本日ハ晴天也

死ネタ注意なイフの世界。さっくり短い非戯曲的な話。

------

「ターーーッチ!!でんでござる!!ハッハー!!ワーンミニッツ数えなさーい!」
「うわーーーっ!捕まっちゃった!!」
「情けないネー、ドロコージ捕まらないヨー」
「うぉあっ貴様どこから出てきたんだ!!」
「うわあああああびゃっこぉおおおお!!!!」
「コーウちゃんでーん!!」
「何だかお腹すいてきちゃいましたねぇ……」

 澄み渡る空の下、その世界はとても輝いていた。良く晴れた日、仲のいいメンバーで集まって隠れ鬼ごっことやらをしたのだ。
 鬼にタッチされたら60秒数え、誰かをさがす。みなそうそうに見つかることがなく、難しいゲームだったがいい運動になり、尚且つ、楽しかった。
 へとへとになるまで動き、最後に皆で集まって平和があらかじめ買ってきてクーラーボックスへと入れていたスポーツドリンクを飲んで、そう、間違いなく、
 その世界は輝いていた。




 普段一人で行動している郷地香蘭を呼び出したのは平和だった。
 次にこんな作戦を計画しているのだが、どうだ。そう訊ねた渡部白虎の言葉に平和は笑顔でうなずき、そのまま顎に指先を当てトントンと軽く叩きながら、コーランさんも誘っては?きっと成功率が高まります。そう言ったのだ。
 結果、渡部により集められたメンバーは白内光、渉、平和、郷地、泥小路となった。

 良く晴れた日、雲一つない、肌を焼く光の照り付ける昼。
 作戦決行時、程よい緊張が皆を包んでいたが、それがピリピリと行き過ぎたものへと変わる前に引き寄せるのは泥小路と平和で、渉に至っては緊張のきの字すら知らないかのようにコロコロと笑う。
 そして、約束の時間。平和は皆にハイタッチして回った。渡部はしぶしぶ応じ、白内は戸惑いながら、渉と郷地と泥小路はイエーイと気前よく。

「Good luck! God bless you guys!」

 眩いばかりの笑顔でそう告げた平和がストールを持ち上げた時には、その緑の瞳に先ほどまでの快活な色はなく、割れてしまいそうなエメラルドの理性的な鋭さが宿っているだけだった。



 それはちょっとした“不運”の連鎖だった。
 まず切欠となったのが要となる渡部の無線の故障。
 指示を煽れなくなった陽動の為に動いていた平和と郷地は身動きが取りにくくなり、渉は返事がない無線を放り棄て持ち場を放って渡部の下へと駆け、白内は不安により動けなくなり、一人でカバーできなくなった泥小路のヘルプに平和が向かい、数と場所が悪く窮地に追いやられ何とか二人逃げ切るもそこではぐれ、白内、郷地、泥小路との無線も通じなくなり、平和はその緑の瞳に感情の色を取り戻させてしまった。
 焦りを。恐怖を感じる。それは不必要なもので、間違いなく少なくとも今この時は持ち込んでいはいけないものだった。

 だが、幸運にも、そう、幸運にも、平和は郷地を見つけることができたのだ。
 路地裏の角に立つ郷地を。

 だから声をかけた。無線が通じない今は、距離がある今は、声をかけることでしか存在を示せないからだ。

「コーランさん!無事でしたか!」

 平和の声に郷地は、そちらの方へと顔をむけ少し安堵した様に肩の力を抜いた。安心した様に平和もほっと無でをなで下ろす。


 それらは何処までも自分に正直に感情的で、かけらほども理性的ではなかった。


 風を切る音がまるで聞こえてくるかのようだった。ゴーグルの向こうの世界で彼女の頭が弾かれずれる様に一度大きく動き、狙撃銃の威力をもってしてヘルメットを突き破った矢が酷くおかしなものにさえ見えた。

『そんな』

 口から零れた言葉はやはり感情的で、どうしようもなく、信じられないという色がドロドロに混ざっていた。
 崩れ落ちた彼女の、目の前の光景が信じられず、脳味噌はあまり正常に機能しておらず、角から飛び出してきた目映い白い制服の影に反応する事が出来ずに、発砲音の次の瞬間には体に衝撃が走り膝をついていた。
 感情的な、素直な痛みの悲鳴が平和の口からついて飛び出し、その間に今度は腿に矢が刺さる。膝を狙わなかったのはシールドがあったからだろう。

「ナイスだリトルミス、流石だな。頭を狙わないでくれてありがとう」
「ローレンスさん、その呼び方止めくれんか」
「ごめんなさい、レディトミコ」
「……もうええです」

 角から出てきた白軍の制服に軽く防護具を付けた青年は朗らかな気さくそうな口調と声色で隣に立つ兵士の格好をした幼そうな、声で分かる低い背の少女に言葉を投げる。
 呆れた少女の言葉、その間にも青年は平和のもう片方の脚の脛を大型のボウガンで撃った。
 倒れた平和が両腕をつくと、今度は少女のアサルトライフルが火を噴き肘の肉と骨を抉り砕いて行った。そのまま腹と胸入った弾丸に平和は咳き込みながら血を吐く。酷い痛みと熱と寒気、頭痛がしてくるようだ。いや、しているのかもしれないけれど。それが何によるものなのかわからない。

「じゃあ都三子、別のとこにも呼ばれとりますけん、此処の制圧任せました」
「了解。御武運をレディトミコ!」

 少女は平和と郷地を一瞥するようにゴーグルとバラグラバで隠された顔を動かし、軽く青年の背を叩いて警戒するように銃を構えながらその場を離れていった。
 青年は倒れた郷地の腕をつかみ、ずりずりと引き摺りながら平和に近づいてくる。

「よーうDJ、てめぇザマァねぇな、此処で出会いたくなかったよ」
「ヘイ、タケオミ・アルフレッド・ローレンス、俺も、同じ、気持ちです」
「あっそ。嬉しいねぇー。くそっ、なんだこいつ馬鹿にでけぇな、ほらよ」

 ローレンスと呼ばれる青年は皮肉った様な笑みを浮かべながらも、途中体の大きい郷地の死体に舌打ち一つ零し平和の隣へと転がした。
 腕もつけず、口元のストールを真っ赤に染める平和の頭をローレンスは踏みつけ、愉快そうに喉を鳴らす。

「お前、友人は選ばねぇと、来世でもこんな風に死んじまうぜ?」

 踏みつけたまま身をかがめ、平和の体にいくつも巻かれているベルト、それに装着されている拳銃やらナイフやらを引き抜いていき、そのナイフを使い平和のバックパックを切り取り丸腰にする。
 ローレンスが立ち上がったところで、タイミングよく無線が飛んできた。平和にではない。

「なんだよ?オーバー?」

 無線をとりインカムに手を当て、軽く目をそちらに動かしながら無線の内容を聞いていたローレンスの口元に再び笑みが浮かぶ。

「待った待った、それもう一回言ってくれ」

 ローレンスは無線機をいじり、インカムではなく無線機そのものから音が出るようにすると、音量を上げた。

『國道です、繰り返します。金髪の黒い肌の少年の死亡確認、紫の瞳と瞳孔を確認しました、安達君からの報告の少年で間違いありませんね?どうぞ』
「うんうん、間違いないですよ、エクセレン。ドーモねフミアキ。申し訳ないです何時もの班からリトルミスと一緒に引っこ抜いちゃって。あとでその死体回収しますから」
『了解、お気になさらず、任務ですから。索敵に戻ります、どうぞ』
「了解。……ッつー訳だから、お前のとこの駒減ったみたいだぞ。モグラたたきも楽じゃないね。お前の後を付けてる時寿命が縮みっぱなしだったって安達言ってたなぁ。安達みたいに白に情報流すならまだしも逆は頂けないねブラッディ・ワンカー」

 平和は信じられないとでも言いたげにもがいた。それでも痛む軋む頭がローレンスの靴底から逃れること撫できない。
 しかし、足音が聞こえた。土を踏む音、少々重たそうなそれは、もしかして、あの鋼鉄の脚に機械を仕込んだ彼女なのではないか。

「おっ?」

 そう思った。

『流石にコレ重いなぁ、全員は無理ですよ』
『そうかい、残念だなぁ、裏切り者は吊るし首か火あぶりだろ?海賊とかテロリストとか。電気椅子でもいいけど』

 だが幸運はそう続かない。その幸運だってすぐに弾けた、隣にはすっかり夏の日差しに焼かれている死体が一つ転がっているのだから。焼けつくような日差しが、たまらなく心の中と正反対でこの世界に不釣り合いに思えた。じんわりと涙が滲んでくる。
 ローレンスが平和の頭からようやく足をどけた。少し距離を置くように後退り、お疲れとでもいうようにひらありと手を振った。

『もう亡くなっているのに、そんな、むごい事。死した時点で、後の事は神の審判に委ねるのです。僕たちが手をだすものじゃあない』
「死んだらそれまでで残ったモンは生きてるやつのモンさ、お前の言う魂がどう裁かれようが俺はしらねぇが、せめて死体だけでも捌かないと気がすまないね」
『今の上手、わざわざ日本語で言うことでもないと思うけど』
「座布団持ってきてー。つーかもう日本語でいいよ面倒くさいから」
 
 担いできた荷物で服を赤く染めた安達はその穏やかそうな顔をあきれ顔へと変えローレンスを見つめ、首を横に振り、荷物を平和の目の前に放り投げた。軽い其れは転がり、本当に平和の目の前で動きを止める。もう瞬きをしない赤い瞳が、胸を引き裂くようだった。

『あ、あ、……わ、ワタル、さん、そんな』
「流石に金髪のお兄さんは無理でした。それに、もう一人の女の子。彼女の脚、あれ何なんですか?重くてとてもじゃないけど運べませんでしたね。最後までその子と仲が良さそうだったので、出来れば引きはがしたくなかった」
「まぁ二人いりゃ寂しくないだろ、ほらとっととかけて。どーでもいいけどその子ワタルってんだってさ、アダッチーと名前一緒じゃん。お前も死ぬかもねー、わたるん」
「不吉な事言わないでください」

 申し訳なさそうな安達の言葉は平和に届かない、そもそも届けるつもりもあまりないのだろう、ローレンスの言葉に安達は頷き、渉と一緒に持ってきたポリタンクの蓋をあけ、平和と郷地、目の前の渉にその中身をかける。
 ツンと鼻と目を刺激するその液体が、ガソリンであるとすぐに分かった。

「なぁDJ、お互い運がないよなぁ。俺来世じゃ戦争なんてしねぇよ、神に誓って」

 ローレンスは懐から煙草を取り出し、口に咥え空の左手を持ち上げ親指と薬指を曲げその先端をくっ付けるようにして、残りの人差し指中指小指を立てた掌を平和へと向ける。そのまま左手に煙草の箱を持ち替え右手で親指と人差し指と中指を合わせ、十字を切る。
 左手の煙草の箱の中からジッポを取り出し、火を付ける。
 その瞬間安達が横から其れを奪い取り自分の口へと運んで行った。あっ、と不満そうなローレンスだったがすぐに付けっぱなしの火種を軽く振り笑みを浮かべた。
 ゼイヒューとか細い呼吸をする平和は、何もしなくても次期に死ぬだろうことは容易にわかる。だがその人見は依然感情的に、ゴーグルの下で憎悪とも取れる質をローレンスへと向けていた。

 其れに構うことなく、パチン。と、まるで何かが弾けるような音をたてジッポの蓋が閉まる。ローレンスはさらに後ろへと下がりながらも平和を見下げたままだ。
 平和は安達へと視線を移す。紫煙をくゆらせ鼻から吐き出すその様は酷くて慣れて見える。咽る様子もない。
 安達は最後に一度大きく吸い込むと、まだフィルタまで半分ほどある煙草を、ピッ。っと。指先で弾いた。
 数秒の間をおいて、世界がオレンジ色に包まれた。
 嗚呼、燃えているんだと、どこか現実離れして思う。だがこの熱は、痛みは、紛れもない現実なのだと、目の前の死体と、隣の死体が告げている。

『いや……嫌だ、嗚呼神様、なんてこと、主よ、お願い、俺から友人を奪わないで、おねがい、俺から友人を奪わないで……』

 涙があふれてもそれは頬を伝う前に消えてなくなる。声を出そうにも炎に焼かれ穴が開いている肺はなんの役にも立たない。
 碌に動かない体を動かして、郷地と渉に手を伸ばす。けれど、すぐにそれは地に落ちた。

「あばよベケット。お前は俺が知ってる中で最高にクールだったが、まぁ、……Hasta la vista, baby」

 ローレンスは有名な映画の句を倣い、ゆっくりと脚を動かし平和とその友人らに背を向ける。安達もそれに続き、平和とその友人らを見つめながら背を向け、歩き始める。

 オレンジ色がたなびく世界で過去を夢に見た。
 それはとても、眩しいくらいの世界で、もうほとんどなにも見えない視界の中で最後に空を見た。





 体が酷く怠かった。しっかりと自分が立っていることに驚いた、不安な気持ちになったが、すぐに、ほっと安心する。

「コーランさん!!マッドマンにタイガーリリー、ワタルさん!」

 見慣れた顔ぶれがそこには居た。もう感情的になっても大丈夫だと理解していた、明るい声色で呼びかけ駆け寄り、ぎゅーっと皆に抱き付いて行った。

「案外早いな」

 渡部が不満そうな声色で言う。

「残念ですけどみんな揃って結果オーライじゃないですか?」

 少し天然な風な言葉を渉が言い、渡部は結果オーライもあるもんかと眉根を寄せた。

「で、でも一人ぼっちって、さみ、しいし……」

 白内はもじもじとしながらも渡部にそう言い、睨まれ視線を逸らした。

「オーウ、ドロコージやり残した事いぱいアルヨー、とっても悔しいヨー、バケて出るしかねーデス、うらめしやー」

 泥小路が不満そうな色を含ませながらもいつもの調子で、淡々と。

「私もまだまだやりたいことあったー!!もーー!!心残りばっかり!!まだ十代の乙女なのにー!!」

 郷地が泥小路の言葉に頷き、悔しそうに地団駄を踏む。平和はそれらに笑みを浮かべた。胸の内がとても暖かく、恐れるものは何もないと感じるほどに。

「そろそろ行くか」

 渡部は腕を組み、はぁ、とため息をつくと顔を上げ、皆を見渡した。
 それに皆頷き、振り返らないまま歩き始める。

「これから先どうなるんでしょう?お腹とか減るんでしょうか」
「えー?分かんないけどなんか、なるようになるさ!!」
「香蘭さんかっこいいー!」
「えへへー、ありがとう光ちゃん!」
「ドコロージ雲の上はねてみたいヨー」
「おーメルヘン」
「雲は水蒸気の塊だぞ」
「うふふ白虎さんったら夢がありませんねぇ」
「放っておけ」

 やいのやいのと言葉を交わしながら進んでいくなか、不意に、後ろから引っ張られるものを感じた。平和はそれでも脚を進めようとするが、頑としてして動かなかった。それは渉と泥小路も同じらしく、立ち止まってしまった三人に振り返った残りの三人が怪訝そうな表情を浮かべる。

「どうした?」

 渡部のその言葉に、平和の隣の渉が酷く傷ついたような顔を、見せたような気がした。相変わらずその顔には柔らかともいえる笑みが浮かんでいる。

「いえ、ちょっと先に行っててください、つかれちゃったみたいです。すぐに追いつきますよ!!音速で!」

 平和は笑顔でそう言った。郷地はふーん、と不思議そうな顔をしたまま、先輩がそういうならー、と渡部と白内の背を押して

「じゃーピース先輩!渉ちゃん!ドロちゃん!!また後でねー!!」

 振り返りにこやかな笑顔と言葉、それを平和も手を振って見送った。三人の姿はすぐに見えなくなってしまった。
 体が動くようになり、平和は渉の頭に手を乗せ数回撫でるようにポンポンと叩き

「泣いていいですよ」

 と短く告げる。
 堰を切ったように渉はその場に崩れ落ち、ボロボロと涙を零した。平和はそんな渉を緩い力で抱きしめてから、背と膝の裏に手を回しお姫様抱っこの要領で持ち上げる。

「ヘーイ」
「ウワァオ!!オー、驚き桃の木、心臓が止まった!!」

 その直後、泥小路が平和の背に跳びかかり、渉を抱いたままのなんとか持ちこたえつつ泥小路に抗議するような声色で、しかし笑顔で冗談めかした。

「落ちないでくださいよ、ぐえっ、首!首が!」
「愛デスね」
「愛が苦しい」

 ぎゅーっとしがみ付く泥小路と平和のその漫才のような掛け合いに、ぐすぐすと鼻を鳴らしながらも渉は小さく笑みを浮かべた。それに安心したように平和は目を細める。

「じゃあ、俺達も行きましょう!」

 力強い平和の言葉に渉と泥小路も頷いた。
 二人分の重みがあれど、脚は簡単に動いてくれるもので、進むべき道も分かっていた。この三人が向かう先は決して明るい日の当たる場所ではないが。それでも。
 もうこの脚が動かなくなる事は無いだろうと確信していた。






























































 澄み渡る空の下
  オレンジの炎に抱かれて

    
    そんな白昼の夢を見た。





------
お借りしました。
秋浩さん宅【撤退されました】香蘭ちゃん
ヤシンさん宅(@Ys_gakusen)泥小路くん
シロちゃん宅(@shiro_gakusen)渡部参謀、白内くん
A3宅【撤退されました】の渉さん

[ 前項 /目次/ 次項 ]







タップで読むBLノベル
- ナノ -