タンゼマ

お借りしています
立川さん宅(@tachikawaaa)平岡君。
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 今すぐに食べてしまって一つになれたらきっとそれはとても素敵なことなのに。

(でもそんな事出来ないな)
 ふと烏弐は手に持っていた漫画から視線を外し、すぐそば、背中に感じる温度へと振り返り横になって寝そべり、背中を烏弐に預け同じように漫画を読んでいる平岡を見てそう思った。
 手に持っていた漫画を閉じ、床に置く。そのまま平岡の腰をまたぐように左手を後ろに付き、首を捻り平岡を見下げた。
「あンだよ」
 それに気が付いた平岡が漫画から視線を持ち上げ烏弐を見る。にこりと口元に笑みを画き目を細めている烏弐は鼻から「ンッフフフ」と含ませた様な笑い声を零した。
「本当にスキだなぁと思って」そんな言葉に普段からほぼ仏頂面に近い平岡はそのままの表情で口角を持ち上げ「俺の事が?」肘を使い仰向けに近い体勢をとった。
「他に誰が居んのサァ?」
 烏弐はそのまま左腕の肘を曲げて顔を平岡の顔に寄せた。平岡も肘を使い体を僅かに持ち上げ首を伸ばす。
 互いの、鼻と鼻が触れ合う距離。こつりと額を額を合わせ烏弐は目を瞑る。
「本当にスキ。ダイスキ。平岡君がスキ」
 目を開くと平岡はまっすぐ烏弐を見つめていた。もう少し顎を持ち上げて鼻の先で烏弐の頬を撫ぜ、顔をずらしそのままキスをする。
「知ってる」だなんて。そのまままたキスをする。
 烏弐は再び目を閉じた。平岡は依然烏弐を見つめたまま、一度唇を離し、少し間を空けてから「俺も好き」と小さく零す。そのまま、噛みつくように、いや実際、烏弐の唇に噛みついた。
(ああ……、照れてるんだ)
 少しだけ得意げな気分に烏弐はなった。烏弐は瞼を持ち上げて、今度は烏弐が平岡の下唇に噛みついた。容赦のないそれと、歯の形、平岡は小さく声を出した。
 軽い水音を立てさせて、烏弐は顔を持ち上げる。
(今舌の上に平岡君の血液がある。赤血球と酸素を運んでいた液体。彼の生命活動に必要だった彼の一部。バケツ一杯分抜くと死んでしまう液体。僅かに気泡が発生しただけで心臓が驚き死に至る大切なもの。容器を壊したら出てくる彼の一部。今飲み込んだコレは平岡君の血)

 今すぐに食べてしまって一つになれたらきっとそれはとても素敵なことなのに。
 でもそれは出来合ないのだ。三か月しか持たない上に、彼は将来軍人さんだ。それになにより、うっかり止まらなくて、平岡が死んでしまったら、烏弐はこの世界では生きていけない。

 僅かに切れた唇、平岡は下唇を舐め、自分の舌に付いた血を見つめてから、左腕で烏弐を押しやりそのまま肩を掴み、起き上がってそのまま烏弐を押し倒した。
 ゴッ、と床にぶつかった後頭部に烏弐が軽く呻き、平岡の動きに気が付いて静止するように目を伏せ右手で平岡の胸を押した。
「ダメ、ソコ見える」
 烏弐の腰の上に陣取り腰を下ろし、背を丸めた平岡は、烏弐の右腕と言葉にフッ、と目を細め眉根を寄せ笑みを漏らし「今更誰が、気にすんだよ」と。
 奥歯がギリリとなった。痛い。烏弐はぎゅっと目を瞑り顔を横に背けた。首に噛みついた平岡は烏弐の肩を掴み押さえつけたままだ。強いそれは、骨が軋むのではと思う程。
「っ!?ちょ、っと、平岡君?!待って、痛い!!痛いって!!ネェ!!」
 不意に烏弐は目を見開き平岡の下でもがくが、押さえつけられた肩と重い腰、平岡は噛みつき烏弐を押さえつけたままだ。
 このまま殺されるんじゃないかと烏弐は思った。それは一瞬の恐怖の後に、どうしようもない程に魅力的なものに思えてくる。
 漸く平岡が顔を上げた時には烏弐の目尻には軽く涙が浮かんでいた。平岡は親指で唇の血や唾液をふき取り不敵に笑う。
「……首輪とかつける?」
 烏弐は首を掌で押さえ「要らない」と。そのまま平岡の首にもう片方の手を伸ばし「オレも噛んでいいカナ」と訊ねる。平岡は「見えない所にな」と返し烏弐はケラケラとそれに笑う。
「ズッルイ!オレ明日学ラン前閉めないとジャーン!」
「誰も気にしねぇよ」
「オレがする!!」
 平岡は再び頭を下げて、不満を垂れる烏弐の口を塞ぐ。
 しかし、そのまま烏弐が平岡の口の中に舌を突っ込めば、平岡は途端、先ほどの首根っこを噛まれていた烏弐のように大人しくなり、烏弐が首を伸ばす分だけ平岡は逃げる様に頭を持ち上げる。
 やがて烏弐は後ろ手を付き状態上体を持ち上げるまでに至った。唇を離し、平岡の様に不敵な笑みを浮かべ「今晩、寮長、居ないらしいヨー?」と言えば、カッと赤くなっていた平岡は口元を手で多い隠し「そうかよ……」と小さく言葉を返すだけだ。
「ネ、あのね、君がスキ。愛してるノ、食べちゃいたいくらい、ホントだヨー」
 食べたいくらいに君がスキ。今すぐに殺してしまいたいくらいに君がスキ。でも君に殺されたいから殺さないし君の居ない世界では生きていけないからやっぱり殺さない。君を食べて一つになれたら素敵だと思うけど、まだ、
「……知ってる」
 平岡は再び烏弐を押し倒した。しかし今度は優しく、ゆっくりと。
 再び頭を下げるが今度は首ではなく、烏弐の耳元に。
 ささやかれる言葉に顔を赤くした烏弐はそのまま平岡に抱き付いた。

 まだ、我慢できる。

(それにもう、腹は膨れちゃったもんネー)

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