ア、ツト言フ間ニ

うちの子が死んでいくだけのイフ


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ヤシンんさん(@Ys_gakusen)宅の御幡先輩。


「スナイパーッ!!」

 空気を裂くようにして響いたその声に皆が一斉に伏せた。物陰へと移動し、その狙撃から逃れようとする。

 ひとつ過信していたのかもしれない。警鐘を鳴らした目の良い彼女は恐ろしく優秀で、まだあどけないほどに若く、なによりもこの世で最も大切なものはこの手を離れていかないのだと。そう思っていた。もしくは考えないようにしていたのかもしれない。

 珍しくバラグラバを付けていないその口から、ゴポリとあふれ出る液体を御幡は見た。少女はそのまま震える手を口元まで持ち上げてせき込み、そのまま背中から倒れた。

 気が付いたときには駈け出していた。倒れた彼女の体を低い姿勢で抱え物陰まで走る。ゴーグルを持ち上げ左胸の傷を押さえて激しく名前を呼ぶも、血のあふれ出るその口から音が出ることはない。出したくても出せない様だった。
 温度を失っていくその紫の結晶から溢れた滴が頬を伝っていく。
 あふれ出る血が手を染めていくことにも、その温度がひえていくことにも、ほんとうにただの結晶のようになりつつあるその紫の目に吸い込まれそうなことにも。すべてに恐怖した。

「狙撃手沈黙!!」

 味方の声がする、敵の狙撃種は落ちたようだ。御幡は恋人の瞼を閉じさせ、そっと地面に横たわらせる。
 唇を噛み締め立ち上がり、強く得物を握りしめ、その翠玉の瞳にかつてない鋭さを宿らせた。


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ヤシンさん(@Ys_gakusen)宅の小坂くん、御幡先輩
シロちゃん(@shiro_gakusen)宅の村瀬くん
あひるさん(@77_anko)宅の臼井くん



 狭い路地、迷子になった。小坂は死を覚悟した。正確に言えば覚悟なんて微塵もしてないが、死ぬのだろうと正しく恐怖していた。
 しかし、無線から飛んでくる「諦めたらどつき回す」という少女の怒号と、同じく「諦めるな今國道くんがそちらに向かっている」という昔馴染みの従兄弟の言葉。そして「今ポイントに人は少ないようです」と状況を伝える少年の声、「了解、回収に向かいます」という部隊長を務めている先輩の声。
 其れら全てに、安心してしまっていた。

「小坂くん!!」

 ドドドドドという馬の蹄の音に安堵した。何時になく真剣な面持ちの國道は得物を背に回し、右手を伸ばし小坂の腕をつかむ体制をとった。小坂は遠くから向かってくるそのタイミングに合わせて同じように手を伸ばす。
 もう掴める。その瞬間國道は体制を崩し、愛馬から落ちた。慌てて駆け寄ろうとする小坂に、地面に赤黒い沁みを広がらせつつ、強く打ち付けた右肩を押さえ眉根を寄せ歯を食いしばる國道は鬼のような形相で叫んだ。

「下がれッ!!」

 ビッ、っと小坂の頬を弾丸が掠めた。胸につけていた無線機の横に穴が開いた。フリーズする思考。國道は一度血を吐いてから飛び起き小坂を、壁際へと突き飛ばした。その國道の体に、二つ目の穴が開く。

「春駒、あとは、頼んだ」

 壁際に突き飛ばした小坂の頭を押さえつけるようにして、さらに覆いかぶさるようにして國道は、小坂に囁くように言った。しかしこれは小坂に向けた言葉ではない。國道が落ちた時点で何処かへと走り去った愛馬に向けてのものだ。
 軽い発砲音が響く。じわじわと自分の服が、他人の血で重たくなっていく感覚に小坂はただ震えていた。
 しかし不意に小さな悲鳴と共に発砲音が止む。それでも小坂は暫く動くことが出来なかった。震える体に覆いかぶさる先輩の体に自分から触れることが出来なかった。

「ねぇ、君、大丈夫?」

 呑気な声と共に視界が明るくなる。ドサリと地面へと倒れた國道を気にせず、柔らかな茶髪の青年は、小坂に朗らかな笑みを浮かべて手を伸ばす。白の生徒のようだ。たしか、國道とあまり仲の良くなかった先輩。
 その手を取ることが出来ないでいると、青年はふっと笑みをけし小坂の胸倉をつかみ立ち上がらせた。

「馬。乗れるよね」

 そんな言葉とともに、蹄の音がする。先ほどよりも軽い音。
 春駒はしっかりと危険がなくなってから主人の元へと帰ってきた。春駒は一度、地面に倒れた國道の匂いを嗅いで、頭を持ち上げる。その姿勢は凛としていた。
 舌打ちと共にしゃがみ込んだ青年が國道の得物に結ばれた紐をほどいている間、小坂は放心しているしかなかった。

「ほら、手、伸ばして」

 春駒へとまたがった青年はイイコイイコと春駒の鬣を左手で撫でつつ、國道の得物の飾り紐がグルグル巻きにされた右手を伸ばす。
 小坂はようやっと、その右手を掴んだ。


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立川さん(@tachikawaaa)宅の平岡君
A3(@gesokara240)宅の語君(馬屋)
ひろさん(@kikaku108)宅の小夜子さん(堺)
ときわさん(@tokiwa_2ss)宅の浩太郎くん(八坂)


 作戦決行前、なにやら烏弐と八坂が話し込んでいるのを、馬屋は物珍しそうに見つめていた。なかなかに珍しい取り合わせだ。
 驚いたような表情だった八坂はやがて頷き、烏弐はその肩を叩いて何か礼を言っているようだった。


 この人の少ない小隊と呼べるのかも怪しいとされる、第壱〇貮小隊の救護班など、ほとんど戦闘員として駆り出されているようなものだ。いつかそんなことを烏弐が言っていたような気がする。
 地面に臥した烏弐は震える腕で肘をつき上体をと右手を持ち上げその仕込み銃の引き金を引いた。それを合図にしたかのように、全ての敵が倒れたようだった。
 馬屋はツムギから飛び降り烏弐の元へと駆け寄る。抱き起した烏弐の横腹には大きな穴が開いていた。近い距離からの散弾は意図も容易くその肉に入り込み抉っていったようだ。

「きゅ、っご、班が、怪我してちゃ、世話っ、ないよ、ネー……」

 自嘲気味なその笑みと言葉と共に、血がわずかに口端から溢れだした。馬屋は「喋るな」と短く言い思い切り烏弐の傷を押さえつける。それに軽く悲鳴を上げ眉根を寄せる烏弐に構うそぶりはない。
 血が止まらない。

「馬屋。そろそろ行くぞ」

 堺が静かに二人を見下ろして言った。その言葉に馬屋は弾かれたように顔を持ち上げ堺を睨み上げる。その視線に臆することなく堺はただ静かに見下ろすだけだった。

「烏弐を置いてけってのかよアンタ」

 食って掛かる馬屋の襟を烏弐が掴んだ。もう無理だとその表情が物語っているようで。
 如何して。如何して笑ってないんだいつも不気味なくらいに笑顔を浮かべているのに。酷くしおらしい顔して、らしくない、あっちゃだめだ

「待て、待てよ、お前が死んだらオレ平岡にどんな顔すればいいんだよ!!オレが殺されちまうだろうが!!」

 そう行っても烏弐は弱弱しく笑うだけだった。違うそういう笑顔が欲しいんじゃない。

「ごめ、ちょっと、……ッ、っふ、おねがい、持って、……持って、帰って」

 烏弐は掴んでいた襟を離し、馬屋の胸を叩くようにして何か言葉を落とした。そのままカクリと首が落ちる。馬屋に弱弱しく呼吸の振動を伝えていたその体はもう動かない。血が服に沁みていく感覚に現実感なんてものはなかった。

「馬屋先輩、ちょっと、すみません先輩借ります」

 ここで事を静かに見守っていた八坂が動いた。ヒョイっと馬屋から烏弐を取り上げ、少し離れた地面に横たわせる。そのまま左腕を少し伸ばすようにして、自分のその大きな、斧の得物を振り上げた。
 馬屋が静止する前にその刃は叩きつけるようにして振り下ろされ烏弐の左手首から先を切断した。その“左手”を広い上げ、八坂は馬屋へと軽く曲線を描かせるようにして放る。

「先輩に言われてたんです。近くで死んだら左手馬屋先輩に渡してほしいって。あとは言わなくてもわかるって言ってたんですけど、先輩分かりますか?」

 ケロっとした表情の八坂にとって烏弐はもうすでに過去なのだろう。
 馬屋は絶句したまま立ち上がり数回頷いた。これが俺の“顔”か。ああ、全く。平岡も納得するんだろう。そんなのくそったれだ。

「行くぞ。無駄な時間を食い過ぎた」

 堺は生きてその体で駆けることが出来る二人へと告げ、一人先に背を向け歩き出す。その目頭が熱を持ち、下唇を噛み締めるのを悟られないようにした。


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かがちさん(@0711HaHaKi)宅の朔さん(笹山)


 ザク、っとその黒い学ランの胸から刃が飛び出した。軽く胸を突き出すようにして背を逸らせたその体がわずかに震え、面の下からくぐもった息を詰まらせせき込む音がした。

「貴方随分と良かったですよ、なかなかしぶとくて、とても楽しめました」

 背後から笹山は笑顔でそう告げた。この黒式尉の面をした彼にこの言葉が聞こえているのかは分からないが。

「でももうそろそろ飽きてきたんですよね。ねえ最後に顔、見せてくれませんかね」

 ず、っとさらに引き裂くようにして刀を抜く。そのまま、面の紐に手を伸ばし、すっと引っ張る。するりとほどけていく紐。
 男の体は先ほどとは逆に背を少し丸めるような形となり、ふらりと一歩前に踏み出し、踏みとどまった。それに少しばかりの感心とともに目を見開いたところで、面の男が動いた。
 ガッと笹山の首を掴み地面に叩きつける。最後の馬鹿力という奴だろうか、少しばかり油断していたと思う間もなく、その右腕に面の男の黒塗りの日本刀が突き立てられた。思わず呻くと、次にずっしりとした重みを感じる。
 落ちた面の下のその酷い火傷の痕が残る顔は笑みに彩られていた。

 男の腰に括り付けられた手榴弾。手の中で既に安全ピンの抜かれたそれが、その指が離れ……――。


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A3(@gesokara240)宅の担先輩
丹波さん(@tambaback)宅の伏見先生
のっさま(@nnmy_ssrn)宅の篝先生(清木)
かげ親さん(@formaggio_gs)宅の水嶋先生


「だから何故お前は珈琲にチョコレートなんぞぶち込むんだ」
「うーむ、……すみません、先輩」

 眉根に深く皺を刻んだ担は、すとんと隣の席に座った三上を睨みつけた。当の三上はと言えばほぼ無表情に申し訳程度の申し訳なさそうな言葉を落とすだけ。
 やれやれとブラック珈琲にチョコレートがぶち込まれたそのマグを持ち上げて担は一口其れを飲んだ。
 最早慣れ親しんできてしまった味。それでもほっと一息つけるだけまだマシか。いつかに聞いた言葉では「甘い物をとるとイライラしなくなるっていうじゃないですか」だなんて尤もらしいことを言っていた。それならチョコレートをそのまま渡せというと、笑ってはぐらかされたあたり、自分はもしかするとこいつに大概甘いのではないかと思う。

「担先生は甘いものが嫌いなんですか?」
「そう言うわけではありませんが」
「私は、三上先生の淹れてくれた珈琲の甘みが丁度よくて、先生の珈琲しかもう飲めない気がします」
「それは少し大げさなのでは?」

 向かいの席の同じ学科を担当する水嶋教官は、その強面と裏腹に穏やかで、甘いものを好む一面があるようだった。三上を褒めるその言葉に、少し苦笑いを零してから隣の本人を見ようとして、

 パキッ。と小さない軽い音がした。

 担がその音がした方へ視線をやる。窓に小さなヒビと穴。状況を理解する前に三上が額を机に打ち付けた。大分浅いところに打ち付けられた頭にそのまま引きずられるように、ガラガラと椅子に音を立てさせながら三上の体が崩れ落ちる。
 床に落ちた三上の横顔、その割れた眼鏡の下の黒い瞳は虚空を見つめていた。額から血が静かに流れていくのが見える。

 もう一度軽い音がして今度はどこかのファイルをぶちまけた。
 此処に来て職員室の誰かが叫ぶ。

「敵襲だ!!」

 さっと椅子から降り頭を伏せた担やほかの教員、非常ベルの鳴り響く校内。少なくとも殆どの教員はさして取り乱した様子もなく、腰を低くしてやてきた伏見が三上を見つめて一度手を合わせてから戦える職員は生徒を誘導若しくは武器庫へと急ぐように言う。三上と仲が良かっただけに、その表情は痛ましげだった。
 同じように腰を低くした水嶋が同じように三上の元までやってきて、小さく首を横に振ってからその瞼を閉じさせた。

 ガタンと、痛いくらいに、血がにじむほどに下唇を噛み締め、物を蹴飛ばしながら三上がずっと恋焦がれていた清木教官が職員室を飛び出していった。きっと自分の得物を取るのも忘れて犯人を探すに違いない。
 
 仮にも国の為に戦えるというこの状況は、担の思い描いていたものとは全く違っており、しかし、戦う理由に少なくとも今日この日は、敵を討つ理由が一つ追加された瞬間だった。


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秋浩さん【撤退されました】宅の香蘭ちゃん(郷地)
シロちゃん(@shiro_gakusen)宅の渡辺参謀


「あれぇえピース先輩どこ行っちゃったの……」

 戦闘服に身を包んだ郷地はほとほと困り果てた声色でそう零した。零れたその声は非常にくぐもったものだ。
 共同作戦で出撃した平和と呼ばれる先輩の姿が、パッタリと見えなくなった。おまけに無線も反応がないと来ているのだから、一体全体どうしちゃったのだろうと不安に駆られる。
 しかし不意に物音。さっと狭い路地のその壁に体を寄せ耳を澄ませつつ、窺うようにほんの少し顔を出す。
 敵の白二名が、どうやら誰かの死体を袋に詰め、このスラム街に点在するゴミ置き場に捨てられたロッカーへと押し込めているようだった。二名はよいしょっと押し込み、パンパンと手を叩いて一仕事終えたとでも言いたげに軽く拳をぶつけあい、あたりを警戒しながら去っていく。
 郷地はそっとその場から出て、先ほど白二名が居た場所まで移動した。

「うわぁ人増えてきた……、せ、先輩本当何処に行っちゃ……たの」

 不味い不味いとあたりを見回していると、不意に、足元に煌めくものを見つけた。
 それはカフスピアスだろう、わずかに血で汚れたそれには十字が刻まれており、細いチェーンで繋がった、彼岸花をモチーフにしたのだと笑って語っていたそのデザイン。
 郷地の視線がゆっくりと持ち上がり、ロッカーへと注がれる。
 嫌な汗が流れた、ドクンドクンと心臓の音が大きくなっていく気がする。

 ゆっくりとロッカーに近づき、手をその取っ手にかける。恐る恐る引くと、中にはやはり人を入れるための、血が漏れ出さないための寝袋のような物が入っており、その上の方までピッタリと閉じられたチャックに郷地は一度ためらってから手を伸ばす。
 ジ、ジジ……と小さな音を立てて少しだけ引いてから、一気に下ろす。

「ぅ、あ……」

 へたり、と腰が抜けた様にその場にゆっくりと郷地は座り込んだ。目映いブロンドと、口元の特徴的なピアス、いやそんなものなくてもわかる、先輩の顔。
 その時無線が入った。半ば放心したまま

『そろそろ時間だ、撤収しろ』

 その言葉を聞き、反射的に言葉が落ちる。「了解」と呟いたその言葉は、郷地でも驚くほどに滑らかに喉から滑り落ちた。
 無線を切り、ゆっくりと立ち上がりロッカーを閉める。一度その蓋に額を付け「ごめんなさい」と小さく零し、郷地は撤収の為に動き始める。
 その動きに、先ほどまでの頼りなさは微塵も感じられなかった。

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