執務室にて
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その日、里の上層部─上忍・特別上忍─が召集され、広い会議室も些か狭く感じられた。



つい先頃ミナトと想いを交わしたカカシは、重い腰を引きずりながら遅れて会議室に入った。
一斉にカカシへと向けられる視線。非難するような視線、嫌悪するような視線。
そんな中、一人だけ優しい眼差しで見つめてくる瞳があった。
それはカカシの大好きな澄んだ青い青い瞳。
その瞳と目が合うと、その人物はにっこりと微笑んで前に向き直った。

カカシは入り口のドア付近の壁際に腰を下ろす。


全員が火影を見つめたところで、三代目は話を切り出した。
それは、次期火影について。

「皆も知っての通り、第三次忍界大戦も終息を告げた。まあ、まだ小さな小競り合いは続いておるがの。そこでじゃ、ワシもそろそろ火影の重責から引退し、次代の者に火影の座を譲ろうと思う」

ざわざわと波紋が広がる。
ここ最近、里の噂になっていたのだ。次期火影には誰がなるのかと。
噂の人物は数名いた。その最有力候補が、木の葉の黄色い閃光─波風ミナト、そして、三忍。
近頃は顔を合わせれば必ずと言っていい程、その話が持ち上がっていたのだ。


そこに集まった忍達は、如何に己の推量が正しかったのかを早く知りたいと、三代目が口を開くのを待った。



「四代目火影には、波風ミナトを任「ちょっと待って」

任命すると最後まで言わせず、遮る声があった。

「何でその坊やなの? 私の方が四代目に相応しくてよ」

瞳に剣呑な光を宿し異を唱えた。


「ほう…」


キラッと三代目の眼光が鋭く光る。

「ワシが火影に一番相応しいと判断した者に、そなたは不服と申すか」
「ええ、そうよ。不服だわね。何故なら、私の方があの坊やより忍術を極めているし、この木の葉をより高みへと導けるからよ」

「わかっておらぬのォ、大蛇丸。忍ってのは忍術を極めればいいってもんじゃねぇっての」


口を挟んだのは自来也であった。
今、この場で三代目を除き大蛇丸に意見を言えるのは、三忍と呼ばれた自来也と綱手だけであろう。


「あら、言ってくれるじゃない。だけどねぇ自来也、この三忍を差し置いて、あろうことかあの若造が火影なんて図々しいにも程があるわ」
「儂は元々火影なんぞの器じゃねぇし、綱手にしたって医療から離れる訳にもいかん。それに、儂も綱手も四代目にはミナトを推薦した」

「相変わらずのバカね」

大蛇丸はミナトをギロリと睨むと、まるで嫌味のように言った。

「ミナト、あなたにこの里を守り発展させていく力があるのかしらね」


「…元より力不足は認識してますよ。ですが、此処は木の葉隠れの里。どの里よりも皆の里を思う気持ちは強い。皆、オレに力を貸してくれるでしょう。それに、里を守って死ぬ覚悟ならとうに出来ています。何が起ころうとも、この命を懸けて里とその人々を守り抜いてみせますよ」


大蛇丸の言葉に、どこまでも穏やかに答えるミナト。
穏やかであってもその言葉は力強く、落ち着いた姿は未来の火影に相応しく、そこにいた者達を納得させるものがあった。
既に三代目の口からミナトの名が上がった時から、大蛇丸ではなく、ミナトを四代目として皆が認めていたのだろう。


「ふん…まあ、いいわ。その坊やが火影になるようじゃ、木の葉はおしまいね。せいぜいみっともなく足掻くといいわ」


そう負け惜しみを述べた後、会議室を後にしようとした。ふと、出口付近に座っているカカシを見つけ、声をかける。


「あら、カカシ君。あなた、私に付いてこない?あんな坊やの所にいるよりも強くしてあげてよ?」


けれど、カカシは大蛇丸に一瞥を投げただけで何も言わず、直ぐに前方にいるミナトに視線を移した。


「ふん、師匠が師匠なら弟子も弟子ね。今に後悔するわよ」


そう捨てゼリフを残し出て行った。

その時、僅かに腰を浮かし、ほんの僅か大蛇丸の後を追うような素振りを見せた者達をミナトは見逃さなかった。
だが、特に何を言うでなく居住まいを直し、三代目に向き直った。



「さて、ちと中断されてしもうたがの。波風ミナト」
「はっ」
「そなたを四代目火影に任命する」
「謹んでお受け致します」


ホッと安堵の空気が流れ、次の瞬間、わっと歓喜が湧いた。皆、口々にお祝いを述べる。
それを遮るように三代目が一つ咳払いをした。

「さて、この事を各国大名に知らしめねばならぬ。それと就任式の準備じゃ。その任を奈良、山中、秋道、三名に言い渡す。しかとやれよ」

「はっ」


三代目は満足げに微笑むと、帰っていった。



「ミナト、やったな!おめでとう」


ガシッとミナトの首に腕を廻し、ワシャワシャと髪をかき混ぜながら奈良が祝う。続く山中も秋道も、乱暴とも言えるくらいの祝いを述べた。
同期ではなかったが、同い年ということで、この4人は仲が良かった。

一通りもみくちゃにした後、準備があるからと三人は出て行った。
その後も、次々とその場にいた者達が祝いを述べ、会議室を出て行く。


最後にカカシが残された。カカシは入って来た時のまま、壁に寄りかかり座っていた。



「カカシ」


ミナトに呼ばれ、のそりと立ち上がるカカシ。


「…センセ…センセ、かっこよかった」


そう言って微笑んだカカシの瞳が不安げに揺れる。ミナトはそっとカカシの頬に手を延ばす。


「どうしたの? オレが火影じゃ、やっぱりカカシは不安かな?」
「違っ! 不安はないけど…」

「けど?」


「…何でもありません…」

「カカシ」と呼んで、じっと片方だけ晒されている瞳を見つめる。すると、カカシはにっこりと笑ってこう言った。

「オレのセンセが火影になるなんて、すっごい自慢だな」

ミナトはそれを聞くと、少し照れたような困ったような複雑な顔をした。


「事前にカカシに言わなかったのは悪かったと思ってる。ごめんね、カカシ。でも決意してからそんなに時間が経っていないんだ」

「うん…」

「火影になっても、オレはオレだから」


そう言ってカカシをきつく抱き締めた。

「お前の先生であることに変わりはないし…」


そう言った後、一段声を低めてカカシの耳元に唇を寄せ囁いた。

「恋人であることも変わらないよ」


その瞬間、パッと顔を上げ目を大きく見開いてミナトを見つめ返すカカシ。


「オレが火影になったら、恋人関係は終わりだと思った?」

ミナトは、カカシの態度に苦笑しつつ聞いた。


「…少し…」

少し泣きそうな、でもどこか嬉しそうな顔でカカシは答えた。


「カカシは少し考え過ぎなんだよ。愛してるって言ったでしょ? 信じてよ」
「うん…ごめんなさい…」
「まあ、いいさ。誰だって驚いちゃうよね、恋人が火影になんかなっちゃ…でも、オレは変わらないから」
「うん…」
「好きだよ」
「…オレ…も…」

しっかり抱き締め合いながら、少し砕けた雰囲気でミナトは言った。


「カカシ、“オレも゛だけじゃなくて、他に言うことあるでしょ? 言ってくれなきゃ、今度はオレの方が不安になっちゃうよ」

「あ…あの、でも…ここ…」

「二人きりだよ? せめてその時くらいちゃんとカカシの口から聞きたいな」


「センセ…オレも好き…。それと…おめでと、センセ」
「ん、ありがと、カカシ」



二人は唇を重ね、それぞれが心の中で誓いを立てるのであった。


カカシは、もっともっと強くなると。火影の傍にいられるように。

ミナトは、里を、そこに住む人々を守れるように。そして何よりカカシを守り抜くと。





08.07.08








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