好き
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買い物を済ませて外へ出れば、しとしとと雨が降っていた。傘を持って出なかったオレはそのまま歩き出した。
出そうとしたが、オレはある光景を目にして固まってしまった。

向こうからセンセが傘をさし、女を連れて歩いてくる。女は長い黒髪で、丈の短いスカートをはいて、腕をセンセに絡ませて寄り添うように歩いていた。すごく嬉しそうに。


あまりに衝撃的な光景に、オレはなす術もなく無様にただ突っ立っているだけだった。
二人がオレの横を通り過ぎる時、ちらりとセンセがオレの事を見たような気がした。女はオレの事など気にしないのか、もしくは気づかないのか、そのまま通り過ぎた。


しばらく二人を見送った後、オレは二人とは反対の方へ歩き出した。家に帰るには遠回りだったけど、二人が歩いた所を歩くのは嫌だった。

帰り着いた時には全身びしょ濡れで、パンツまでぐっしょりだ。
テーブルに荷物を置くと、荷物はそのままにオレはシャワーを浴びた。
冷え切った身体にシャワーはとても熱かった。



着替えを済ませ、テーブルに戻ったオレは濡れた食材を一つ一つ拭きながらしまっていく。
それから夕飯を作ったけれど、食欲は全くわかず、一口二口食べて箸を置いた。

その後オレはソファに腰掛けて、膝を抱えた。その膝に顔を埋め、目を閉じる。
すると、昼間のセンセが蘇る。
にこやかに笑うセンセ。
その隣に寄り添う女性。


オレはセンセとの関係がとてつもなく儚いものだと実感した。
オレとセンセは同じ男で、師匠と弟子で。歳だって離れてる。
センセは里一の忍で、誰からも慕われていて…。
オレは…面と向かって言う奴は減ったけど、咎人の子と嫌われていて…。

最初から、合うはずなかったんだ…。
センセに相応しくないオレ。

狭小な心しか持ってないオレは小さなことで揺れ動く。
センセは男だ。だから相手はやっぱり女の人がいい箸だ。
男の…ましてこんな子どものオレなんて…センセにはきっと物足りない…。



ぐるぐると同じことが脳内を駆け巡る。
オレの胸はキリキリと痛み、抱えてる脚をぎゅっと抱きしめた。



雨はまだ降っているのだろうか。室内がどんどん冷えていく。けれど、暖房を入れる気にはならず、オレはソファの上で丸まっていた。

いつの間にか眠っていたんだろう。ドアの開閉の音が遠くに聞こえる。
センセが帰って来たのかな?
でも、オレは起きることはおろか、顔を上げるのも億劫だった。
そのまま顔を埋めていると、センセがオレの頭を優しく撫でてきた。


「カカシ、こんな所で寝ていると風邪ひくよ。ベッドで寝なさい」


センセの声は耳に心地よい。
動かないオレにじれたのか、センセはオレを抱き上げた。センセからは仄かにシャンプーの香りがした。


センセはオレをベッドに寝かせると、自分も入ってくる。
風呂上がりだろうセンセは暖かく、オレは温もりを求めてすり寄った。
すると、センセはオレのことをふんわりと抱きしめてくれる。
その腕の心地よさに夢の中へ再び入っていこうとしたけど、脳裏にあの女性がよぎった。ああ、こんな時に…。


「どうした?」


センセはオレが身じろぎしたのに気づき、声をかけてきた。


「…別に…」


あ、やばい。声が尖ってしまった。これじゃ拗ねてると思われちゃうじゃないか…。案の定、センセはオレを抱く腕に力を込めて言ってきた。


「ごめん…。任務だったんだ…」

「任務?」

「ん…。囮任務でね。これ以上は話せないんだ。ごめんね」
「…いいよ…」



それでも不安を打ち消せないオレは、センセに縋り付く。
センセはゆっくりオレを撫でてくれた。



「…とても…辛い任務だったんだ…。カカシ…慰めてよ…」



センセは珍しくそんな事を言う。オレは思わずセンセを見上げた。
センセはとても悲しそうな顔をしていて、本当に辛い任務だったんだと感じさせた。


「いいよ…」

「本当に?オレ、お前のこと酷くしてしまうかもしれないよ?それでも?」

「うん、いいよ。センセなら、どんな風にされたって構わない」

「…ありがとう、カカシ…」


うっすらと笑ったセンセは儚げで、どれほど辛い任務だったんだろうと思う。
オレはセンセを抱きしめて(といっても端から見たら縋り付くみたいに見えるだろうけど)、キスをした。
途端、センセはオレの上に乗り上げてきて、いつにない忙しさでオレのことを抱き始めた。


今日のセンセの行為は激しくてとても苦しかったけど、今こうして慰めてあげられるのはオレだけだ、あの女じゃないと思うと、オレの心は喜びに満たされた。


「カカシ…カカシ…」



センセがオレを呼ぶ。
オレもセンセ、センセと縋りついた。



事後の気だるさに包まれて、オレは満たされていた。
乱暴な愛撫に身体はちょっと辛いけど、求められる喜びの方が大きかった。



「ごめん、カカシ…」


センセが謝ってきた。

「え?」

「乱暴にしちゃって…」
「平気…」


センセはすまなそうな顔をして、オレの髪を梳いてくる。オレはセンセのこの行為が好きだ。とても気持ちいい。
トロンと瞼が重くなってくる。


「それと…昼間、ごめんね」
「いいよ、任務だったんでしょ?」
「ん…。けど、ショックだったろう?」
「そりゃ…少しは…」
「少しじゃないだろ。ご飯も食べられなかったくせに」


しまった。そういえば片付けるの忘れてた。
言い訳のしようもなくて黙っていたら、センセが額に口づけてきた。


「センセ?」
「ん…、気配の消し方は完璧だったから、彼女は気づかなかったみたいだけどね。お前、泣きそうな顔して突っ立ってるんだもん」
「あ〜、やっぱ目が合ってたんだ…」

「オレはお前がどんなに完璧に気配を消してたって、お前だけは分かるよ」


センセは嬉しいんだか情けないんだか分からない事を言ってきた。
これは誉められているのか、オレはまだまだだと言われているのか、どっちだ?


「オレはね…どんな時だって、カカシの事だけは分かるんだ」

「センセ…」



「お前がいてくれれば、どんな辛い任務だってこなせるよ。…って、さっきみたいに乱暴に抱いてちゃ、説得力ないよね」


センセは苦笑する。


「でもね……。まあ、いいや」

「ちょ…、そこで止めないでくださいよ。気になるじゃないですか」

「そう?」
「そうですよ。…それとも、オレには話せないこと?」

「いや…」


センセはじっとオレを見つめて黙ったまま。
いい加減不安になってきた頃、ようやく口を開いた。


「オレがカカシを好きな事は、変わらないから」



それを聞いたオレは、頬が火照ってくるのがわかった。
ったく、センセってば言葉一つ、指先一つでオレを喜ばせるんだ。
ちょっと癪にさわるから、オレも負けずに言い返した。


「オレもですよ」


センセの目がまん丸に見開かれた。何もそこまで驚かなくても…。


でも、すぐに破顔して、オレに口づけてくる。


「ね、どのくらい好き?」
「そうですね…。少なくとも、食欲がなくなる程度には好きですよ」

「なんか、酷くない?」
「そうですか?」
「食欲程度なの?」
「…生きていく為に、必要不可欠でしょ?食欲って」
「……………」


黙ってしまったセンセを不思議そうに見上げていたら、

「カカシって、たまに物凄い事言うよね」
「え?そう?」

「そう。今の、やられた」



センセは啄むだけのキスをして言った。


「も一回していい?」



オレは一回じゃ済まないだろうと思ったが、断る理由も思い付かず、返事の代わりにセンセに口づけた。














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