俺のものは俺のもの
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報告書を提出していると、奈良に抱きかかえられてカカシが入ってきた。


「カカシ!? どうしたの!?」


奈良の腕からカカシを受け取れば、カカシはすうすうと眠っている。どうしたんだと奈良を見れば、

「カカシは術で眠らせてある。…今日の任務で初めて人を殺ったんだ」

と説明した。ミナトはカカシを抱く腕に力が入る。


「な…んで……カカシにそんな任務…」

「カカシの任務はお姫さんの話し相手兼、護衛だ。俺たちがそのお姫さん一行の護衛に当たっていたんだが、年が近いということで話し相手にカカシが選ばれたのさ。
で、護衛中に襲撃に遭ってな。できる限り応戦したんだが、お姫さんの所まで襲われちまってな。カカシが防戦したんだ。その時一人殺っちまったんだ。よくやったよ、お姫さんも無事。ただ…泣きはしなかったんだが、カカシの奴ガタガタ震え出しちまってな。お姫さんを送り届けた後、眠らせたって訳だ」

「そう…」


淡々と説明する奈良に小さく礼を言い、ミナトは受付の中忍達に向き直る。


「今後、カカシにBランク以上の任務を振る時はオレと組ませること。わかったね?」


声のトーンを幾分か低くし、ほんの僅か殺気を込めて言えば、中忍達は真っ青になって震え上がり、ただコクコクと頷くだけであった。


「バカかお前は!」


奈良からパコンと頭を叩かれた。

「痛!何すんだよ」
「中忍相手に凄んでどうする。問題はカカシ本人だろうが」

「判ってるよ、そんな事。だけど、カカシがこの歳で人を殺す任務に就くなんて…」

「何甘い事言ってやがる。今の世の中そんな事ぬかしてらんねぇだろうが。幼かろうが何だろうが、カカシはもう中忍なんだ。遅かれ早かれいずれは経験するんだ」

「ああ!充分判ってるさ。だけど、オレはそんな任務の時は傍についていてやりたいだけだよ。この子を守ってやりたいだけなんだよ」

「ったく、てめーはいつからカカシの親になったんだって」
「親になった覚えはないけどね。この子はオレのもんだし」
「はあ?」
「オレはカカシをオレの手で一人前の忍にさせたいの!」

「そりゃ分かるが…だからって何でカカシがお前のモンになるんだ?」
「オレのもんはオレのもんでしょ!」

「私は君にカカシをあげた覚えはないんだが…」

不意に後ろから声がかかった。その場に居た者は皆二人の問答に呆気に取られ、サクモが入って来た事にミナト以外気づく者は居なかった。

「サクモさん!」

「で?いつからカカシは君のものになったのかな?」

サクモは笑顔をひきつらせながら聞いてくる。それをものともせず、ミナトはあっけらかんと答える。


「カカシを預かった時から、この子はオレのもんです」



「…カカシを大事に想ってくれるのは嬉しいけどね。カカシは私の子だ。君にはあげないよ?」
「サクモさん、そんな事言ったってカカシの先生はオレです。カカシの事はオレに任せてください。カカシはオレの幸せなんです」

「君の幸せより、カカシの幸せの方が大事だ」
「大丈夫。ちゃんと幸せにしてみせます」



話があらぬ方向へといってしまう二人を周りの者は唖然として見ているだけ。里の誉れ高い二人が、カカシ一人に対してこの言いようでは仕方ないだろう。


「お主ら、いい加減にせぬか」


このくだらない問答を遮ったのは、今までこの様子を静観していた三代目であった。


「そんなくだらん嫁取り問答する前に、カカシをきちんと休ませてやらんか」


そうだったと慌てて退席しようとすると、術が解けたのかカカシが身じろぎした。
「う…ん…」
「「カカシッ!?」


二人の呼びかけにハッと目を覚まし、「センセッ!」とミナトにしがみついた。


「オレ…オレ…オレ…」


ガタガタと震えるカカシは言葉が上手く言えないようだ。感情がせり上がり、せめぎ合い言葉が追いつかないというところだろう。



「うん、判ってる。奈良から聞いたよ…。怖かったろう?」


ミナトは宥めるようによしよしと背中をさする。
暫くして震えも治まってくるとミナトは近くにあった長椅子に腰を下ろし、膝の上にカカシを座らせた。そして優しく抱き締める。



「オレ…お姫様の護衛してて…」



カカシが小さな声で話し出した。
話し相手≠ニ言わなかったのは、少しのプライドと、カカシにとって護衛の方が比重が大きかったのだろう。実際戦闘になったのだから。

カカシの話によれば、奈良達が次々と敵を倒していく中、一人が姫の乗る駕籠を襲ってきたという。
応戦に出たカカシを見て、敵は子どもと侮ったのだろう。隙をつかれ、カカシに懐に入られクナイを突き刺され死亡した。
それを見た敵も見方も驚愕したことだろう。この幼い子が大人一人をあっさり倒したのだ。
その後も奈良達が一人二人と倒していき、不利と感じた敵は引き上げ、姫を無事送り届けてきたということだ。


「…人…殺した…オレ…死んでいくのがよく判って…オレが…こ…」
「うん、カカシ、お前はよくやったよ。えらかったね」
「…………」
「人殺しは決していいもんじゃない。けれどこの先そういった任務が増えてくるのも事実だ。慣れなくちゃならない事だけど…だけど、その怖さを忘れちゃいけない。殺された人にも、オレやサクモさん、カカシにもいるように守りたい人はいたんだ。守られるべき人がいた。その犠牲の上にオレ達は生きている。殺らなければ殺される、そんな世界だけれど、生命は大切なものだ」

コクンと頷くカカシ。

「だけどオレ達は忍だ。忍でいる以上、その事は避けて通れない。慣れなくちゃいけない事だけど、マヒしちゃいけない。わかる?」
「…うん…」


ミナトはにっこり笑ってカカシの頭を撫でた。


「オレ達は人として、忍として痛みを抱えて生きていくんだ。だから、辛くてどうしようもなくなったら、オレに言いなさい。こうして抱き締めてあげるから…」


「…センセ…」


ポロリと青灰色の瞳から雫が零れる。ミナトが指でそれを拭うと、それをきっかけにポロポロと止めどなく涙が溢れた。カカシはミナトの胸に顔を埋め、啜り泣いた。
その子どもらしかぬ泣き方はカカシの忍としての矜持であったが、子どもではいられないカカシの立場の現れでもあった。
憐れと思う。けれど同情などカカシは望んではいない。皆と同じ、忍であることを望んでいるのだ。

泣き疲れたのだろう。啜り泣きは小さな寝息へと変わった。


「やれやれ、ついにカカシは私には気づかなかったみたいだな」
「サクモさんの気配が薄すぎるんですよ」
「…君と変わらないと思うけどね」


サクモはカカシの髪をくしゃりと撫でながらカカシを受け取ろうとしたが、カカシの小さな手はしっかりとミナトのベストを握っていた。


「あ〜あ、すっかり君に懐いてしまったみたいだな、カカシは」

「だから言ったじゃないですか。カカシ君はオレのもんだって」




09.01.29








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