01




目を覚ましたらベッドには私一人、気だるい身体を起こし誰もいない部屋を眺める。備え付けのデジタル時計を見ればまだ明け方ほどの時間帯。
瀬人と一緒に朝を迎えたことはない。今回だってそうだ。いつも私が起きた時には瀬人は部屋を出た後で、一人ぼっちで目が覚める。それが真夜中であっても例外ではない。自室で寝ているのか、仕事に戻ったのか私にはわからない。

乱れた髪を掻きあげシャワーを浴びるために、ベッド脇に落ちているバスローブを肩から掛けた。




―――…ミツキ……―――




何だろう、この感覚。不意に名前を呼ばれた気がして振り返り誰もいないはずの部屋を見回した。

やはり、誰もいない。気のせいだろうか。どこか聞き覚えのある声、優しさを孕んだとても懐かしい、声。もうずっと前に聞いていた、そうだ。


この声は。


「…乃亜?」


呼んでみたところで返事が返ってくるわけはない。自分しかいない部屋に響いた声、暫し沈黙。やはり気のせいかと小さくため息をつきバスルームへと足を向けた。
身体を流し、昨晩同様熱めのお湯を頭から被りながら立ち尽くしていた。流れ落ちるお湯に混じり私の目から涙が零れ落ちた。

泣きたいわけじゃない、ただ、涙が止まらない。思い出してしまったから。昔亡くした大切な人の存在を。




「…っく…寂しい、よ……助けて…」




自分では止めることが出来ない涙がどんどん溢れてくる。私はその場に崩れ落ち声を殺して泣いた。シャワールームには私の嗚咽と打ち付ける水音だけが響いている。

どれだけの時間泣き腫らしていたのだろう。バスルームから出たころには窓の外が完全に明るくなっていた。窓から入ってくる朝日が泣き腫らした私の目には眩し過ぎた。
軽く身支度を整え、昨日の夕食の際にくすねてきた夜食用のパンがあることを思い出し、それと備え付けの小さな冷蔵庫に入っていた飲み物で朝食を済ませた。部屋を出ようと立ち上がり歩を進めた時、急にバトルシップの機体が大きく傾きその拍子で私はバランスを崩し倒れるようにしゃがみ込んだ。


「何…?」


急な出来事に周囲の様子を窺う。再び音を立ててバトルシップが揺れる。窓から入ってくる太陽の光が角度を変えている。立ち上がり窓から外を見れば、微かに前方から準決勝の地であるアルカトラズが見えてくる。




「進路が、変わってる…?」


前方に微かに見えていたアルカトラズは少しずつその姿をはっきりと現してきた。下には途轍もなく大きな、要塞のようなものが浮いているのが見える。バトルシップは徐々に高度を下げあの要塞に着陸しようとしているようだ。何かが起こっていることは私にだってわかる。バトルシップが要塞に収容されていくのを中から眺め、瀬人の元へ行こうと部屋を飛び出した。

管制室の前まで来ると勝手に扉が開いた。目の前に瀬人が立っていて危うくぶつかりそうになり反射的に後ろへ下がる。
瀬人の後ろにはモクバ、遊戯や杏子達もいる。その後方にあるモニターに映し出された人物を見て私は目を疑った。モニターの中の彼は私の姿を見ると一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐに小さな笑みを向けてきた。


「ミツキ、お前は残っていろ」


瀬人は表情を変えずに告げるとそのまま先へと進んでいった。その後を追うようにモクバが続く、遊戯たちも行くつもりなのだろう。ぞろぞろと皆出て行ってしまった。

静まり返った管制室には私一人、立ち竦んでいた。モニターに映っていたのは自分の良く知った相手だった。私は夢でも見ているんだろうか、いくらなんでも都合が良すぎる。ぐるぐると頭の中を巡る感情に私は顔を歪めた。

ザザッと画面が掠れ再びモニターに彼が現れた。


「ミツキ、待っているよ」




気が付いたら私はバトルシップから降りるために走り出していた。夢だって構わない、ずっと会いたかった人物がいる。皆と一緒に行けばきっと、会える。私は彼に、乃亜に会いたい、ただその一心で走った。磯野たちの静止も振り切り先にバトルシップを降りた瀬人や皆を追いかけた。







―――(ミツキ…僕は、ずっとキミに……)―――



.

- 3 -
*前 次#

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -