book | ナノ
「つがるのばかぁ!」
サイケとけんかをした。
すっごい些細なことで、人間のように喧嘩をしてしまった俺達は人間のように仲直りをすればいいのだろうか。機械のように仲直りすればいいのだろうか。わからない。
俺には仲直りをするときどうすればいいのか。プログラムに設定されていない。そもそも俺達は喧嘩をしない。ただ歌って歌って、マスターに従って…嗚呼、そうだ。そもそもそれが喧嘩の原因なんだった。
俺がマスターに従って、何でもして。そんな機械のような俺が嫌いだ。ってサイケが言いだして。
「しょうがないだろ。俺達は機械なんだから」
「……つがる、きらい」
「な…っ」
「そんなつがる、嫌いっ!つがるのばかぁ!」
じじじ…と記憶が蘇り、ため息をつきたくなる。
機械だからしょうがないのに。サイケだって機械なのに。飽きたら捨てられる存在。いつの間にか人の記憶からすっぽり抜け落ちる、そんな使命な俺。
悲しくなったって、涙なんかでやしない。ああ、でも、サイケが悲しくなると俺も悲しいから、笑顔を見せてほしいな。
…仲直りしたい。
でもどうやって?ただ謝ったってどうせ許してくれない。きちんと何が悪くて、何に対して謝っているのか言って。そっからさらにごめんなさい。と言わないと。絶対許してくれない。
ああ、ちくしょう。喧嘩なんてしなければよかった。
人間のように涙を流したいが。でてくるのは後悔と言う感情だけで。
どうしようどうしよう。謝りたい。だけど絶対許してくれない。ちくしょう。
人間のように考え込んでいると、俺の肩に何か暖かいものがのっかる感覚。とっさに振り返ると今にも泣き出しそうなサイケがいた。
「ごめん…ごめんねぇ…っ」
ぐすぐすとサイケの目からオイルが漏れる。
俺も、つられて泣きそうになって。サイケもいろんなこと考えていたんだ。と考えて。ごめん。と一言。サイケに抱きついた。
それから、何分。何十分。何時間経っただろうか。
サイケはオイルを全部出し切ったのか泣くのをやめていて。よかったと安心した俺は、そっと抱きしめていた力を抜いた。
歌を何十時間も連続で歌っていたような、そんな疲れがドッと襲ってくる。
「つがる…」
サイケもきっとそうなのだろう。
弱弱しく俺の名前を呼ぶサイケが、愛おしくてあまり残っていない力で抱きしめなおす。
「だあい…すき………」
おれも。と小さな声で返事をしてやれば。よかった。だなんてサイケらしくない言葉が返ってきて、そのまま眠ってしまったようだ。うんともすんとも言わない。
小さく息を吐いて、寝ていても力を緩めないサイケにどうすることもできず、俺も眠ることにした。
「つがる!おきて!おきて!!!」
今日は一段と騒がしいサイケの声で目が覚めた。
寝起きなため、いつもより低い声で「なんだよ」と答えれば。サイケはちゅっとリップ音が聞こえそうなキスをした。
「だいきらい!!」
にっこり
微笑んだまま言うサイケに、ぽかんとしてしまう。
なんでそんな笑顔で俺のこと嫌いって言うんだ…。ああ、どうしてどうして
オイルが漏れそうになって。顔を両手で隠すと。サイケは慌てたように俺の周りをぐるぐると回った。
「あのね、今日ね。サイケはやおきしてね。ますたーに会いに行ったの。きのうのこといったの。そしたらね、ますたーがね『好きと嫌いは紙一重』っていったんだ!でも、よく意味わかんなくて、詳しく聞いたら。『好きは好き。嫌いでも好き。だからどんなにシズちゃんに俺が「嫌い」と言われても愛の言葉をきいていると一緒なんだ!ああ、シズちゃん…』って言ったからね!だから、その、それをつがるにいおうとおもって…」
思わず両手を顔から離した。
珍しかった。
サイケがこんなにも長く言葉を発するだなんて。
まあ、それはさておき。好きと嫌いは紙一重だなんて。馬鹿らしい。
でも…よかった。サイケに嫌われたんだと思った。本当によかった。
「つがる!好き!嫌い!大嫌い!大大大好き!」
にっこーと今日一番な笑顔をみせたサイケに、つれて俺も微笑んだ。
大嫌いの方程式
2010 09 01
相変わらずグダグダですすみません。
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