想い止むとも
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ミナトの誕生日を一緒に祝ったのは、カカシが7歳で共に暮らし始めた最初の1月だった。
修行をみてもらう為、待ち合わせ場所で自来也から今日がミナトの誕生日だと聞かされて。
それから毎年、当日というわけにはいかなかったが祝ってきた。

今年も当日に祝うのは難しそうだ。去年は誕生日の少し前に恋人同士になった。だから、その後にきた誕生日は大変幸せに満ちたものだった。


だが──

今年はミナトが居ない。誕生日の日付ギリギリ間に合う時間に任務を終わらせ帰ってみれば、ミナトは自宅には居なかった。
火影邸にも居らず、探してみれば彼女の家にミナトは居た。
カーテンの隙間から見えたミナトは彼女を抱いていたのだ。
カカシは自分の目が信じられなかった。
ミナトが自分ではない誰かを抱いている──
ミナトの恋人は自分ではなかったのか─愛してると囁かれたのは戯れ言だったのか─
ズキリと胸が締め付けられるように痛む。ぎゅっと胸を押さえてみても痛みは止むことはなく、そこから体温を奪うかのように全身に広がっていく。

ガラガラと足元が崩れていくようだ。ガクガクと身体が震え出し、その場に座り込んでしまいそうだった。
だが、痛む心とは裏腹に頭は冷静で、そっとその場から離れるよう身体に指示を出す。



何処をどのように帰ったのか覚えていない。
気が付けば、冷たい水を頭からかぶっていた。


──センセが女を抱いていた…



その事ばかりが頭の中を駆け巡った。
どうしてとか、何でとかも思いつかず、ただ《女を抱いていた》その事実のみ反芻していた。



ミナトに彼女がいることは薄々気づいてはいた。だが、心のどこかでそれを認めたがらず、今まで気づかぬフリをしてきたのだ。
ミナトの傍に居たかったから。気づけばミナトの傍に居られない。だから…。

そのツケが今やってきたのだと思う。


冷たい水に打たれながらぼんやりと思う。

センセと別れる時が来た─

と。



その日、ミナトが帰ってくることはなかった。




翌日から休むことなく任務に出て行った。
少しでも時間が空くと、どうしてもミナトの事を考えてしまうから。
へとへとになってベッドへ倒れ込み、何も考えずに眠れればそれでよかった。
ひと月近くそんな事を続け、疲れきった身体で任務を続ければ危険が増す。案の定、カカシは重傷を負った。
なんとか自力で里まで帰って来たものの、意識はそこまでだった。



遠くで自分を呼ぶ声がする。その声に意識を向ければ、それは愛しいミナトの声。

何故そんなに必死にオレを呼ぶんだろう…オレはここにいるのに…


カカシは目を開けようと思っても開けられず、身体もまるで石で出来ているかのように重い。指先ひとつ動かすのもしんどかった。
その僅かな動きに気付いたのだろう、ミナトが「カカシッ!」と叫んだ。
ゆっくりとカカシが瞼を持ち上げる。
青灰色と紅の瞳がミナトを捉えた。

(ああ、センセだ…センセがいる…)

カカシはうっすらと微笑んだ。
が、次の瞬間、瞼は閉じられ、ミナトが握っていた手から力が抜けていった。
ピーと機械音が虚しく響く。


「カカシッ!カカシッ!」

ミナトがカカシの身体を揺さぶりながら叫ぶ。その悲痛な声が狭い病室に響き渡る。
忍医達が駆け寄り、カカシに心臓マッサージを施し始めた。

ミナトは真っ青な顔でその様子を眺める。
握り締めた手から力が抜ける直前のカカシの儚げな微笑み。
今まで見たどの微笑みよりも綺麗で、どの微笑みよりも心抉られるものだった。


その頃カカシは上から自分を見下ろしていた。

点滴が付けられ、医師達が自分の身体を治療している。その横でミナトが呆然と見ている。

「四代目、呼びかけてみてください。あなたの声ならカカシの命を呼び戻せるかもしれません」
「…わかった」

ミナトはカカシの傍に寄り、カカシの手を大事そうに握ると静かに呼び掛けた。

「カカシ、カカシ聞こえるかい? 戻っておいで」


ミナトの声は悲しげにカカシに届いた。

(おかしなセンセ。オレはここにいるのに…)


「カカシ…戻っておいで。オレの元に…カカシ…そしてオレに笑って…」


ミナトの声は悲痛で、その顔は悲しみに包まれているようで、カカシはそれはミナトには似合わないと思った。カカシにとってミナトはいつも太陽のような存在であったから。

カカシはミナトの傍まで降りると、そっとミナトの頬に手を添えた。



『センセ…オレはここだよ…なかないで…』







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