束約オノ為ルナニセ幸

(IF)

 明るい部屋に居た。一番玄関に近い部屋、南の部屋に比べては少なけれども、窓から昼の日差しが僅かに部屋を照らしているにも拘らず蛍光灯が明々と部屋に光を当てていた。
 壁紙もカーペットもカーテンも統一性があり、家具は使ってまだ日が浅いのか、木の作りが基調のそれらの木目は美しく磨き上げられたまま傷一つ見当たらない。柔らかな真っ白い布団が蛍光灯の光を照り返していた。
 男はその明るい部屋に居た。細長い黒い布で目元を隠し、黒い七分丈の服にジーンズ。蛍光灯に目映く自己主張をする目の覚めるような鮮やかな金髪。目の布さえ除けばそれなりにありふれた格好だ。
 男の体躯はそこいらに居る成人男性よりも余程、いい物だと言うことが傍から見てもよく分かる。
 座り、壁に凭れているがその背が高いことは容易に分かり、そして、ひょろく縦に細長いだけではなく、しっかりとその体には筋肉が付いていた。
 男は、同居人に“兵隊さん”と呼ばれていた。過去形なのは既に同居人は男の事を兵隊さんではなく、彼の名前にさんを付けて“支子さん”と呼んでいるからだ。
 支子には支子という名前しかなかった。彼には特定の家がなかったし、年齢だって殆ど在って無いようなものだった。所持している銃だってナイフだって手榴弾だって、服も、体も、所持品と言うには、替えが利きすぎるものだった。
 彼は自分が誰に何と呼ばれようと気にしていなかった。同居人が兵隊さんと呼ぶことにも、特にどうといった感情は抱いていなかったのだ。
 しかし、自分の確実な持ち物、それが恐ろしく少ない支子にとって、自分の名前を呼ばれることはちょっとした、ほんの些細な、朝にとびきり美味しい艶やかな真珠の様なお米と、体の芯まで温まる味噌汁が出てくるような、ほんの少しのありふれた喜びであったのも、また間違いはない。
 これは紛れもなく自分のものだと再確認できるからだ。


 彼がまだ兵隊さんと呼ばれていた始めの頃は、まだ同居人は同居人ではなかった。強いて言うならば、自主的なお弁当の配達員だった。
 支子はその頃赤軍の方のスラム街によく居た。そこが仕事場であり、恐らくは生まれ故郷であり、テリトリーであったからだ。そこに同居人がある日迷い来んだ。
 同居人は始め酷く、狼狽していたように見えた。幽霊を見ているような視線を支子に投げかけたのだ。しかし、同居人はすぐに黒い目を伏せ、道に迷ったので黒軍の領地まで連れて行ってくれないかと言った。
 支子は一瞬撃ち殺そうかと迷ったが、そのあとに提示された道案内をしてくれればお礼にお弁当をあげる、という言葉に頷き、何故が一緒にその場で弁当を食べて軽く話して同居人を黒軍の領地の近くまで送っていった。腹が減っていたのだ。
 しかし同居人は数日後、再び同じ場所に現れた。今度は道に迷った訳では無く、ただ単に一緒にお昼を食べませんか、とのことだった。
 支子は頷いた。同居人の飯は美味しかったし、何となく好きだと感じる卵焼きが入っていたからだ。なによりこのスラムでタダ飯を断る理由がなかった。
 始めの頃、二人は互いに互いの名前を知らなかった。同居人は支子の身なりから彼の事を兵隊さんと呼び、支子は名を呼ぶ必要が無かった。
 支子は言葉を話さない。声帯が傷ついていたり、過去の心的外傷からによるものではない。ただ単に、話さないだけだ。だか、当時同居人はそんなことを知らなかった。同居人は支子とのホワイトボードに書かれた文字と、時々簡単なハンドサイン。それに対し自分の口に出した言葉で会話することに、なんの疑問も抱いていなかった。きっとそれは今もだろう。
 同居人はとやかく詮索してくるような人間ではなかった。二日か三日に一度、弁当をもってやってくる。一緒にお昼を食べて、少し話してお茶を飲む。時には茶菓子のようなものも持ってきていた。そして昼からの仕事に間に合うように腕時計を見て帰っていく。ただこれだけだった。
 支子にはこの同居人の行動が全く理解できていなかったが、このお弁当配達のおかげで僅かにでも生活がしやすくなったのは間違いが無かった。飢える日が格段に減ったのだ。
 二ヶ月ほどそんなお弁当配達が続くと、支子はやがて昼に同居人がやってくるのを待つようになっていた。二日続けてきた時は嬉しくなったし、一週間空けらるとお腹も減ったし、逆に自分が仕事でその場にいけないと、たまに支給される物資の食糧は砂を食べているかのように味気なかったし、其ればかりでなくなんとなく寂しい気持ちになった。
 ある日同居人が支子の名前を訪ねた。支子は隠す必要もないので『支子』とホワイトボードに書いた。
 ああ、と納得した様に同居人は頷き「ああ、喋らないからクチナシさんなんですね」と、秘密を理解した子供の様な表情で言ったが、ネックウォーマーで口元を隠した支子が肩を震わせ軽く喉を鳴らしているのに気が付くと耳まで赤くして「違うのか」と訊ねた。
 支子は喉を鳴らしたまま『さぁ?』とホワイトボードに書くだけで、なんとも言わなかった。同居人は「じゃあ髪の色なのか?」と言ったが、支子は相変わらず愉快そうに喉を鳴らしているだけだった。

 同居人は三上幸二郎と名乗り、支子はその名前をすぐに覚えた。

 三上幸二郎は傍から見ても大人しそうに見える男だった。柔らかな癖のある淡い茶髪を整え、杖を持ち丸い古風な眼鏡をかけた、いつも几帳面な西洋風の格好をした若い男。まだ23になったばかりだと言っていた。
 背は一般的にみてもやや低く、180センチある支子よりも10センチも低い。恐らく顔は整った方だろう、男前、というよりかは到底女には見えないが、美丈夫だとか、美人といった印象だ。黒い伏し目がちの垂れ目、さらに左頬に目立つ縫合痕があり、なによりほぼ常に無表情だったので何処となく暗いような恐ろしいような印象も抱かせる青年だった。
 何より、幸二郎には左手の小指と左足が膝下から無かったのだ。幸二郎はそれらを『事故』と言っていたが、傍から見れば少々恐ろしいものだ。丁寧な淡々とした言葉使いと雰囲気、矢張り頬の傷も大分手助けをしてインテリヤクザという奴に見えなくもない。といっても、支子はそれらすべてを気にしていなかったが。実際幸二郎はヤクザではなかった。
 そしてその頃になると支子はいい加減ホワイトボードの手間を覚え、よく使う言葉をカードにした。紙の裏に磁石のシールを張り付けた簡単なものだ。
 それらの言葉は例えば『了解』や『こんにちは』『こんばんは』『ありがとう』『銃』『莫迦』『阿呆』『間抜け』などなどだ。そしてその中に『幸二郎』という新顔が加わった。
 『幸二郎』は使用頻度がそれなりに高く、厚紙のそれはすぐにヘロヘロになり、擦り減ってしまった。支子はそれを捨てるのもどうかと思いずっとポケットに溜めていたのだが、ある日幸二郎はその事に気が付いた。
 幸二郎は何処かはにかんだように笑い「自分の名前がたまっている、古くなってしまったものは、捨てればいいのに」と言った。
 支子は別に擦り切れたのが嬉しくてとって置いていた訳ではない。この赤軍のテリトリーで迂闊に人の名前の書かれたものを捨てるのもどうかと思ったし、燃やしてしまうのも気分が悪い。それだけだった。
 けれど、幸二郎がこんな風に笑うのであれば、なんとなく捨てないでおこうと支子は思った。
 『なんだか幸二郎を捨てる気にはなれない。次からは寝床に置いてこよう』と言うと、幸二郎はやはりはにかんだように笑い「それはそれで恥ずかしい、溜まる一方だろうから、捨てるのが嫌なら自分が預かって捨ててこよう。ゴミになってしまうだけだ」と言った。
 支子はそれを拒否した。
 『嵩張るものでもないから平気』だと言うと、幸二郎は心底不思議そうな顔をして「それなら別に構わないが」と言い引き下がった。
 支子には所有物があまりにも少なく、ただでさえ少ない其れを他人に奪われるというのは、それがただの紙切れであってもとても厭なものだった。

 支子の寝床は廃屋だった。使われなくなった建物、彼は眠る場所と雨をしのげさえすれば犬小屋でも大して気に留めていなかったかもしれない。
 しかしその廃屋はある日の台風により、崩れてしまった。幸い支子は怪我をしなかったが、襤褸く成っていたその廃屋は、いとも簡単に呆気なく吹き飛ばされたのだ。
 支子はどうしようかと考えた。知り合いの医者に頼み込み世話になるという手もあったが、その知り合いの医者に屋根を借りるのは少し憚られた。全くもって、それこそ雀の涙、蚤の死骸、上質な塩の一粒ほども信用が成らない。
 と云う訳ではないのだが、恩を作ってしまってあまり後味のいい人物ではない。
 そしてそんな支子を救ったのが同居人である幸二郎だった。「家が吹き飛ばされてしまったのなら、自分の家の部屋を一つ貸そう」といとも簡単に言ってのけたのだ。
 本当に良いのかと何度も尋ねたが、幸二郎は同じ調子で頷き「流石にタダとは言えないが構わない」と何時もの無表情で言うだけだった。
 結局支子は幸二郎の部屋を一室、毎月に金を渡すことで借りることになった。その部屋には家具を置いていなかったらしく、簡易的な敷布団をひとまず幸二郎は用意した。
 支子は布団と屋根さえあれば満足だった。

 幸二郎の家はマンションだ。3LDKの一人暮らしには少し広すぎるような部屋に一人で住んでいた。
 全体的に整った部屋、綺麗に掃除され家具にも拘る性分らしく統一性があり、床には暖かな色のカーペットが敷き詰められ、広いリビングには大きなTVとソファがあった。ただ、そのリビングに置いてあるトレーニングマシーンはどこかその部屋に不釣り合いだ。
 とりわけダイニングとキッチンは凝っていた。大きな掘り込み装飾の硝子戸の食器棚に、やはり選んでいるのだろう食器が並べられ、お揃いの木でできた落ち着いた雰囲気の長方形の机と四つの椅子が置いている。
 多機能キッチンというやつだろうか、いろいろなつまみやスイッチ、流しの上下の棚に上等そうな冷蔵庫。調味料の棚があり、その下にはインテリアも兼ねた調理器具がぶら下げられている。
 料理は幸二郎の趣味なのだ。
 トイレや洗面台ですら綺麗だった。まるでホテルのようなデザインで、綺麗に磨かれていた。
 彼の家には手すりが多かった。幸二郎は部屋では基本的に義足を外すために、その補助の為だ。カーペットも転んだ時の為だと後で聞いた。
 そんな部屋が多い中、玄関に一番近い支子の部屋には本当になにも無かった。ただ電気と、壁紙と、カーペット、カーテン。それしか置いていなかった。本当にただ余っていた部屋だった。
 しかしそこがあまりの部屋ではなく貸し出す部屋になった時、幸二郎は普段は穏やかな、あまり動かない眉を少しばかり斜めに持ち上げ、簡易的な敷布団とわずかな支子の荷物が置かれた部屋をしげしげと眺めてから、ゆっくりと首を横に振り「買い物に行いこう」と隣に立つ支子を見上げた。
 そのまま支子の格好も上から下までじっくりと見つめて、さらに眉をきつくし目を軽く細めた幸二郎は今度は頷きながら「うん、買い物に行こう」と再度と繰り返した。

 すっかり部屋らしく整った部屋と適当な服を与えられた支子は、少しばかり戸惑った。しかし、業者が入れ代わり立ち代わりした部屋のお披露目を、「じゃじゃーん」と幸二郎が腕を広げ、どうだと言わんばかりのしたり顔でするものだから、支子は軽く溜息を吐きながらも笑い『ありがとう』というカードをホワイトボードへと張り付けた。
 幸二郎はそれに満足そうに笑った。


 目隠しは本当に世界を隠してしまうものではない。僅かに透けて見えるその視界は、開く扉をしっかりと捉え入ってくる男を見とめた。
「……具合はどうですか?」
 少し平坦なような、心配そうな声色だった。幸二郎は左右で僅かに違う足音を立てさせながら部屋へと入り、明るい部屋でニコリと穏やかに柔らかく笑い支子を見下ろした。腰のベルトに付けた鍵が動く度に僅かに音を立てる。
 支子は幸二郎の言葉に応えない。黙ったまま、身じろぎもしない。しかし、その呼吸は僅かに上がっているのが見て取れる。
「うーん……、少し、辛そうですね……布団を使って寝ないから……」
 幸二郎は、フ、と小さく空気を洩らすように笑う。支子はやはり、その言葉にも反応しなかった。ただ少しだけ脚を動かすと、僅かに音がする。壁にもたれかかる支子の脚には枷が嵌められていた。それは壁に繋がっており、太い鎖で作られた頑丈なものだ。
 支子は此処に閉じ込められていた。
 返事がないのを気にしない幸二郎は、そのまま歩みを進め支子の前で膝をつき、手に持っていた小さな長方形の箱を一旦おいた。そのまま右手で蓋を開ける。
 その瞬間、支子の手が伸びた。何の枷もない其の両手は幸二郎の両耳を掴み、引き寄せる。
「ぶっ!?」
 咄嗟に支子の両手に自分の手を伸ばした幸二郎の行動も虚しく、鈍い音がした。鼻に頭突きをくらった幸二郎は眼鏡をずらし、顔を仰け反らせ鼻から血を出しながら軽く脱力する。そのまま支子は胸に肘を打ち込んだ。えづきながら翻筋斗打ってカーペットへと後頭部を打ち付けた。
 素早く幸二郎の両腕を捻り、仰向けからうつ伏せに押さえつけ左手を箱へと伸ばし蓋を開ける。
 箱の中に入っていたのは小さな細い注射器と、液体のはいったもっと小さな容器。其れを左手に取りもがく幸二郎を押さえつける右手に持ち替え、左手で再び注射器を持ち上げ口でゴムのキャップを外し、容器の天蓋部分へと突き立てる。
 プランジャーを持ち上げていくと、注射器がその腹に液体を溜めていく。針を抜き取り、もがく幸二郎をより一層強い力でカーペットへと押さえつけ、プランジャーを今度は押し込み空気を逃がす。
 幸二郎はギリリと奥歯を噛み締め眼鏡の飛んで行った頭を動かし抵抗するが、蛇が獲物に噛みつくように、狙いを定めていた針がその首に突き刺さった。
 体が硬直し、動きが止まる。息を詰め、そのプランジャーから押し出される液体に目を見開いた。支子は押さえつける力を弱めない。何も言わないまま、少しばかりの時間が過ぎるのを待つ。
 首を噛まれ息絶える動物が痙攣するように、僅かに体が跳ねる。次第に強張っていたその体から力が抜けていく。カーペットに頬を付け、視線が緩く彷徨う。きっとその黒い瞳の、さらに黒い瞳孔は限界まで開き、散瞳しているのだろう。酷くゆるんでしまったその体と脳だが、呼吸だけは異様に早くなっていた。支子が首元に手を当てると、当然の様に脈拍も早鐘のようで、異様に早い。薬が効いている。ボロリと一筋零れた涙と鼻血がカーペットに染みを作った。
 支子は幸二郎の腰のベルトから鍵を抜き取り、震える手で其れを自分の枷へと持っていき、難儀しながらもようやく自身の足首を解放した。
 立ち上がるときに、僅かによろけたが支子は自分の両足でしっかりと立った。幸二郎の側を通り扉を開け、奥の部屋へと走りなにか武器になるものが無いかと漁る。出来るだけ使えるもの、拳銃か何か。自分の拳銃は一体どこへ行った?
 僅かに頭にもやがかかってるような感覚、手足の震えが酷くなってきて、なんだかとても恐ろしくなってくる。今すぐに何とかしないといけない。逃げないと、とにかく、これはきっと普通ではないはずなんだ。
 幸二郎の寝室へ入り、箪笥を引っ掻き回す。整えられ入れられた服の下には、何もなかった。他の引き出しも同じ、箱ごと抜き取り逆さにしても、落ちてくるのは小物や紙であって武器ではない。
 舌打ちをして部屋を出る、もうこうなれば包丁でいい、取り敢えず武装できればそれで。
 だが、後頭部に衝撃が走った。思わずぐらりと体が前へと倒れていき、膝をつく。振り向きながら後頭部へと手を伸ばせば、容赦のないそれは軽く血を滲ませていた。丁度大きく振りかぶりすぎて、グラリと体を傾け、不安定な体勢でなんとか両足を地につけた幸二郎がへらりと笑みを浮かべつつ鼻血を左手の親指で拭ったところだった。
「僕の体は外から見てわかる以上にもっとうんとずっとボロボロなんです」
 ちょっとだけ鼻が詰まった、あまり呂律の回っていない、舌っ足らずな子供っぽい声色。どうやら鉄の棒とそう変わらない義足の方で蹴られたらしい。
「僕の体、もって三年なんですよ知ってました?お医者さんがね言っていました体の中身を取り換えないと短くて半年だそうですよ、ふふふ。この体はもう薬を服用しまくってるんですもうじゃんじゃんつかってます湯水のように使っていますもう僕の体は薬の効果が酷く薄く成るほどボロボロなんです日常的な投薬のせいで」
 普段よりもうんと句読点の少ない早口だが舌が足りていない言葉。
 幸二郎の体はボロボロだった。
 度重なる過度な腹部への自傷行為と縫合、そしてそれが完治するよりも早く麻薬を刺し痛みを無理やり緩和し教壇に立ち、また自傷行為。もう幸二郎の体の中身は幸二郎の外よりももっとボロボロだった。
 乱れた髪、目の上にかかりそうな前髪を一度頭を振って払い、クスクスと幸二郎は愉快そうに笑う。僅かに溶けた脳は幸福感をもたらしている。其れが切れるのは彼の感覚的に言えば熱したナイフでバターを切るよりも早いが、今は少なくとも幸せ。
「ねえ支子さん何処に行くんですか?何処にも行かないでしょう?」
 幸二郎は子供っぽい笑みを浮かべ首を傾げて尋ねる。支子は相変わらず答えない。立ち上がり、腰を低くし構えを取り、床を蹴る。
 タックルするように肘を腹に入れれば、肺の中の空気を全て吐き出したのではないかと言う程、幸二郎の肺からは空気が押し出される。鼻血の勢いが一瞬増した。
 大きく後ろに倒れかけた幸二郎の襟を掴みそのまま廊下の壁に叩きつけ、幸二郎は軽く呻いてその壁に縋るようにしてゆっくりと崩れ落ちていった。
 支子は玄関へと走った。内側から鍵が幾つにもかけられているが、支子は今鍵を持っている。
 頭を押さえながら、鼻血を今度は手の甲で拭うと、幸二郎の真っ白なワイシャツの裾が少しだけ汚れた。
「痛くない」とへらりと笑った幸二郎がゆっくりゆっくり立ち上がり、手すりを頼りに玄関とは正反対、キッチンの方へと向かっていく。
 ガチャガチャと支子が玄関を弄る音がする。時々扉を叩くような音がするのはせっかちに鍵が開いていない扉を押しているのか引いているのか、本当に叩いているのかは幸二郎には分からないがクスクスと笑いながらキッチンの引き出しを開けて、袋に入った珈琲豆を幾つか手に取る。
 棚の上に置き、袋の口を開けるとふわっ珈琲の良い香りが広がっていく。もうほとんど止まった鼻血が出ている幸二郎はその匂いをかぎ取れないはずだが、嗅ぎ取っているかのように上機嫌そうに微笑んで、今度はミルを取り出し、豆をセットしてゴリゴリと手回しを回す。
 扉を叩くような音はだんだんと小さくなっていっていた。鍵を回す手がよほど震えているのかな?なんて思うと、幸二郎はまたクスクス笑いがこみ上げてくる。だって何もかもが今は酷く可笑しいのだから。
 しかし、ふ、とその笑みも一瞬抜け落ちる。無表情に豆を挽いていたがやがて、コーヒーメーカーをセットすれば、そのままシンクへと凭れかかり視線だけ見えもしない玄関の方へと向ける。
 扉をたたく音は止んでいた、しかし、扉が開いた音はしていない。
 支子は扉に縋るようにして蹲っていた。心拍数が上がり、暑くもないのに脂汗が額に滲んでいる。いや、寧ろ寒いくらいか。ガタガタと震え喉がヒューヒューと音を立てている。爪が扉を引っ掻いて音を立てた。頭を横に振り、額を扉に打ち付ける。


 幸二郎は酒に弱かったが、家で飲むのは嫌いではないようだった。それでも本当にとても弱く、すぐにいい気分を通り越して寝てしまうが、大抵の場合は上機嫌にクスクスとくすぐったい笑みを零し、ふわりと笑いながら耳打ちをしたがり、そして時に支子を踊りに誘う。
 男同士だとかを気にしない幸二郎に誘われる支子もまた、それを特に気にしなかった。
 けれど何時かの日、支子の帰宅が遅くなった日、幸二郎は一人で飲んでいたようだった。ただ、それが何時もと少し違ったのは、幸二郎が一人で飲んでいたことと、ぐずって泣いていたことだ。
 机に肘をつき、掌で目元の涙を拭いながら子供の様にぐずり、帰ってきた支子を見とめると「幸せですか」と訊ねた。ただただぐずぐずの声色で弱弱しくか細く掠れた声で声で「貴方は今幸せですか」と訊ねた。
 支子はそれに答えることができなかった。
 幸二郎は相変わらず子供の様にぐずっていた。


 カチ、っと小さな音がして、コーヒーの生成が終わったのが分かる。棚を開けティーカップを取り出し、ポットをメーカーから外し注ぎ入れる。矢張りいい香りがして、幸二郎の鼻がまともであればその薫りに思わずため息を漏らしたかもしれない。豆の袋を縛り、再び棚に入れて、さらに乗せたカップと共にダイニングへと出て、机にカップを置き椅子に座る。
 ゆっくりと緩慢な動きで右足を上にして脚を組み、くつろいだ様子でティーカップを手に取った。カタカタと震え、皿から持ち上げる前に音を立てて幸二郎はすぐに其れを下ろした。胸の高さまで掌を持ち上げて、開いて、閉じて、指先を伸ばして、強張らせ手を繰り返す。震える手はあまり言うことを聞かなかった。
 グッと拳を握り幸二郎は目を閉じる。深く深呼吸をして、耳を澄ませる。
 支子は扉に手を付いてゆっくりと立ち上がった。震える足で何とか床を踏みしめ、反動を付けるよう両手で、ふらりと、廊下の手すりを何とか掴み体を支えて、ゆっくりと弱弱しく、途中つまずきかけ、けれど確実に、珈琲のいい香りをくゆらせている玄関とは正反対のダイニングの方へと脚を進めていく。
 ふ、と幸二郎の頬が綻んだ。大きく息を吐き出して安心した様に拳から力を抜く。早鐘のようだった心臓も、震えも、少しましになったかもしれない。今回の事はちょっとだけ予想外だったが、大丈夫、何も問題はない。
 よろよろとリビングに姿を現し、そのまま覚束ない足取りで支子はダイニングテーブルまでなんとか歩き、机に手を付いて体を支えながら幸二郎の傍まで寄ると、とうとう支子は膝を折った。
 荒い呼吸、酷い汗で前髪が額にくっついている。目元は見えないが、その顔は蒼白だ。首も肩も汗でぐっしょりと濡れていて、黒い服がさらに濃くなっていた。
 ガタガタと震える手で幸二郎の組まれた足に縋る様に支子は「幸二郎……」と苦しげに、掠れた舌のもつれた声で喘ぐように言った。
 目を瞑ったままだった幸二郎はゆっくりと瞼を持ち上げ、ふんわりと笑い、右手に珈琲の黒い水面を湛えるティーカップを手に取った。
「喋らないでください。貴方の声は嫌いです」
 そう穏やかな言葉とともに、支子の頭の天辺から珈琲が滴り落ちていく。頭の天辺で跳ねた珈琲はカーペットや支子、幸二郎の服を汚していき、そのまま重力に従い落ちていく黒っぽい液体はそのまま目隠しに染み込んでいき、首や肩を伝って汗を吸っていた服を更に重くさせた。熱い、と支子は感じる。
 ふんわりとした微笑みを浮かべたまま、幸二郎はティーカップを後ろへと放り投げる。派手な音がしてカップが割れたが、支子の遠くなりかけている耳と脳味噌には大した衝撃を与えなかった。
 喋ってはいけないから、助けて、と支子の幸二郎の脚に縋る手に力が入る。スラックスをギュッと握り、少しでも体を持ち上げるようと首を伸ばし、幸二郎に顔を近づけようとする。だが、椅子の背もたれにリラックスした様子で凭れかかっている幸二郎の顔には、それではまだまだ距離が足りない。
 まるで月ほど離れているんじゃないかと支子は錯覚した。手が届かないんじゃないかと言う焦燥感は、とても恐ろしいものだった、口の中が異様に乾く、目も、目隠しがじっとりと重く濡れているのに、酷く乾いていた。喉が焼けるようで、飲み込む唾液がなくて舌の根が引き攣った。
「幸せですか」
 幸二郎が訊ねた。支子はいやいやをする様に首を横に振り、顎を幸二郎の膝の上に乗せる。ゼイヒューと喉を鳴らす。ギリギリと奥歯を噛み締めてフーフーと呼吸をしていたが、もう堪らないと言ったように舌を突き出して大きく息を吸って吐いた。幸二郎はそれをまるで暑さにやられた犬のようだと思う。
「僕から離れようとするからですよ、支子さん」
 幸二郎が言った。支子は顎を乗せたままだ。名前を呼ばれると少しだけましになるような気がしたが、それ以上に辛くて仕方がない。
「僕から離れるとそうやって、どうしようもなく辛くなるんですよ。兄さんの所に居た時だって、そうだったでしょう?」
 支子は確かにそうだったと靄のかかっている脳味噌で思った。確かに辛かった。どうしようもなく辛くて、でも幸二郎が来ると毎回それは緩和されて、幸せな気持ちになった。

 
 幸二郎は支子と一緒に暮らし始めて、暫くしてから、支子の食事に僅かにだが薬を入れるようになった。僅かな依存性のあるその薬は、切れてしまえば他と同じように不安感に襲われる。
 しかし幸二郎は気が付いた、もっと別の、なにか別の物による禁断症状が支子には確かに存在していた。しっかりと計算して薬を入れているのに、にも拘わらず全く別の時に禁断症状の様な兆候を見せることがあった。
 幸二郎は考えた、如何にかして、何であろうがその禁断症状から抜け出させなくてはならない、塗り潰さなくてはならないのだ。なぜなら、其れだと彼も自分も幸せになれないからだ。
 幸二郎の兄は現役の軍人だ。そして、彼は少しばかり色々な方面へと顔がきいていた。幸二郎の兄は幸二郎の提案を快く聞き入れた。また、その恋人も、承諾してくれた。

 支子は気が付けば見知らぬ場所に居た。本当に目隠しをされて、口には何かを噛まされている。体は両腕を前でクロスするようにして拘束されており、体全体が妙に重たかった。それが拘束具であったと分かったのはもう暫くしてからだった。
 妙に弾力性のある地面。支子は軟禁室に居た。上下左右すべての壁が柔らかい材質でできた部屋。幸二郎の兄は支子の耳に耳栓を詰める前に「暫く俺が預かりますから!安心してください、絶対に死なせません、暫く一緒に頑張りましょうね!」と朗らかな声色で告げた。
 支子は暫くそこに居た。酷いものだった、途中から気が狂うかのような焦燥感や、体の不具合。しかし、どんなに支子が喚いてもどんなに血を吐いても幸二郎の兄は甲斐甲斐しく支子の口にえづく程筒を突っ込み喉をこじ開け胃にドロドロとした栄養食を流し込み、汗を拭き、歯を磨き、弛緩剤を注射し下の世話をし体を綺麗にし、体が本当に壊れそうになればその部分を医者に診せ治療させ、死にたいと喚けば「幸二郎に会えばきっとそんな気分は全部吹き飛んじゃいますよ!」と朗らかに言うだけだった。
 幸二郎は時々支子に会いに来た、その時には必ず、きまって支子は幸せになった。幸二郎の声がして、唇に柔らかいものがが触れる感覚とわずかなリップ音。そして僅かに刺激を感じてから幸せになる。今まで死にたいと思っていたのが嘘の様にどうでもよくなり、幸せな気分を感じることができた。
 だがすぐにまた死にたいと思うようになる。幸二郎が居なくなればまた辛くなる。
 何時しか支子の脳内の懇願には殺してほしい、解放してほしいの他に、幸二郎に会いたいが追加された。
 
 幸二郎は自分の薬による禁断症状しか確認出来なくなった頃を見計らい、支子を自分の家に戻した。ただし、足に鎖を付けて、部屋に閉じ込めた。幸二郎は見れる時間ほど兄よりも短かったが、兄以上に甲斐甲斐しく支子の世話をした。
 支子は自由になった体で、まずトレーニングをした。しばらく動かなかったせいで体は少し細く衰えていたが、まだ若い肉体はすぐにかつてを取り戻した。だが、これが普通で居ない事は分かっていた。
 幸二郎は必ず口付けをしてから支子に薬を与えていた。そして、幸福感を感じている最中にも。
 支子は逃げなくてはと、まだこの時には思っていたのだ。


 今はそんな風には、到底思えないが。
 突き出した舌を幸二郎が左手の親指と人差し指でつまみ、引っ張った。クイ、と支子の上あごが持ち上がり、熱い渇いた呼吸が幸二郎の手を撫ぜる。
「僕から離れようとするからそうやってあなたは辛くなってしまうんですよ。僕から離れようとしなければ、あなたはそうやって苦しむことは無かったはず……、……そうでしょう?」
 軽く首を傾げて幸二郎が問うと、支子はゆっくりと、戸惑いながらも緩く首を縦に振った。
 幸二郎はふ、と微笑み背を丸めて顔を近づける。すると、支子も、ぐ、っと幸二郎の膝に置いた手に力を込めて体を少し持ち上げる。幸二郎は依然支子の舌を引っ張ったまま、笑んでいるだけだ。
 支子はじれったくなった、舌を離してくれないと口付けが出来ない。顔を振ろうにも舌がひっぱられてはまともに動かせない。いよいよ悲しいような酷く辛い気分になってきた。
 クスクスと幸二郎は耳にくすぐったい笑い声を零し、グリッと親指の爪を舌に突き立ててから手を離した。そのまま顔を落とし、ちゅ、と軽い音を立てて支子の唇に吸い付く。
 そうなったら今度は支子から噛みつくように吸い付いた、じんわりと指先が冷えていたのが温かくなっていったような気がして、それに幸二郎がクスクスと笑うのが、何だか得意気な気分になった。幸二郎は自分の前だとよく笑うから。幸二郎の唇は僅かに血の味がした。
 幸二郎は啄まれているような口元をそのまま、スラックスのポケットへと手を伸ばす。中から一枚、半透明の小さな四角く薄いフィルムの入った袋を取り出して、左手で支子と自分の口の間に指先を入れ、そのまま指の腹で支子の唇を押し顔を少し引きはなす。
「口を開けて舌を出してください、支子さん」
 支子は即座に口を開いて渇いた、けれどとても熱い舌を突き出した。幸二郎はその舌の上に、フィルムを乗せる。途端唾液が滲んできた。
 きっとその目隠しの下の瞳の黒い穴は、限界まで開いているんだろう。幸二郎は舌を出したまま惚けている支子の、その舌に柔く噛みついた。一度吸ってから口を離し「貴方の舌を噛み切ってしまいたいけれど、僕は支子さんが美味しそうに食べている姿を見るのが幸せなんです」と言い、再びその赤い舌に噛みついた。
 噛みつかれた舌はそれ自体がひとつの生き物かの様に幸二郎の歯と歯の間で痙攣した。鉄の味が幸二郎の舌の上に滲んでいく。別にそれを美味しいだなんて思う思考を幸二郎は持ち合わせていないが、一つ確かなのは支子は痛みを感じていないだろうと言うことだ。じゅ、と舌を吸うと支子が息を詰めてから吐き出すのが分かった。
「もう僕から離れよう、だなんて、思いませんよね?約束できるなら、好きにしていいですよ、支子さん」
 その瞬間幸二郎の景色は回っていた。背中に衝撃を感じて、軽く呻く。少しだけ目が回りかけて瞼が痙攣する。
 お預けを食らっていた犬が餌に跳びかかる様に、支子は身を乗り出し、椅子ごと幸二郎を押し倒していた。倒れた椅子を後ろ足で蹴りとばし、支子は幸二郎に馬乗りになり左手で自分のズボンのベルトを外しながら幸二郎のシャツの釦に手を伸ばす。
 だがなかなかじれったく、指先が言うことを聞かない。両手で殆ど釦を引きちぎるようにしてシャツの前を開き、そのまま首に緩く噛みつき、再び唇へと噛みついたりして幸二郎の体が僅かに赤く染められていく。やっぱり犬みたいだと幸二郎は想い薄く笑った。流石に鼻血を舐められた時は掌で顔を押しやったが。
 時折幸二郎もコーヒーの匂いがする支子の頭へと口付けを落とし、自分もスラックスのベルトを引き抜きボタンを外しチャックの留め金に手をかけたところで、腹の傷に舌を這わせていた支子がその手を止めた。幸二郎の手を掴んだまま、引き下ろす。自分で引き下げたかったのかと幸二郎は首を傾げる。
「あ゛っ……!」
 その首に再び支子が噛みついた。さっきと違い強い力で。幸二郎はカッと目尻を赤く染め反射的に喉仏を逸らせた。ギリギリと僅かにだが痛む首、素面であればもっと痛かったんだろう。
 その感覚、背骨が溶けてしまいそうな感覚は、満足感のようなものにとても似ていて、幸二郎はぎゅっと目を瞑り、その紅くなった皮膚の上を一筋涙が零れていった。








「支子さん、ちょっと僕、お手洗いに……」
 支子は隣の幸二郎の言葉に頷き、行って来いと言う簡単なハンドサインで示した。目印になる建物の前に立ち、ズボンのポケットに手を突っ込んで待つ。目隠しをしてストールで口元を隠したその格好は人目に付いたが、支子は其れを気にしなかった。、世間はもうすぐ春だ。
 幸二郎はその場を離れたが、幸二郎が支子を見ることのできる位置に居た。じっと様子を見て、手洗いに行く気配はない。
 支子は待っていた。だが、五分、十分と過ぎたあたりから、そわそわと落ち着きが無くなったように見える。ポケットから手をだし、腕時計を確認して、首元を指先で擦るように撫ぜて、再びポケットに手をつっこみ、すぐに手をだし時計を見る……。
 幸二郎はふ、と笑みを零し駆け足で人ごみをぬい支子の元まで戻り、支子が気が付いてメモ帳とペンを取り出すよりも先に、支子のスト−ルを引き下げ胸倉を掴み引き寄せ自分の唇と支子の唇をくっ付けた。強張っていた支子の体が楽になるのが分かり、唇を離し、「すみません……、珍しくこんでいて」と困ったような笑みを浮かべる。
 支子は気にするなとメモに書いた。人の多い場所では流石にホワイトボードは目立つのだ。
「うーむ……、じゃあ、行きましょうか」
 幸二郎がそう言い、再び並んで歩き出す。足の悪い幸二郎の手を支子が引いていた。
 今日は祝日、世間は少しだけ賑わっていて、大抵の人間は休みだ。この二人もそうであり、たまには何か買い物にでも行こうという支子の提案だ。
「ああ、そうだ、手術の日は、何の偶然か……僕の誕生日になりました。ふふ、成功を祈ってくださいね」
 軽い世間話の様な調子で幸二郎が言うと、支子はぎゅっと握っていた手に力を込めた。それに少し笑うと、短くなった幸二郎の前髪が少し揺れた。
「手術が成功したら、告白してみようと思うんです。だから、お祈りしてください」
 支子は答えない。幸二郎も其れを気にしなかった。
 二人が暮らし始めて三年がたった。医者はよくもったものだと呆れたように幸二郎に告げた。内臓を取り換える手術が失敗すれば、きっと二人ともが、支子の誕生日を迎えられない。
 支子の誕生日は、何方も知らなかった、だから適当に作った。夏の終わり、二人が初めて出会った季節を、くじ引きで。
 
 幸二郎はきっと自分は支子に恋をする事は無いだろうと思う。それに、恐らく支子も同じだろうと、勝手にそう思っている。だが、間違いなく愛してはいるな、とも思うのだ。そしてそれも恐らく、支子も同じだろうと、これも勝手に思う。
 
「支子さん、幸せですか」
 幸二郎が訊ねた。支子は少し立ち止まり、幸二郎が同じく立ち止まると振り返り、今度は頭を下げて、軽くその唇に吸い付いた。
 少しポカンとした表情を浮かべた幸二郎は、すぐにはにかんだように笑い「今日の晩御飯何が良いですか」と訊く。照れ隠しかと支子が口角を持ち上げると、「なんですか、早く行きましょう」と急かす。
 其れに喉を鳴らして、支子は再び幸二郎の手を引いて歩き出す。
 日差しが少しずつ暖かくなってくる。手の温度は心地よい。間違いなく二人は幸せだった。 


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A3宅の【撤退されました】支子さん。

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