ノア
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◆陣営 : Evil
◆名前 : ノア
◆性別 : 男
◆年齢 :不詳 (25歳)
◆身長 : 170cm
◆体重 : 57kg
◆血液型 : 不明
◆ステータス
【HP/8(+8)、攻撃/10(+37)、魔適/8(+2)、耐久/5(+15)、魔耐/4(+11)、敏捷/9(+20)】
◆装着スキル / SP : 300(+450)
◆
個人ページ
◆概要
夜の闇のように真っ黒な髪に、深淵を思わせる深い黒の瞳。
黒の瞳は虚ろさをまとい、光を飲み込むようにさえ感じる。
顔立ちは東洋的で、肌は白さが目立つが、白人と言えるほど白く無い。
セミロングほどの髪をハーフアップにしている。アホ毛つき。
童顔気味で、女顔。
中性的な容姿で、18歳の頃から外見が変化していないという。
そのためか、性別と年齢がやや不詳な面を持つ。
アサシンとしての様々な技術に長けている。
多種多様な言語をマスターしているが母語は英語。
語尾が間延びする癖がある。
真面目だったり気が抜け切ったりするとその癖がやんわりと取れる。
相手に合わせて口調や性格を変えることがあるが、それは相手への警戒心の現れに近い。
彼の性格は、飽きっぽくて気まぐれで破綻している、人から外れた性格と、
情に弱く表情豊かで少し幼い、人間的な性格のふたつに大きくわけることができる。
人格が分かれているわけではなく、
彼の感情や心境に合わせて水のようにゆらゆらとしている。
皮肉屋で思考の回転が早く、滅多なことでは動揺しない。
一人称「僕」/二人称「君」「お前」「あんた」
「僕、飴が好きなんだぁ。飴以外の甘いものはNo thank youだけどねー?」
「言ってることが矛盾してるってー?
あは、人間なんて矛盾する生き物なんだよぉ、
これくらいで気にするなんて君、器が小さいなぁ」
「黙れ三下。僕は今、すっごく機嫌が悪いんだよぉ」
「ここは変な人が多いね。……嫌いじゃないよ」
ファミリーネームが無いのは「偽名だからだよぉ」とのこと。
思い出すことに関しては「どうでもいいやぁ」らしい。
仲間意識は薄いが、気に入った相手には好意的(当者比)に接する。
飽きるときは早々に飽きる。
◆返還記憶による変化
「ノア」はあくまで偽名。彼にとっての真名は「ノア・シャディー」である。
ただし真名を名乗ることは極めて稀で、基本的には「ノア」とだけ名乗る。
親しい相手には真名を教えることもあるだろう。
逆に、親しくない相手に知られると途端に機嫌が悪くなる。
かつては自分が確立されていないことによる不安定さが見られたが、
人との交流やこの世界で得た記憶のおかげか、精神面はかなり安定した。
「僕は何があっても“ノア”だ」そう言いきる彼は自信に満ちている。
自分が造られた存在で、どういったものなのかを思い出した。
そのことから自身の思考に時折不安を覚え、
また、余命が短いことにも少なからず思うことはあるようだ。
アサシン業をしていたことは覚えているが、記憶の中の自身の姿から、
少なくともアサシンはとうに引退し、
その技術を生かしながら「何でも屋」に所属していたのだろうと感じている。
記憶の中で孤児を拾っていたことを思い出し、
いつかは帰らなくてはならないという思考を持つようになった。
◆返還記憶-----
*(Idler Tailor:「初めてもらった飴」の記憶を代償に差し出した)
彼は孤児だった。
孤児院に数多いる子供の一人だった。
親の顔も知らないままに育ったことに特別不満を感じたわけではないが、
その孤児院で与えられた名前と居場所に馴染めなかったのは事実だった。
そして彼は孤児院を抜け出した。
生きるために人を殺すこともいとわなかった。
どれだけ地獄の日々を送ろうが、
子供にとってはこちらの生活の方が遥かに安らいだという。
「お前は捨てられたんだよ」
なんで。
「お前はもう必要ない」
どうして。
「気に入ってたんだけどねぇ、使える駒は使っておかないと」
愛してくれたんじゃないのか。
「……え、」
「どうして、僕を裏切ったの」どうして?
落とした首から赤が溢れる。
雨に流されながらもなお、その色は薄まらない。──汚い色だ。
そこから先はよく覚えていない。
ただ、自分の体が自分のものじゃない赤に染まっていったことだけは明瞭で
──気づいたらあの人が目の前にいて。
「テディ……アンタ、何で生きて……っ!」
「その名前で、呼ぶな」吐き気がする。
「なぁ、許しておくれよ……仕方なかったんだって…
…上からの命でさ……アンタを捨てなきゃ、
アタシが死ぬって言われて……」
「黙れ」
「テディ、愛してるよ」
「黙れ!!」
響いた発砲音。ぐらりとあの人の体が傾く。
テディを愛した女は物言わぬ躯になった。
──本当に愛していたのかすら、僕には分からない。
「人間なんてもう、信じるものか」
躯を蹴り飛ばし、僕は闇を駆ける。
自分の身についた赤が少しずつ雨に流されていく。
自分の頬に流れるものが雨なのか涙なのか、その時は理解できなかった。
ただ、“人間”に失望したのだ。
人間が、あいつらが、自分と同じモノだと、どうしても感じられなかった。
これは、ある組織に属していた、一人のアサシンの記憶。
テディと呼ばれていた、少年の記憶。
何度本を読み返しても、何度人の行動を目の当たりにしても。
僕はそれを理解できない。
なんで? どうして?
疑問ばかりが溢れる。
そんな僕は周りから不気味がられて、いつも独りで。
不気味な僕は嫌われものだから、殴られて。
人間ってなんだろう。
僕も人間のはずなのに、どうして理解できないんだろう。
人間らしくしようとしても、上手くできないんだ。
──6歳、「ラック」の記憶。
「帰ってきてくれて嬉しいよ、ツヴァイ!」
僕によく似た背格好の男はにやりと笑う。
まるで鏡を見ているような錯覚に陥る。
「さぁ、君の見た世界を教えてくれ。
人間として生きた君の世界を、記憶を、視界を!」
「はぁ?」
僕は心底呆れた、と言わんばかりに言葉を吐いた。
「それを知ってどうするのさぁ、“人外”。
これは僕の人生で、僕だけのものなのにさー?
例え僕がお前のコピーだろうと、僕の人生をお前に重ねてやる義理は無い」
僕は二丁の拳銃を向ける。人殺し? はは、まさか。
だって目の前のこいつは人じゃない。
「それに、僕の名前はツヴァイじゃない、────だ。
さっさと消えなよオトーサマ」
パンッと軽く、重い音が、響いた。
「ツヴァイ」と呼ばれた記憶。
最後に名乗った僕の名前は、なんだったのだろう。
彼の名前は「ロキ=ラティーナ」。
彼のことは詳しく知らない。
僕も僕のことはまだ思い出し切れてない。
だけどどこか、僕たちは似ている。そう感じた。
君とは「またね」と言って別れた。
本当に会えるのかは分からない。
だけど、胸に残ったこの記憶はちゃんと持っていくから。
僕は何があっても“ノア”だ。
それだけはきっと、この先も変わらない。
だからねロキ、君もどうか、見失わないで欲しい。
それにしても、あの花冠、
本当にとっといてあるのかなぁ……。
──25歳、箱庭の「ノア」の記憶。
僕の体にはガタが来始めている。
時に音が遠くなって。
時に視界がぼやけて。
時に物を握る感覚が鈍くなる。
知っていた、いつか来る未来。
僕の命が長くないなんてこと、とっくに知っていた。
だけど。それでも。
もっと生きたいと思う、願う。
いろんなものを見たい、いろんなものを知りたい。
いろんなものを聞きたい、いろんなものを与えたい。
隣にいる小さな子供が、僕の手を握る。
そうだ、そう。この子を守りたいんだ。
そして、この子に何かを残したい。
ああ、本当、時間が足りない。
もっと生きたいのに、なぁ。
──25歳、「ノア・シャディー」の記憶。
僕は所謂「何でも屋」に所属していた。
仕事は名前の通り、なんでも。
ただし殺しは基本的に無し。
半殺しはノーカウント。
僕が21歳の頃、いつものような依頼があった。
だけどそれが、大きな事件になっちゃって、巻き込まれて。
そうだ、この「研究所」を壊さないといけないと、そう確信して、それで、
君を殺すのも、仕事のうちだったっけ。
ねぇ、ツヴァイ──いや、「ドライ」。
僕とそっくりな顔で、そっくりな外見で。
僕を睨み付ける黒い目が、妙に印象に残ったんだ。
──21歳、「ドライ」と対峙した記憶。
そこはあまりにも居心地が悪かった。
僕の知らないものだらけで、どうすればいいのか分からなかった。
どんな口調で、どんな仕草で、どんな表情でそこにいればいいのか。
だから怖くて、逃げて……でも、行くあてがその時の僕にあるわけもなくて。
結局僕はそこに戻った。すぐに戻るのは怖くて、落ち着いたころに。
顔を出せば、そこは何も変わって無くて、「おかえり」と言われて。
そこはいつも通りに居心地が悪かった。
金髪の女性を見る。母親ってこういう感じなのだろうか。
アルビノの子供を見る。妹がいるってこんな感じなのかもしれない。
僕は家族を知らないけど、ただ、そこがすごく温かいというのだけは理解できて。
……僕はここにいてもいいのだろうか。
「ノア・シャディー」でいても、いいのだろうか。
──19歳、「ノア・シャディー」の記憶。
僕の目の前で、僕に似た君の腕が切り離され、空を舞った。
僕に似た君は、ゆっくりと瞼を下ろそうとしている。
終わりと、無情の現実を感じたその一瞬。
音の出なかった声は、確かに君を呼ぼうとしていた。
だけど、血が沸き立つような感覚に襲われるだけだった。
それが最期の別れだと、誰だって思った筈なのに。
「あれ、」
僕の思いを叶えたみたいに。
意識を取り戻した君は、腕も無事に再生している。
君の、いや、これは僕の能力だ。
僕は再生の能力を手に入れてしまったみたいだ。
――××歳、「×××」の記憶。
仲間と素直に、心の底から笑い合っている。
金髪の女性が僕に飴をくれる。甘いのは嫌いだけど飴は嫌いじゃない。
アルビノの少女が僕を慕ってくる。僕の名前を呼ぶ。
『のあー!』少女が呼ぶ声。 『ノア、どうしたんだい?』女性の、少し低めの声。
僕はきっとふにゃけた笑みを浮かべているんだろう。
その名前で呼ばれるのが嬉しい。
……だけど、幸せすぎて、ときどき足元がおぼつかなくなるんだ。
「(怖いなぁ)」そう呟いたのは、現実だったか夢の中だったか。
「おはよう、ノア・シャディー! おしごと! おきて!」
「ぐえっ」
突然腹に感じた圧量に僕は蛙が潰されたような声を出してしまった。
「……××××、起こしてくれるのはいいけど、お腹に乗るのはやめて……」
「ノアがおねぼうさんだからだもん!」
「はいはい」
「……ノア、なにかゆめ、みてた?」
「え?」
「ないてる」
「え、うそ、……わ、ほんとだ」
「かなしい?」
「……んー……どうだろうなぁ、……幸せで、寂しかったかもしれないやぁ」
それはあまりにも穏やかで、あまりにも平和で、あまりにも幸せだった、そんな光景。
この時間が終わらないでほしいと、願わずにはいられなかったんだ。
──21歳、「ノア・シャディー」の記憶。
きっとあの頃の僕にとっては、幸せが多すぎたんだろう。
これが僕。ノア・シャディーの正体。
目の前の資料をぐしゃりと握りつぶす。
信じたくない。いやだ。
だって、僕は確かに誰でも無かったけど、それでも人間だって思ってたのに。
そう思えたのに。
そうじゃないなんて、思いたくない。
握りつぶされた資料に書かれた真実。
“製造番号 N-02
識別名 ツヴァイ
人外ノノの細胞から作られ、人の形を成した2番目のクローン体
クローン体にはそれぞれノノの精神構造を植え込み──”
僕は、人間じゃない? それどころか、“僕”ですらない?
なんだよそれ。
なんだよそれ!!
「っ、は、あは、あははははっ!」
壊れたように笑う。涙が頬を伝う。
分からない、分からない、分かりたくない。
僕は誰なの。なんだっけ、僕の名前、僕の、
「ノア!」
誰かに呼ばれた、小さな腕に抱きしめられた。
小さな彼女の名前を、僕は力なく呟いた。
──21歳、「ノア・シャディー」が「ツヴァイ」を知った記憶。
目の前の僕と同じ顔をした男は呟いた。
「真実を知る勇気はあるか?」
僕より幾分長い黒の髪を揺らし、拘束具を身に付けた彼はいっそ穏やかに笑った。
「この研究所を壊すんだろう?
大した力にはなれないけど、私でよければ手を貸すよ」
「……いいの?」
「その問いは不利益なものだね。
君たちは私が手を貸さずともここを壊すのだから」
「……」
「まぁ、私としてもそろそろ終わりたいと思っていたところだよ。
私はもう、眠りたいんだ」
「……アイン、」
「さて、ノアくん。君はこの先で真実を知ることになるだろう。
だけど……君は一人じゃないのだろう? 忘れちゃ駄目だよ」
黒い瞳を細めて懐かしそうに、
悲しそうに笑う彼が何者なのか知らないまま、僕は彼の言葉に頷いた。
──21歳、「ノア・シャディー」が「アイン」に出会った記憶。
色を拒絶するような白くて長い髪と、毒をはらんだような赤い目の男。
その性格は決していいものではなく、むしろ屑と呼んで差し支えない、そんなやつ。
僕はそんな君が嫌いで、そんな君を好んでいた。
僕に友人と呼べる存在がいるとしたら君のことなんだろう。
異質な君と異質な僕。存外相性がよかったのかもしれないね。
悪趣味な部屋で適当に戯れて、他愛ない話をして、口喧嘩もほどほどにして。
そんな何気ないような、その頃の僕にしては少し珍しいような、思い出。
──20歳、白い男との何気ない記憶。
灰色の町に雨が降る。
僕はその中で、血を流して倒れている。
そこに、長い金色の髪を揺らして女性が現れた。
「おい、しっかりしな!」
だけど僕の意識は長くは続かなくて、
一言二言反応を返したところで僕の記憶は一度途切れる。
ただ、彼女が僕を手当する気なのだろうことは、なんとなく理解していた。
気がつけばその女性の家で、小さなアルビノの子供に妙に懐かれていた。
「あんたの名前は?」
金髪の女性に問われる。僕はとっさに、「ノア」という偽名を名乗った。
だって僕には名前なんて無かったから。
必要になるたびに、土地を移るたびに、適当な偽名を使っていたから。
だから今回も、その程度のことだった。それだけのはずだった。
「よろしくね、ノア」
「よろしくー!」
金髪の女性が、アルビノの子供が、笑う。
何でも屋シャディーの一員に“ノア”が加わった、その日の記憶。
それが僕の、「ノア・シャディー」の生まれた日。
──19歳、「ノア」の、「ノア・シャディー」の記憶。
ああ、ようやく思い出した。僕の、最初で最後の“僕”だけの名前。
愛されたいと望んだことは罪なのか。
認めてほしいと望んだことは罪なのか。
それが罪で、これが罰なのか。
そうだとしたら、この世はなんて理不尽なんだろう。
「“僕”を愛してると言ったのは嘘か」
「“僕”を認めてくれたのは嘘か」
痛い、痛い。胸のあたりがずきりと痛んで、思考がまとまらない。
「どうして、」
会わなきゃ。会って、確かめなきゃ。
血を流し、雨に濡れた重い体を引きずって、あの人がいるところを目指す。
彼女はあそこにいるはず。
そこで聞こえた言葉は、
「気に入ってたんだけどねぇ、使える駒は使っておかないと」
彼女が僕を捨てたのだと告げるものだった。
……僕の中で、ナニカが割れたような、そんな感覚がした。
──16歳、「テディ」の記憶。
──はどうして生まれたんだろう。──はどうしてここにいるんだろう。
そもそも──は“生まれた”と言えるのだろうか。──は存在していると言えるのだろうか。
あぁ、また、あふれる、壊れる。怖い、苦しい、寂しい。
“僕”を愛して。“僕”を認めて。
そんな人間じみた感情がぼろぼろとこぼれて、止められなくて。
「なんだ、またか」
響いた少女の声はどこまでも無感情で、色が無かった。
“僕”は消されるらしい。
どうせなら、もっと早く逃げてみればよかった。
悔やんだところでもう手遅れ。
「──バイバイ、×××」
そう言った僕はどんな顔をしていたのだろう。
──×××、「××」×××。
石の墓の前に花を供える。
「あの子はもう寿命だった。あなたが気に病むことじゃない」
金髪を揺らして、目元に包帯を巻いた彼が言う。
「そうだとしても、助けられなかったことには変わりないよ」
ぽつりと言葉をこぼす。
「僕があの子を止めることが出来たなら。僕が、僕に、力があれば」
あの子は死ななかったんじゃないのか。そう思わずにいられない。
隣に立つ彼は言葉を失っているようだった。
墓石を撫でて、僕は立ち上がる。
そこに刻まれた名前は「Teddy」。
僕があげた彼の名前。
もっと、彼にいろんなものを見せたかった。
でも、そう、きっとそれだけじゃなくて。
“僕”と同じ存在がもう、彼も含めていなくなってしまったことにも。
どこか寂しいと、哀しいと感じていたのかもしれない。
──23歳、「テディ」の墓石の前での記憶。
未完成な世界である白い少女。
初めて聞いたときはなんて大層な肩書だろうと思ったっけ。
だけど、話しているうちに、君は、
なんてことはない、生きて思考して、声をあげる"ひと"だった。
君と見たあの空はどこまでも真っ青で、綺麗だったことを覚えている。
Happy Birthday, セイ。
完成した世界で、君はどこまでも生きていた。
幸せを歌う君が、涙をこぼして、笑って、
僕もまた、笑って、涙をこぼした。
あぁ、こんなにも温かい。
……僕を呼んでくれて、ありがとう。
──箱庭の「ノア」の、「セイ」の記憶。
「アンタは可愛いねぇ」
何度そう言われたのか、数える気すら起きないほどに繰り返される言葉。
「子供を持とうなんて思ったことは無いけど、アンタみたいな子なら大歓迎だ」
「そう」
女の指が僕の頬を撫でる。僕は無機質に返す。
「ああ、テディ、愛しい子」
「いとしい?」
「アンタを愛してるってことさ」
「あい……?」
女の使う言葉は知識として知っていても理解が及ばない。
「アンタは親を知らなかったねぇ」
ゆるやかに押し倒されて、(あぁ、またか)
この先を思って、だけど何かを思うことも無い。
「私がアンタの母親代わりさ、ちょうどいいだろ?」
言いながら笑う女の手は、真っ黒な髪は、なんとなく気持ち悪かった。
──13歳、「テディ」と名付けられた少年の記憶。
“終わりの始まり”の色だと思った。
どうしてそう思ったのかまでは分からないけれど。
それでも。
雲を裂いた中から覗く、夜に向かう空の中、
僕は確かに君に出会った。
“君との別れ”という名の“終わり”が始まった、
そんな「空」との出会い。
――箱庭の「ノア」の、" "との記憶。
それは僕の救いで。それは彼の救いだった。
僕より少し幼い、僕と同じ顔をした彼に銃口を向ける。
「やっぱり僕は、失敗作なんだなぁ」力なく呟かれる言葉。
僕は彼に銃口を向ける。引き金に指をかける、彼が目をつむる。
放たれた弾丸は、彼の背後に落ちた。
「……。……え、」
真っ黒な目を開いた彼は困惑しているようだった。
なんで、どうして殺さない、なんで。
僕はひとつ笑みをこぼした。
「お望み通り、“ドライ”は死んだよ。満足かい?」
「……っ、なにを、」
僕の行動を理解できないと彼は言って憤る。
その姿に昔の自信が重なって、僕はまた笑みを浮かべる。
「ツヴァイになるとか、ドライを認めてほしいとか、随分と窮屈な考えじゃないか。
悪いとは言わないけどさぁ……もう少し違うものも見てみたらいいんじゃないの」
それと、僕の名前はツヴァイじゃなくてノア・シャディーだよ。
そう付け加えて、それから彼を見やれば、何やら考えているようで。
「そんなに、その名前が大切なの?」
「……うん。だってこれが僕だから」
「……名前、」
いいな、と言葉がこぼれたのを、僕は見逃さなかった。
「んー……そうだなぁ、僕のお古でよければあげようか?」
「お古……?」
「うん。“テディ”って名前。君なら勝手に使って好きにしていいよ」
「テディ、」
「不満?」
「……わからない」
「顔がにやついてるよ、テディ」
「な……っ、知らない!」
「あははっ!」
拗ねたように怒る彼の顔は、どこか自由だと感じて、
彼にもっといろいろ見せてあげたいなと、そんなことをぼんやり考えたんだ。
──21歳、「ドライ」に「テディ」をあげた記憶。