サンクチュアリ
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顔岩に座り込んで沈みゆく夕日を眺め、カカシは嬉しそうに微笑んでいた。その笑顔はとても優しくて。
カカシをそんな笑顔にさせる夕日に少し嫉妬してしまうあたり、オレも末期だなと思う。


「カカシ」
「あ、センセ」


呼び掛けた声に振り返り、見せる笑顔は可愛くて。
けれど、その顔に一抹の寂しさを読み取り、何か釈然としない気持ちになった。
夕日を見ていた時はあんな優しい笑顔だったのに。今、オレに見せる笑顔は先程の笑顔とは似て非なるものだった。

判っている。原因はオレだ。
妻を娶ったオレに、カカシが心からの笑顔を向けることはない。
オレはカカシの笑顔を失ってしまったのだ、永遠に!


「何をそんなに見ていたの?」
「…あの雲…」


カカシの指差す先には、夕日に照らされて赤く染まった雲。その輪郭が金色に輝いていた。


「ほら、雲の端が金色に輝いて綺麗でしょ?」
「うん」
「なんか、センセみたいだなと思って」


カカシが発した何気ない言葉。
その言葉に自分の顔が赤くなるのを感じた。そしてふわりと身体が軽くなる。
カカシの言葉一つでこんなにも喜んでいる自分がいる。
雲の端に金色に光る部分を見て、オレを連想するなんて…。いつでもオレのことを想っていると告白されたみたいで、心がふわふわと舞い上がりそうだ。
オレはカカシに悲しみしか与えてやれないというのに、カカシときたらこんな幸せをオレに運んできてくれる。
オレはカカシの隣に腰を下ろし、一緒に沈みゆく夕日を眺めた。
金色(こんじき)に光る雲はやがて姿を消し、対の空には月が顔を出す。
闇に包まれる一歩手前の黄昏時。人と妖魔の境界が曖昧になる時間。
闇に紛れて動くオレ達には相応しいのかもしれない。

オレはカカシを抱き寄せて口付ける。柔らかな唇に甘い吐息を乗せて。
「センセ…」とカカシが囁いた。


「離れないで。ずっとずっと傍にいて…。離れないと言って…」


何故だろう…『センセ』と言ったカカシの声が悲しく心に響いてきて…。
オレはカカシを強く抱きしめながら囁いた。その言葉は掠れ、震えているようにも感じられた。


「…ヘンなセンセ。オレのいる所はセンセの所しかないのに…。傍にいるよ…ずっと、センセの傍に…」



「カカシ…カカシ…」





オレは貪るように、カカシに口付けた──。






09.01.12








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