです音也くんが可哀相だし」
「音也の肩を持つというのですか」

トキヤくんは案外しつこいです。





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