約束
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火影屋敷の玄関先で、七夕の飾り付けの手伝いを言い渡されてしまった。任務明けで、報告書を提出しに行った矢先の事であった。


あらかた飾り付けが済むと、四代目から短冊を一枚手渡された。
何も書いてない、これから願い事を書き入れる短冊。

その短冊を見て、カカシは初めて七夕の飾り付けをした日の事を思い出した。



数年前、まだオビト達とスリーマンセルを組んだばかりの頃──







任務終了後、依頼人がお礼にと裏山から竹を切って持たせてくれた。七夕だからと、かなり大きなものだ。
ミナト班は皆でそれを担いで帰り、誰の家へ持って帰るかということになった。「先生ン家!」とオビトが答える。
「え? オレ?」
「うん、オレン家は夕べ飾ったし、リンとこはアパートだろ?」
「うん。家はこんな大きいのは無理だなぁ。せいぜいこの枝くらい?」
「じゃあ、そこ持って帰ればいいじゃん。いいよな、先生?」
「ん、構わないよ。じゃあ、オレン家に持って行くけど、皆で飾り付け手伝ってくれる?」
「はーい」


それから皆でワイワイと飾り付けをし、短冊に願い事を書くことになった。
それぞれ一枚ずつ手にし、何を願おうか考えている。
オビトやリンもあれやこれや楽しそうに考えている。だが、カカシの様子は少し違っていた。
楽しんでいるというより、戸惑っているといった様子だ。
短冊の意味が分からないのだろうか…。

「どうしたの? カカシ。短冊は願い事を書けばいいんだよ?」
「あ、うん…」
「決まらない?」

「…そうじゃないけど…」
「何でも書けばいいんだよ。オレなんかどれを書こうか思いっきり迷うぜ」
「一番叶えて欲しい事を書いてみたら?」
「リンは書けたのか?」
「うん。あ、見ちゃダメ」

ワイワイと二人は楽しそうだ。と、カカシがオビトの前に進み出た。
スッと短冊を差し出し、

「オビト、これやる」
「な、なんでだよ」

「…オレは願い事…ないから…」


カカシは困ったような、少し悲しそうな笑顔を見せた。


「……シ、カカシ?」


ふ…と現実に返った時、ミナトから呼ばれている事に気付いた。

「あ…すみません」
「考え事? 珍しいね、カカシがボ〜ッとするなんて」

「…昔の…初めて七夕の飾りをした時の事、思い出していたんです」
ちょっとバツが悪そうに答えるカカシ。

「ああ、後にも先にもあの時だけだったねぇ。いつも任務入っちゃってさ」
「うん」
「確か、オビトなんて『カカシより強くなれますように』なんて書いてたんだよ?」
「あいつらしい…」

「…カカシは?」
「え?」
「願い事。出来た?」


「…ええ…まあ…」


言葉を濁し、目を泳がせるカカシ。そんなカカシをじっと見つめるミナト。
その視線に耐えられなくなり、口を開いた。

「セ、センセは? 願い事書いたの?」
「ん、もう書いたよ。カカシも願い事が出来たんなら、書いちゃいな」

ミナトに促され、短冊に書き込むカカシ。

「何て書いたの?」
「センセは何て書いたの?」
「ヒミツ」
「じゃあ、オレもヒミツです」
「あ、ずるくない?」
「するくありません。おあいこです」

そんな会話を繰り広げながら、お互いの短冊は見せないように飾り付けをし、玄関に立てかけて終了した。
二人は満足そうに笹を見上げ、執務室へと戻って行った。


そこで報告書を出した後、ミナトは休憩と称してコーヒーを煎れてくれた。
コポコポとサイフォンから良い香りが漂ってくる。


「ありがとうね、手伝ってくれて。助かったよ」

コーヒーカップを手渡しながら、笑顔でミナトが言う。

「どういたしまして…あ、美味しい」
「そう?」
「うん、ホント美味しいよ。センセ、コーヒー煎れる腕上げたね」
「そう言って貰えると嬉しいけどね。カカシが居なくて眠気覚ましに煎れたらさ、なんかこう、もっと美味く飲めないものかな〜なんて思ってね。いろいろやってたら、なんとか飲めるようになったみたい」
「いろいろって…まさか、仕事ほったらかしで?」
「まさか! いくらなんでも酷くない?カカシ」
「だって、今までが今までですからね。何度センセの捜索に駆り出されたことか…」
「いや〜アハハ…あ、それはそうと、願い事出来たんだね」
「(話逸らしたな…)まあ…え?」
「うん、昔さ、願い事無いって書かなかったでしょ?」
「あれは…」

少し困ったような顔をして黙り込んでしまった。






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