ナウヨノ薬麻デルマハレ其

大学時代三上が弾けだした話。
ちょっとエログロ(?)注意


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 壁に頭を打ち付けられた青年の眼鏡が地面へと音を立てて落ちる。
 それを踏みつぶすようにして男は一歩踏み出し、再び青年の頭をどこの店とも民家ともビルディングともしれぬ薄汚い煤で汚れた壁に叩きつける。右のこめかみと壁に赤い糸が伝い、重力に従って切れた。
 それでも脳味噌を揺さぶられ殴られ霞んだ青年の目が軽く裏返りかけ痙攣する。

 “ちょっと金かしてくれよ兄ちゃん”

 そんな言葉から始まったこの行為。それを断った青年は虫の居所が悪かったのか、この瞳孔の開ききった腕に複数の注射痕のある男を罵りその場を去ろうとしたのだ。
 ほぼ必然的に男は逆上し、今に至る。整えられていた青年の髪が乱れ、壁に押し付けられて煤が男物ながらに上品な洋服をダメにする。
 男は加虐趣味でも持ち合わせていたのだろうか、それとも薬でただトチ狂い興奮しているだけか、何時の間にかその表情に笑みすら浮かべている。

 髪を掴み壁に青年の頭を押し付けたまま、男はその細く見える体の中心、腹へと膝を入れる。思ったよりも重たい青年の体が浮くことはなかったが、げほっと大きくせき込み唾液だか胃液だか分からないものを掃き出し、男のズボンを汚した。
 それもあまり気に留めない様子で、続けて膝を腹に打ち付けると青年がグウグウと唸った。男は愉快そうに目を細めた。
 青年は眉根を寄せ、それを小さく震えさせ、とうとう涙を流し、頭を握られたままさらに顔を壁にこすりつけるようにして、いやだ、と示すように動く。
 男はそれも気に入らなかったらしい。きっと青年が何をしても何を言ってももう気に入らないのだ。もう一度青年の頭をガツンと壁に叩きつけた。それが特別頭を揺さぶったのか、青年の瞼がゆっくりと痙攣し瞼が落ちる。口が開き壁に頭が抑えつけられている状態で意識を手放してしまった。
 壁に凭れるようにして青年の体が崩れ落ちる。顔は涙やら鼻水やら吐瀉物やらで酷いありさまだ。

 男は腰からナイフを手に取った。

 青年の襟首を持ち壁に凭れさせ、少し腰をかがめナイフを持ってないほうの手で頬を思い切り張る。バチンと、いい音がしてから青年が呻く。ゆっくりと瞼が持ち上がり、すぐに見開かれる。開いた瞳孔が一瞬締まってからまた開いていった。
 ゆらゆらと青年の目の前で揺れるナイフに、青年の歯がかちかちと鳴った。体も震えて、腰が抜けているようだ。ナイフから目を逸らすこともできないその様子に、また男が愉快そうに目を細める。
 ボロリと、また青年の赤くなった目から涙がこぼれた。
 男はさも、それはもう愉快だと言いたげに喉を鳴らし、さらに腰をかがめ青年の左頬をべろりと舐めあげる。その部分だけ綺麗になっていき、青年はゾワゾワと体を震わせた。全身の毛が逆立つようだ。そのまま男の舌は尚も上がっていき、やがて目玉に到達したとき、ヒッ、とか細い悲鳴が漏れる。男は目玉を心行くまで舐めてから、さらに顔を上にあげ額に一つ口付けを落としてやっと顔を離す。

「兄ちゃん顔、カワイーから、使ってあげる」

 ニッコリ、男が破顔する。右手のナイフを青年の首元に添えながら。
 青年の小さく音を鳴らす歯がある、その口、の、唇。そこにそっと左手を添え親指をねじ込み下顎を下へと押さえつけるようにして開く。
 ナイフを添えられている青年の喉が動く。口を無理やり広げさせられ何をされるのかと黒い目が泳いでいる。

「動いちゃいけないんですよ」

 どことなくトチ狂ったような男の言葉と共に青年の首元を舐めていたナイフが、先ほど男が舐めた左頬へと移動する。刃を歯と垂直にさせるようにして、プツリと、やわい白い頬に先端が刺さり、意図も容易く青年の頬を貫通した。

「あ゛っ、……ァッ!!」

 青年はもう声も出ない。胸を大きく上下させ、信じられないとでも言いたげに虚空を見つめている。ボロボロと涙があふれて止まらず詰寄せられた眉根が痙攣する。そのまま男を見上げれば依然こいつは笑顔のままだった。ゾクリと背筋に何かが走る。

 この男は顔を使ってやると言った。

 ボタボタと血が流れる。口の中に入り込んだそれが、唾液と混ざって零れていく。̪下顎は依然押さえつけられたままだ。
 男はナイフを口に咥えスラックスのチャックを外す。すでに固く勃ち上がった男のそれが取り出される。
 青年はいよいよ目を丸くする。こめかみから伝った汗が頬に新たにできた傷に入り込み沁みる。
 其れが付き入れられたのは開きっぱなしの口ではなく、わざわざ切れ込みを入れられた頬の穴。青年は混乱しきったようすで、涙腺も壊れてしまったのか涙をボロボロと長し荒い息を吐く。頭の中が酷くこんがらがったようだ。
 噛もうにも顎に力が入らない。ただ頭を押さえられ口でもなく、新しく作られた穴を使われている酷い感覚。対して気持ちよくもないだろうに、その事実に興奮しているのか男はやがてようやく射精した。
 舌の上に感じる酷い味を感じながら、青年は今度こそ意識を飛ばした。


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 心優しい誰かが見つけてくれたらしい。酷い状態だったが、どうやら頬は腐らずに済んだようだ。ただ、あとは一生のこるだろうとのこと。
 青年はほんの数日の入院生活を終え、一人借りているアパートへと帰った。また抜糸しに行かなくてはならないけれど。

 青年は玄関の扉を閉めて、その扉にもたれかかった。
 思い返すのは、少しまえのこの頬の傷の出来事。あまり人間の扱いとは言えぬ扱いを受け、痛い目にあわされた出来事。

 青年の眉根がぐいっと寄る。ギリッと奥歯を噛み締め反動を付け扉から背を離し廊下に鞄を落としながら居間へと進む。
 じくりと頬の傷が痛んだような気がした。

 こわごわと指先を震わせて青年が左手を左頬へと伸ばす。そっと触れた傷が、沁みる。
 震えるようにして息を吸いこみ、ゆっくりと吐き出した其れは、もう

「はっ……!!」

 どうしようもない程に熱に濡れて倦んでいた。
 カッと朱に染まった目元、恍惚に柔らかく細められた目、ぎゅっと寄りながら痙攣する眉。勝手に唇が緩み唾液が垂れてしまいそうだ、腰が砕けてその場に座り込んだ。

 気持ちが良かった、信じられないぐらいに、なんだあの扱いは、酷すぎる!!たまらない!!頭が千切れそうな痛みだった、無理やり出し入れされるあの感覚が!!なんて酷い心地だっただろう!!

 ガリッと頬の傷に爪を立てる。馬鹿みたいに痛い、嗚呼どうしようもなく気持ちがいい、興奮して止まらない。ボロボロと痛みに涙が流れるがそれは決して辛いだけのものではない、歓喜の吐息が開きっぱなしの口から零れていく。
 爪で抉る様に引っ掻くのが気持ちが良くて仕方がなくて、止まらない。足りない。こんなのじゃあ足りない。蹲る様にして糸を無理やり引きちぎるようにして頬に指を入れる。思わず悲鳴が漏れた、嗚呼、痛い!!
 じくじくと血があふれ出す、だめだめ足りない全然足りないこんなものじゃあ満たされない。
 ふらりと立ち上がり、台所から取り出したのは包丁。ちょっとだけ、ほんの少しだけ。
 手足はダメだ、使い物にならなくなるのは、さすがに、まずい、かも?なら、どこだ、腹しかないか、どこならいいかな、あまり、生死に関わらなさそうなところ、なんて知らないぞ。
 でも、ちょっとだけなら、浅ければ、大丈夫、なんじゃないか?

 背を丸め、左手に包丁を握り右手でそれを腹に押し付けるようにして、すこしずつ、服ごと、埋めていく。
 始めに抵抗があった。次に吐き気と、頭がチカチカと点滅するような痛み。ゆっくりゆっくり、ほんの少しだけ包丁が埋まった。ワイシャツが赤く染まっていく。

「あ゛っ、ぐっ、あ、……っ!ん、ん゛っ、は、あはっ……」

 ビクビクと体が跳ねながら、細かく腕が痙攣するような、体が異物を拒んで悲鳴を上げている。緩んでいる口元から唾液と血液が混ざった液体が零れ落ち、それもワイシャツを汚していく。ずるずるとその場に崩れ落ちた際に包丁が床に落ちた。
 ひときわ熱いじっとりとした息を掃き出し目元から耳、首までを真っ赤に染め恍惚としていて、どこか気だるげだ。
 ゆっくりと呼吸を整えていき、腹を押さえながら立ち上がり、備え付けの電話を手に取り、とりあえず、医者にどうこれを説明するかを満足して熱の引いていく脳味噌で考えた。

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