こっちにおいで
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※フリーペーパー(折りたたみ本)にて配布した話になります。
再録しました。

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「カカシ、こっちにおいで」



そう言って手を差し延べるあなたにオレは逆らうことは出来なかった。


幼かったオレに、あなたはたくさんのことを教えてくれ、そして与えてくれた。
その一番が心だ。
あなたはオレに人を愛する喜びも苦しみも教えてくれた。
この身体に最初に触れたのはあなただ。
痛みと苦しみと、そして悦びを教え、あなたという人間をオレに刻み付けた。






──こっちにおいで──


あの日、あなたはそう言った。
そして傍に歩み寄ったオレに口づけ、抱いたのだった。
オレはこの身を裂く痛みに耐え、あなたに抱かれる悦びに震えた。
あなたの熱いモノがオレを挿し貫く。
強烈な痛みの中聞いた「愛してる」というあなたの言葉。
それがどんなに嬉しかったか、あなたには解っただろうか。
ずっと独りだと思っていた。
あなたへの想いも、生涯秘したまま死んでいくのだと思っていた。
だから、オレも……

「愛しています」

万感の想いを込めてあなたに囁いた。
あなたの微笑みはとても綺麗だった。
オレの心も身体も、この命さえあなたのものなのに……。
あなたは心だけ持っていって命は置き去りにした。



「お前は生きていて…」



それがあなたの願いだったから──

だから──

あなたが見守る筈だったこの里を、命を懸けて守ってきた。
けれどオレの心はあの日のまま。
あなたに呼ばれるのをこうしていつまでも待っている。






──こっちにおいで──



と。









end.
08.09.28








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