愛弟子
/2P


その小さな存在がオレの闇を吹き払ってくれた。




闇の中で進むことも出来ず、かといって後ずさることも出来ず。ただ膝を抱えた幼子のように、動くことが出来ずにいた。

オレはこのまま闇に飲まれてしまうのだと、一生この闇の中で過ごすのだと諦めかけていた時、光は現れた。


それは小さな光だった。


けれど、それはとても暖かく、柔らかく、オレの凍えた心に熱を取り戻させてくれた。




木の葉の隙間から見た小さくて大きな存在は、オレに小さく手を振ってきた。途端に身体の中を優しく甘いものが駆け抜けていく。

その時、まだこの世の汚れを知らない小さな魂を守りたいと、守り抜くと誓いを立てた。



初めて会った時は、何とも愛くるしかった。大きな目を見開いてオレを見上げてくる可愛らしさ。
小さな子に愛しさを感じたのも初めてのことだった。



この子は、カカシは何と多くのものをオレにもたらしてくれるのだろう。
いつの日か忍になるカカシに、オレの持てるもの全てを与えてやりたいと思った。


カカシは、オレにとってかけがえのない存在になるだろう。
オレはカカシを守り抜く為に強くならなければ。
闇に怯えていた自分。もう怯えはしない。
闇に立ち向かい、闇を受け入れられる程強くなってやる。
カカシの為にも、オレ自身の為にも。




そして、2年と経たないうちに夢は現実となってやってきた。





「本日をもって暗部を解任し、上忍師になることを命じる」
「はあ…」
「何じゃ、その気の抜けた返事は」

三代目から叱られてしまったが、仕方ないだろう、オレはまだ16だ。
それを言えば、

「大丈夫じゃ。何せ相手はまだ5歳じゃからの」
「5歳!? そんなんでアカデミー卒業出来るんですか?」
「してしもうたんじゃから仕方なかろう。お主だって、そう変わらん歳で卒業したろうに」
「いや、オレは7歳だし。あの自来也だって6歳ですよ? それに5歳って、あのカカシ君と同い年じゃないですか。誰なんです?」

「…そのカカシじゃ…」

「へ?」

あまりに意外な答えに間抜けた声を出してしまった。

「じゃから、はたけカカシじゃと言うとる」

「え?え?え? カカシ君なんですか?」


「そうじゃ」

「だって、まだ5歳で、この間アカデミー入ったばかりじゃないですか」
「驚くのも無理ないがの。卒業試験には合格しとる。ホレ、カカシの成績表じゃ」

パサリと机の上に置かれた成績表を取ってみれば、なるほど、納得できる成績がそこにはあった。
忍術においては言うことなし。アカデミーの中でもトップクラス。ただ、体術は少し劣る…のは、5歳という年齢を考えれば、仕方ないだろう。カカシの周りは皆年上ばかりだから。


「…さすがサクモさんの息子さんですね」
「まあ、サクモの名は良くも悪くもカカシに影響を与えるでの」
「え?」
「まあいい。明日顔合わせじゃ。よろしく頼むぞ」
「はい。で?カカシ君は誰とスリーマンセルを組むんですか?」

「…今年の卒業生は半端での。変則じゃが、カカシは一人じゃ。お主がきっちり教えてやれ」


あー、可哀相に。これじゃチームワークが学べないじゃないか…。
あ〜、どうしょうかなぁ。などと悩んでいたら、執務室のドアがノックされた。
入ってきたのはサクモさんと噂の本人、カカシ君だった。

「やあ、ミナト君」
「こんにちは、サクモさん。お久しぶりですね。こんにちは、カカシ君」
「こんにちは、ミナト兄さん」

「カカシ、ミナト君は明日からお前の先生になるんだよ」
「え? そうなの? ミナト兄さんがオレのセンセなの?」




カカシ君は驚いていたけど、オレの方がよっぽど驚いた。
カカシ君が自分のことを“オレ”と言っている。ちょっと前まで“ぼく”だったのに。
いつの間に“オレ”って言うようになったんだろう?
なんかちょっとショックかも。理由は分からないけど。
そのショックのまま、カカシ君を見た。
顔の半分を口布で覆っていて、可愛い顔は隠れてしまっている。
もったいないと思うが、カカシ君の可愛さはオレだけが知ってればいいか。うん、他の奴には見せたくないな。

などと考えていたら、三代目からせっつかれた。

「ほれ、何を黙っておる。声くらいかけてやらんか」
「え? ああ。これからよろしくね、カカシ君」
「はい、よろしくお願いします。ミナトセンセ」

あ、なんか可愛い。この“センセ”って言う少し発音の足りない感じ。
自分が先生って呼ばれるのもこっぱずかしいけどね。
カカシ君はすること成すこと何もかもが可愛いね。



「カカシ、父さんは火影様と話があるから、先生と先に帰ってなさい。ミナト君、頼めるかな?」

「はい、構いませんよ。じゃあ、カカシ君、帰ろっか?」
「はい」


オレはカカシ君の手を取り執務室を出た。何故かカカシ君は驚いた顔してたけど。







「ねぇ、カカシ君。カカシ君はどんな忍になりたいの?」
「オレ? オレは父さんみたいな強い忍になりたい」
「そっか…」

あ〜、やっぱり父さんか…。出来ればオレって言って欲しかったなぁ。
毎日あの父親の姿見てれば父に憧れるのは仕方ないよな。



「ねぇ、センセ。いっぱい修業していっぱい任務やったら、父さんみたいに強くなれるんでしょ?」
「ん、なれるよ。でもその前に、下忍認定試験に合格してちゃんと下忍にならないとね」
「え? オレ、ちゃんと卒業したよ?」
「それだけじゃダメなんだ。オレの試験に受からないとアカデミーに逆戻りだよ」

カカシ君はそれを聞いて、かなりショックを受けたみたいだ。当たり前だけど。


「…何をするの?」
「それは明日のお楽しみ」







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