Language

ビックリするくらい唐突なワンシーン、急に始まって突然終わる。シチュエーションも謎。
お借りしています
秋浩さん宅【撤退されました】香蘭ちゃん

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「Ave Maria」

 そんな言葉から始まる歌を知っていた。アヴェ・マリア。たまに耳にするそのフレーズは、あまりなじみのないものだ。

「Ave Maria, gratia plena, Dominus tecum....」

 この後は、もう何もわからない。そもそも此れは英語ではないのだろう。郷地はピアスを揺らしながら、ちょっとした段差に腰かけ、少し背と膝を曲げ、その膝の上に肘を置いて頬杖を付いた。頭の中で、言葉が分からないままの、音だけのアヴェ・マリアを流す。
 指先がそのメロディに合わせて、とてもゆったりとした動きで頬を叩く。

『御身は女のうちに祝福を受け、受胎されし御子イエスも共に祝せられ給う……』

 その声色は、しっかりと知的理性的であり、震えはなかった。膝をつき組んだ掌を眉の上の間、額に付け、目を閉じ、いつものハチャメチャな日本語でも、傍から聞いているだけであまりご丁寧とは言えない英語でもない言葉でなめらかに、それこそ、歌うように滑らかに滑り落ちるような、それでいて日本人の耳には引っ掛かるような音を零す。

『嗚呼……天主の御聖母マリア、……罪人……嗚呼……罪人、罪人なる我らの為に……いまも臨終のとき……臨終の時も……』

 しかしそれは次第に本当につっかえ始めた。感極まっている様子も、今にも顔を真っ青にして嗚咽かもしくは吐瀉物を落とすようにも見えない。ただそこには祈りを捧げている信仰者が一人いるだけだった。

『……臨終の時も祈り給え』

 最後の言葉をいう時にだけ、一際深く息を吸い

『エイメン』

 あっ。アーメン、じゃないんだ。と、郷地はそんな感想を抱いた。

「ピース先輩って本当にキリスト教の人だったんですね、なんかちょっとビックリしちゃいました」

 なんて言葉が小さく口から零れた。立ち上がり背を伸ばしながら振り返った。言葉を聞き取れなかったのか、何を言っているのかわからないと、うっすらと浮かべた微笑みが語っていた。

「Okay, Well, shall we go now.... hmm ? different....」

 よーし、さてさて、とでも言いたげに再び平和と呼ばれるその男は手を組み、それを裏返して先ほどよりも大きく伸びをしながら言葉を落とす。しかし、それはこの国の物ではない。
 それに気が付いたのか、平和はすぐに黙り込み、少し視線を落とす。其れは意識的に言葉を切り替えているように見えた。
 今度はうっすらとしたものではなく、快活な太陽を思わせるような笑みと共に視線を持ち上げた。

「完璧です!さぁ!これで参りましょう!一緒に任務が出来て俺は光栄に思います!!素晴らしい!天晴!」

 祈りの文句と打って変わった、快活な、まさしく青年の声色だ。

「もー!ピース先輩大袈裟ですね!」

 其れを気にする事は無かった。祈っていたあの姿こそ、郷地からすれば全くの見ず知らずの人間と変わらないのだ。郷地もケラケラと笑い、立ち上がる。
 体の間に抱えていた頭部装備を手に持ち、首にかけてあるゴーグルを持ち上げ額へと押しやった様を見つめる。

「大袈裟?とんでもない!!これが大袈裟では俺はこれ以上の喜びを表現出来ない!」

 同じく首にまいてあるストールを鼻元まで持ち上げ口元を隠しても、その人懐こいような笑みは顔の上半分だけで十分だった。
 ただ、その緑の目は、祈りを捧げていたときの平和と同じく、どこまでも理性的だった。

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