必殺・上目遣い
/3P


オレのセンセは、キス魔でスキンシップが大好きで、事ある毎に好きだよと囁いた。

そのせいかどうか、気がついたらいつもセンセの事を考えていた。



センセに好きだよって抱きしめられる度、オレの心臓はバクバクと鼓動を速め苦しいくらいだ。
それが嫌で、なのに、離れていると淋しくて。センセの姿を必死に探してみたり。


この想いがなんなのか、分かるのにそう時間はかからなかった。

そう、オレはセンセに恋してる。

おかしいよね。

同じ男なのに。ましてセンセはオレの先生で、しかも育ての親でもあるんだ。
そんな人に恋だなんて…。


そしてオレは、これがしてはいけない恋だって知っている。
だから、距離をおいて忘れようとしたのに──。






オレのセンセはよくモテる。
見かければ、いつも女の人と一緒で、そしていつも違う女(ひと)。

女の人と一緒にいるのを見かける度、オレの胸はチクリと痛んだ。
恋を自覚する前は、これが何なのか分からなくて苛ついたけど、今なら分かる。
これは嫉妬だ。
自分がこんな醜い感情を持っているなんて思いもしなかった。

だけど、やっぱりどんなに取り繕っても、センセに絡みつく女は気にくわない。豊かな胸を押し付けるように腕を組んで、腹が立つたっらありゃしない。
センセもセンセだ。気軽に腕なんか組ませるな!


そう心の中で罵りながら、オレはその場を離れる。
その時は、頭から湯気が出てるんじゃないかっていうくらい腹が立ってるんだよね。笑っちゃうよ。

だけど、冷静になるとセンセに臆面もなく抱きつける女達が羨ましくて…。
自分には一生掛かっても出来ないだろうから。

やっぱりセンセは、ああいったおっきい胸の女がいいのかな…。
媚びを売るようにしなだれかかって、ケバい化粧した女。あんなののどこがいいんだ。
あんなのに笑顔を向けるなんて、センセの気がしれないよ。
そりゃ、センセだって男だから女の人がいいだろうけど!
ああ嫌だ。センセの隣に女がいるなんて。





センセと少しでも離れると、センセの事が気になって仕方がない。
まるで赤ん坊みたいだ。
けど、センセの傍に居れば落ち着けるかと思えば、全くの逆で。
心臓は早鐘を打つし、顔は赤くなりそうだし、平静を保とうとするのが精一杯だ。
そんなオレを訝しく思うのか、センセは時々じっとオレの事を見ている。
目が合うと、センセはにっこり笑ってくれる。センセの笑顔はとても綺麗で、オレはうっとりと見惚れてしまいそうになる。
そうなるとオレはいたたまれなくなって、逃げるようにセンセの傍から離れるんだ。


ああ、挙動不審なオレ…。
センセにどう思われているだろう。
確かめる術も勇気もオレにはない。


そんなこんなで任務の疲れも手伝って、ベッドに入れば眠気はすぐに襲ってくる。オレはそれに逆らうことなく、素直にそれに従った。

どれくらい経っただろう。ふと気付くとベッドが軋む。そしてふわりと暖かい温もりに包まれた。

「…おかえり…」

オレはその時やたら眠くて、寝返りはおろか目を瞑ったまま言った。
センセはそんなオレを咎めることなく、優しい声でただいまと返事してくれた。
その声に安心するように、オレは再び夢の中へと戻っていった。
背中にセンセの温もりと、腰の辺りに何か硬いものが当たっていたけど、その時はそれが何なのか気にすることはなかった。
とにかく眠くて仕方なかったんだ。




うっすらと差し込んでくる光に目が覚めた。
オレが目覚めたことに気づいたセンセが、少し掠れた声でおはようと声をかけてきた。
「カカシ、任務は?」
「今日は休み。明日の夜出ます」
「えっ!?明日任務!?なんで?」
「なんでって…」

返答に困っていると、センセは力の抜ける事を言った。


「だって、明日はお前の誕生日だよ?何で休み取らなかったの?」
「何でって、別に誕生日だって関係ないじゃない?任務なんだし…。それに夜からだからそんなに…」


そう言うとセンセは枕に顔を埋めてしまった。

「センセ?」

「自分が生まれた特別な日くらい休んだって、罰は当たらないと思うよ?」

「特別じゃない…」

「なに?」


「オレは……生まれてこなければ良かっ…だっ!」

バチンと頬を叩かれた。
頬を押さえながらセンセを見れば、怖い目をしてオレを睨んでいた。


「何て事を言うの、カカシ。お前のお母さんは命を懸けてお前を産んでくれたんだよ?」

「…母さんじゃない…」
「何だって?」

「…オレの本当の母さんは……父さんの双子の姉の…」
「カカシ…!」


オレは禁忌の子だとセンセに告げた。
ホントはこんなこと誰にも言うつもりはなかった。
だけど、オレはしてはいけない恋をしてしまったから…。
不浄の子と嫌われたら、諦めもつく…だろう。



そう思って告白したけど、センセがどんな顔してるか怖くて…ぎゅっと固く目を瞑った。


シーツを掴んでいる手に、そっとセンセの手が重なる。


ああ、センセの手はなんてあったかいんだ…。


固く閉じていた目をそっと開いた。けど、やっぱりセンセを見る勇気は出なくて、重ねられた手をじっと見つめた。

するとセンセはオレを引き寄せ、その胸の中に抱き込んだ。






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