知っていたよ。

あなたが私に何も言わずにしていた仕事っていうのは、きっと危険で、あなたは私を巻き込まないために必死なんだって。

あなたがこの扉から出て行ってしまったら、もう帰ってこない、そんなこともね。

それでも、私はあなたをとめることなんでできやしない。していいはずがないのだ。これはあなたが決めたこと。こんな命までかけることを決めるなんて、たやすい事じゃない。

だから、私のわがままなんかで、そのたやすくない決断を揺るがすことはできないのだ。私だってほんの2年ぐらいだったけど、ワイミーズで過ごした仲間。その後はしばらく離ればなれになってしまったけれど、またこうやって一緒にいられたことは、偶然なんかじゃないよね。





メロウリーメロディー






今日という日は随分と長い。いつもは朝が来たらすぐに夜がくるものだと思っていたのに。

そして私の心は昨日に置き忘れてきてしまったらしい。辛さも感じられないほどの無気力、はやく明日になれと考える思考。でも明日になんかなったら、きっと彼がもう世界にいないことを嫌でも肯定しなければならなくなる。それなら昨日に戻して。でもそれも無理な話。それに、決戦前日のあの深刻な彼をもう一度見たいとは思わない。



でもね、もうすぐ明日がくるよ。冷たい空間にただ規則的に鳴り続ける秒針の音、時計の針はそろそろ24時を伝えていた。

ああ、タイムアウト。なんとなく自分の中で決めていた。今日まではメロは生きてる。別に時間なんて関係ない。今日はメロが生きていた。今日まではちゃんと、世界が輝いていた。


でも、もうそれも終わり。明日からはメロはいない。それは苦痛以外のなにものでもなくて、神様なんて本当にいないんだな、と思った。クリスチャンのメロには申し訳ない。




無音にしていたテレビ。日付が変わるのと同時に番組も変わった。

ああ、今日からどうやって生きていこうかな。メロがいたころはこの部屋は狭いな、と感じていたけれど、一人には広すぎるや。それに、私のものよりメロのもののほうが多い。


どうしようかな、なにをどうすればいいの?なにをしていけばいい?なにから片付ければいい?今まで尋ねる相手がいなくなった。あなたがいいと言えばそれはよくて、悪いと言えば悪かった。私のものさしは全てメロだった。そうだ、私にとっての神様はあなたしかいなかった。




鳴らない携帯が憎い。それでも、早く通話ボタンを押せるようにしている私は、なんて愚か。こんな姿をメロに見られたら、きっと弱々しい女だとか思われて呆れられるに違いない。

でもわかって、私にはそれぐらいあなたが大切だった。私が弱くなってしまうぐらい、あなたは私の中心だった。ただそれだけだよ。







2010年1月27日、1時38分。

マナーモードに設定されたままの携帯が揺れた。非通知、知らない番号。私の気持ちは酷く揺れた。動揺した。

あれだけ通話ボタンの押しやすい環境にあったのに、躊躇った。メロ?それなら躊躇わなくても、でもメロじゃなかったら、今メロじゃない赤の他人に電話をかけられても、私は何も言えないし耳に入らない。でも非通知、嫌だ、怖い。でもでなきゃ、きっとでなきゃいけない。浅い通話ボタンを押した。




「………」
「……名前ですか?」
「…、え、あ……はい…」
「ニアです」
「に、ニア…」




ああ、もう決まった。ニアが電話をかけてきたということは、メロはもう。

ニアとの会話はもう何年ぶりかのものだったが、今は久々だと言っている場合でもなかった。身体中からよくわからない汗が噴き出してくる。何を今更、メロは死んだ。死んだとしか考えられない。ニアから連絡が来たのはその証拠でしょ?




「レイ、メロですが」
「……、う、ん」
「はっきり言いますが、生きています」
「………え、」




頭は動揺しきっていた。ニアは冷静。私は彼の淡々とした口調とは真逆に、返答をすることすらままならない。




「間一髪のところでなんとか。今は私の手配した病院の、集中治療室にいます。意識はまだ回復していません。今から場所を伝えますので、そこに………、レイ?」
「あ、は、はい、えっと、」
「……いえ、今どこにいますか?家ですか?迎えに行きますので、場所を教えてください」




混乱する思考回路。私はなんとか家の住所をニアに伝えた。ニアはそれを聞くとすぐに電話を切ったので、私は働かない頭を何とか動かして、立ち上がることまではした。

とりあえずメロは生きている。けれどもきっといい状態ではないことは、私にも推測ができる。だからこそニアは私を呼んだのだ。最後かもしれないならせめて。そんなふうに思ったに違いない。


15分ぐらいすると、また非通知で電話がかかってきた。玄関の前にいます、というニアの声。

ドアに鍵をかけたかなんて、覚えていない。









「…………」




集中治療室にいたメロは、息をしていた。それは生きているという証で、でも包帯だらけの身体は、その深刻さを物語っていた。いろんなコードが彼の生命を維持したり、今の状態を読み取ったりしている。

彼の心音が電子音で鳴り響き、その機械的な音にどこか安堵した。




「落ち着きましたか?」
「……ぜんぜん…」




ニアは落ち着いているようだった。でもきっと、内心では焦っていると思う。きっとニアは何かしらの罪悪感を感じているだろう。

ふと見れば、隣に赤毛が寝ていた。メロのように包帯が巻かれ、しかし所々赤く染まっている。




「マットも」
「…、」
「いい状態とは言えません」




それからの記憶はない。うろ覚え程度にしか、私の頭は記憶していなかった。いつ家に帰ったのかもわからない。でも、目が覚めたときには27日の昼で、部屋は静まりかえっていて、私は希望も絶望も持てずにいた。






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