ナル誕1p/1P
その日、里のどこを探しても先生は見つからなかった。
分かってるってばよ。この日はカカシ先生にとって…。
オレには会いたくないよな…。
そんなことを考えちまう自分も嫌だけどな。
今日、先生には任務は入っていない。なのに、姿も、気配さえも感じないってのは、先生が故意に気配を断ってるってことだ。
この日、オレが生まれた日は多くの里人の命日でもある。
誕生日を祝われるというより、慰霊祭が行われるという感じが強い。
その度にオレは生まれてこなければ良かったと思った。
そんな思いに駆られ、オレは里のはずれをぷらぷらしながら時間を潰した。
本当はカカシ先生に祝ってもらいたかったけど、それは仕方ねぇ。
先生だってオレを祝うより、四代目…を偲んでいたいんだろう。
オレはでっかいため息を吐いて里に戻った。大分欠けた月がオレを照らして、なんかちょっと切ない気になってしまった。
誰もいない自宅に戻る気がしなくて、会えなくて元々とカカシ先生の家に行ってみた。
カカシ先生が住んでいるのは上忍寮の五階の一番端。
そこを見上げれば、灯りが点いていた。
オレは一気に駆け上がり、カカシ先生の部屋へと上がり込んだ。
カカシ先生は椅子に跨いで座り、背もたれに腕を交差させてその上に顎を乗せてオーブンレンジを見つめていた。
だけど、それを見つめる瞳はどこか虚ろで寂しげだった。
そして信じらんない事に、オーブンからは甘ったるい匂いが漂っている。
甘いものの苦手な先生から、こんなに甘い匂いを嗅ぐなんて、そんな現実を目の当たりにしてさえ信じられなかった。
「カカシ先生、何やってんの?」
「ん〜? アップルパイ作ってんの」
「アップルパイ!?」
「そ。お前アップルパイ嫌い?」
「ンな訳ねぇって。甘いのは大好きだってばよ」
そう言ったら先生はちらっとオレを見て、ふ…と笑った。
先生がオレを見て笑った!
オレはそれだけで幸せだってばよ。
「今日、お前誕生日でしょ?」
「え? もしかしてオレの為に?」
「…ま、あね…」
「先生、オレ感激だってばよ!先生がオレの為に作ってくれるなんて!」
「大げさだよ。言っとくけど、生地は冷凍よ?オレはりんご煮ただけなんだから」
「それだって先生が作ってくれた事に変わりはないってばよ」
先生の後ろから抱きつこうとしたら、いいタイミングでレンジからチンと焼きあがった音がした。
カカシ先生はパイを取り出しながら聞いてきた。
「どうする?熱いまま食べる? それとも日付変わっちゃうけど、冷ましてから食べる?」
「今食べたいってばよ!」
先生はわかったと言ってパイを切り出し、皿に乗せて出してくれた。
うわ〜、旨そう!
あれ? 皿がカカシ先生の分の他にもう一枚ある。
「カカシ先生、誰か来んのか?」
「これはセンセの分。やっぱり一緒に祝いたいでしょ。そういうの好きな人だったから」
「あの、あのさ…」
「何?」
「カカシ先生は…とーちゃんの墓参りとか行ったの?」
「行かないよ」
「なんでだってばよ!?」
「なんでって…。ちゃんとセンセの誕生日に墓参りに行ったからいいんだよ」
(その日はオレにとって置いてけぼりにされた日なんだよ…。そんな日に墓参りなんて行きたくないよ…なじっちゃうじゃない…)
カカシ先生は何故か悲しそうな顔をして、目を伏せた。
オレはそれ以上何も言う事が出来なくて、やけくそ気味にアップルパイを口の中に放り込んだ。
「あ!すっげぇ美味い!」
「そう?」
「うん、これならいくつだって食べられるってばよ!ああ、オレってば幸せ!」
「お世辞言ってもそれ以上は何もないよ」
「お世辞じゃないって!ホントに美味いんだって!」
「お前が満足してくれて嬉しいよ」
「誕生日、おめでとう」
カカシ先生はそう言って優しく微笑んだ。
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