好きだから
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「オレの父ちゃんって、どんな人だった?」

唐突にされた質問。沈みゆく夕日に照らされて、銀色の髪がオレンジ色に染まる。


「んー、優しい人だったよ。穏やかで滅多に怒鳴ることもなかったし。笑顔がね、凄く似合う人」


そう言うカカシの顔も穏やかで、彼の人への想いが滲み出ていた。

「ふーん」
「なによ、その気のない返事は。せっかく教えてあげてるのに」
「あはは…ごめんってばよ。んで?」

「まったく…。お前と違って読書好きだったよ」
「うげぇ、父ちゃんって本が好きだったのか〜。やんなっちゃうな〜」
「何でよ?」
「えー、だって、お前も父ちゃんみたいに勉強しろって言われそうじゃん」
「お前は読まなすぎなんだよ。火影になりたかったら少しは勉強しなさいよ」

呆れてカカシが言えば、

「だってよ〜、眠くなっちまうんだってば。こう、難しい本ってさ…」

と言い訳をかます。


「ま、四代目も読書は好きだったけど、デスクワークは嫌いだったからねぇ…」


しみじみとカカシが思い出すように言えば、ナルトは身を乗り出すように聞いてきた。

「ホントか? ホントに嫌いだったってば?」

「ホントだよ。何度執務室を抜け出して、探しに行ったことか…」


やれやれといった感じに息を吐き出したカカシであったが、その表情はどこか嬉しそうである。
その顔に、なんとなく面白くないものを感じるナルト。カカシが幸せそうにしているのを見るのは嫌じゃない。むしろ嬉しいと思う。けれど、それは自分がカカシを喜ばせてこそだ。
今、カカシは自分の父親への想いで穏やかな、幸せそうな雰囲気を出しているのだ。そこに少しの嫉妬が混じってしまうのは仕方のない事だろう。


「だけど、忍術には妥協しない人だった。ナルト、お前みたいに一生懸命だったよ」


にこりと微笑んでカカシが言った。
ナルトは、少しは自分がカカシに認められた気がして、カカシの笑顔につられてにかっと笑った。



にかっと笑った顔を見て、カカシは目を逸らした。その笑顔はかつて愛した人とそっくりだっけから。


少年の頃、その笑顔は自分を支えてくれた。その笑顔を見る為に頑張ってきた。
けれど、今その笑顔にそっくりな顔を見るのは辛い。思い出が溢れ返ってくるから。どれほど大事にされてきたか、どれほど愛されてきたか。
今でも自分の心を占領している、会いたくても会えない人。
カカシは空を眺め、愛しい人へと想いを馳せた。


すると突然ベッドへと押し倒され、激しく口づけられた。
あまりの激しさに息が出来ない。押し返そうともがいても、ナルトの身体はピクとも動かない。
既にこんなにも力の差がついてしまったのかと、情けなくもあり、悔しくもあり。
ドンドンとナルトの背中を叩き苦しさを訴えると、ようやく唇が離れていった。
しかし、それも束の間。再び顎を掴み口唇を合わせてくる。
今度は幾分落ち着いたものの、口内を荒らす舌は熱を持って絡み付いてくる。
閨術を指南した時とは格段に上手くなって、カカシの感じるところを覚えてでもいるかのように蹂躙していった。
次第に意識が薄れていくようで、カカシの身体から力が抜けていった。


それを了解と取ったのか、シャツの裾から手を入れ弄ってくる。
カカシはその時になって、初めて抵抗した。ナルトと肉体関係を持つ気はなかったから。


「何で?先生だって、けっこうその気じゃん」

既に脚の間に入り込んだナルトに高ぶりを押し付けられ、自身の高ぶりも知られてしまった。これでは言い訳のしようがない。


「…ヤるなら、確認しておきたいことがある」
「なんだってばよ?」

「…ただの遊びなら付き合ってやる。だが、そうじゃないなら…止めてくれ…」
「…遊びはいいけど、本気はダメってこと?」


「…そうだ」
「なんだってばよ!オレの気持ちはあの時言ったよな!?あの時から、ちっとも変わってねぇってばよ。それなのに、なんで…」

カカシの少し辛そうな顔を見て、ナルトは先を続けられなくなった。
カカシはナルトの言葉を引き継ぐように静かに話す。

「…オレの気持ちも、あの頃から変わってないからだよ。オレに関われば、お前が傷つくだけだから…だから…」

「そんなの知らねぇってばよ。それはオレが傷つくからじゃなくて、先生が傷つくからじゃねぇの?」



辛辣な言葉がナルトの口から紡ぎ出される。


「オレは先生が好きで、先生は別の誰かを好きで。付き合ってもオレの気持ちに応えられなくて、その事にオレが傷ついて。そしてオレが傷付いたことにカカシ先生は傷つくんだよな?」


遠慮もなく言い当ててくるナルト。「分かっているなら…」と続けた言葉も遮られる。


「オレだって、諦めようと思ったってばよ。忘れようといろんな奴と付き合った。だけど、ダメだった。どんな時も、カカシ先生の面影を探しちまうんだ…。見てないって言われた。自分のことを見てないで、他の人を見てるって。そう言われて初めて気が付いた。カカシ先生の言ってた事。カカシ先生が誰かを忘れられないように、オレもカカシ先生のことが忘れられねぇ」


そこまで言って、ナルトはカカシの肩に顔を埋めた。


「オレは先生のことを傷つけたい訳じゃねぇってばよ。愛したいんだ…カカシ先生と幸せになりたい…。先生がオレのこと好きじゃなくても、オレが先生を好きじゃいけねぇの?」


「…ナルト…お前はその辛さを知らないから…「知ってるってばよ!そんなもん、とっくに経験済みだってばよ…」
「ナルト…」
「オレは先生が好きだ。好きで好きでたまらねぇ。この気持ちは嘘にしたくない。先生を好きでいることも許してもらえねぇの?」

「…………」

遠い昔、かつて少年だった自分が抱いた感情を、今ナルトが抱いている。その気持ちは痛いほどよく分かる。もう、カカシにはナルトを拒否することは出来なかった。


「生半可なことじゃないんだよ?オレもお前も…」
「覚悟の上だってばよ」


真剣な眼差しで見下ろしてくる顔に、幼い日の面影はなく、精悍な男の顔を持ってカカシを見ていた。

カカシは小さく一つため息をついた。


「まったく、バカだね…」
「バカでいいってばよ。カカシ先生を諦めるくらいならバカのまんまでいるってばよ」


ニシシとナルトが笑う。つられてカカシも苦笑する。


「オレを落とすなんて10年早いよ」
「何年かかったって、必ずオレのものにしてみせるってばよ」


そして、ニカッと笑ったかと思うと

「なぁ、もういっぺんキスしていい?」

とほざいた。

「ふざけるな!」
「そんな怖い顔したってムダだってばよ。力ならオレの方が強いの分かっちまったし」


そう言って、ナルトはカカシに口づけた。




END
08.12.28








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