東堂 紫音
◆
Image◆(
@あきまち様)
◆陣営:Evil
◆名前:東堂 紫音 (とうどう しおん)
◆性別:不明
◆年齢:16
◆身長:156cm
◆ステータス
【HP/2(+31)、攻撃/9(+41)、魔適/9(+41)、耐久/2(+3)、魔耐/1(+7)、敏捷/1(+49)】
◆装着スキル / SP : 300(+310)
◆
個人ページ
中性的な容姿をしている。
腰まで伸びた藤色の緩いウェーブの髪に、勿忘草色の眼が特徴。
明るく無邪気で、素直に、好きを表現する事が多くなった。
初対面の人に対しては少し人見知り。
自分が興味を抱いた事に対しては積極的に行動に移すが、
それ以外は蚊帳の外、と見向きもしない。
良くも悪くも自分のやりたいことを気ままに楽しんでいる。
『幸運』に恵まれているが、代わりに周りのものが不幸を被ることがある。
手先が器用だが、機械弄りや家事といった作業は不得意。
身軽さがウリで逃げ足が早い。言葉を選ぶのは少し苦手な様子。
甘えられる時に存分に甘えておこう精神で大分図太い。
◆返還記憶による変化
ある研究組織の下部に位置する、テロ組織『B.B』の創始者。
紛争孤児達を集めてテロリストグループを結成した。
個人に特定の感情をあまり持たないように努めていた。
また、自身のある目的の為にも世界全てが敵となるように動き、
「自分が死ぬしか後がない状況」を無理やり作りだすという、遠回しな自殺を目論んでいた。
最期の記憶により、自身が銃身自殺を行った事を理解しており、
その後の記憶が無い事から、戻ればそのまま自分は命を落とすのだろうと薄々察している。
時折、ふいに、左側頭部に痛みが走るようになった。
好きな人にのみ正直さを発揮する、少し幼げな子供らしい性格。
また極一部の人達にのみ、見せる笑顔は大きく異なるようだ。
思考的には、外見年齢とは裏腹に大分大人びた考え方をする。
かつての自分のように、"イレギュラー"を待つ人を放っておけない。
ただ我のままに手を出してしまうが、その人の意に沿わぬ事はしない。
また、どこかで見たようなマフラーを巻いて出歩く姿をよく見かけるようになるだろう。
記憶をほぼ取り戻しつつある今、有限な時間を使い、
ただ自分に出来ることを出来るだけやってから、悔いなく元の世界へ戻ろうと思っている。
やり残している事を、やってみたいだけだ。
「それでもと、足掻いて何が悪い。笑うな」
「……僕は、ようやく" "を、」
「始めよう。まだ終わらせないよ、僕が此処に要る限りは!…なんてね?」
◆返還記憶-----
*(Idler Tailor:「共犯者 テトラ」に関する記憶を代償に差し出した)
…また、「幸いにも」死なずにすんだ。
……幸いとは何か?
僕が死ぬ代わりとばかりに、命を落としてしまったあの子は。
幸い以外の全てを犠牲にしてでも、
僕にはやらなきゃいけないことがあった。
どうして僕は、死ななかったんだろう。
どうして僕は、死ななきゃいけないんだろう。
……、…、やっぱり、寂しいよ。
自分にはやらなければいけないことがあった。それは、未来を作ること。
何か、大切なものがあった。自分はそれを見て…、それが指し示した未来のために。
人も殺したし、大事なものも壊した。たくさん捨ててきた。
もう、後戻りできなくするために。
歌の言葉を、思い出した。
傷だらけのその腕で
右手に握り締めたこの刃ごと
あなたは「私」を強く強く抱きしめる。
何もかもが歪んでいた
裏切りながら"信じなさい"
信じたいものは何?
伝えたいことは何だった?
いつか鎖した扉の向こうに
千切れたもう一人の自分が居た。
どれだけの痛みを伴ってどれだけの絶望に堕ちても
あなたを想うだけで「私」は何度でも息を吹き返す。
あなたが「私」にくれたココロや、言葉や、ぬくもりが
今この瞬間、黒い海に光の矢を放つ。
ねえ、聞こえていたよ、ずっと、ずっと。
『君の音に言の葉を』
最後に思い出すのは、大嫌いな君の名前にしよう。
只、僕だけの"唯一"が欲しかったんだ。
ごめんなさい。
もう、望まないから。
椿の其の癖だけが嫌いだった。
可愛い女の子に言い寄られたら、直ぐに顔を緩ませて、
相手の髪に指を絡ませて、可愛い、可愛いって口にするんだ。
僕が怒ると少し焦ったような顔をして何時もこう言う。
「ほら、目の前に可愛い女の子がいたら、男として放っておけないだろう?」
椿は可愛い女の子が好きなんだって。
そう、そっか。
………男の子じゃ、ダメか。
只一人、僕を唯一にに見てくれる人が欲しかった。
僕だけを好きと言ってくれる人。
僕だけを愛してくれる人。
恋人とか、夫婦とか、そういう関係が羨ましかった。
だって、何時も視線の先にはその人がいて、ずっと一緒で。
そんな風に自分の事を好きになってくれる人が欲しかった。
どうしてそう思ったのかは、もう覚えてない。
ただ、ただ、羨ましくて。
…、僕も、いつか、きっと。
訪れたとある国での一ヶ月を思い出す。
自分だけでどれだけの事が出来るかを試したかったんだ。
毎日が新しい発見で、ドキドキしてて。
かなり苦労もしたけれど、有意義な僕だけの時間だった。
……………?
あれ、僕は、本当に、一人だった、っけ………?
(共犯者の記憶を代償に渡した為、共に居た者の事は空白になっている)
どうして、子供ってこんなに煩いんだろう。
僕も、もしかしてこんなに煩かった?
下らない事で何時も何処かで喧嘩を始めている、
孤児院の子供達をベランダから眺めてため息をつく。
使い捨ての戦力としては困らないけど、何分言う事を中々聞いてくれない。
催眠教育や洗脳でも施すべきか。
役立たずを早々に使い捨てるか。
…こんな事で、苦労したくないんだけど。
拾った時はもっと貪欲な目をしていたのに、また溜息をつく。
僕も本来そうであったであろう姿、我侭な"子供"というものを舐めていた。
夢見心地に揺れている中。
あぶくの音と、だれかの声が時々聞こえていた。
此処は誰かの胎の中?
なんでもいい。
早く、そとに出たい。
誰か、このからを壊して。
[…、…、…]
この声帯はまだ、ぴくりとも動きはしない。
極稀に、椿や片割れと研究所の外へ出る時があった。
帽子やフードを深く被って、
髪を黒く染めたりカツラを被ったり、目の色を変えたり、
有名人のお忍び遊びみたいのようだと思った時もあったけれど、
そんなに甘い現実じゃあ無かった。
誰かに見つかったら、きっと僕は殺されてしまう。
だとしても、一緒に外へ行けた日は何時も楽しかったよ。
それは、毎回決まって、蒼い空が上に広がる晴れの日だった。
記憶が、胸の奥がチリつく。
煤の匂いと絶叫、人の焼ける匂いと血の赤、炎の赤。
僕は同じような光景、殺意、悪意を幾度も向けられた。
確か、彼女の名前は、その鮮やかな赤色の、
小さく零された嘆きの声が耳を霞めていく。
「どうして」
僕は何て答えたっけ、ああ、そうだ。
「僕が----になる為さ」
さようなら、スカーレット。
大きな犠牲の一つである君の事なんて、きっと直ぐに忘れてしまうさ。
そう。
幸せにしたかったのは君なんかじゃない。
僕を造った女性、「理解してしまう理解されない研究者」ロキ。
僕を認めた男性、「未来を夢見る予知能力者」椿。
僕を望んだ子供、「君が笑うからと、泣いた子供」…紫音。
幼い頃、確かに、それでも、彼等は僕の幸せな家族だった。
…………今は?
細く高く優しく響く子守唄。
まるで心臓の鼓動を思わせるような、暖かな音。
声にならない歌の方が、君はずっと上手い。
「歌の言葉に、気持ちを込めるのが苦手なんだ」
そういって、かれは眉を下げて笑う。
君の歌が好きだよ、とは決して言わなかった。
それでもかれは歌うんだ、眠れない僕の為に。
腕の中で、僕をずっと眠らせておいてくれたら良かったのに。
音が途切れたら、それは。
……やっぱりダメだ。
僕よりも『僕』はとても優秀で、良い子で。
真似ばかりしていても、うまくなんていかない。
自分だけの「何か」が、必要だ。
僕でも、何か、何か出来ることはあるはずなんだ。
………『糸』。
あれなら、きっと、僕だけの…
赤い空と赤い海。
まるであの人の髪の色のようだ。
景色とは裏腹に真っ白な墓石の前に立つ。
死ぬのは僕で良かったのに、…どうして庇ったの、椿。
既に自分で答えを理解してしまっている問いには誰も応えてくれやしない。
小さな恋はこの日、椿色の景色へと捨てられた。
遥か上空に突き刺さる鉄の船とひび割れはじめた空。
眼下に広がる雲海。白詰草が咲き誇る崖。
崖の縁に座りそれを眺めている…、自分と顔のよく似た誰か達。
短い白の髪を揺らし、眩い赤の瞳をそっと閉じて。
「紫諳、…きみしかいないんだ」
顔の似た誰か達が、どちらともなくそう呟く。
繋いだ手と反対の手に握られた銃を互いのこめかみに当てた。
一発の銃声が響き、そして、一緒に、
世界には果てがあること、
そしてその先には何人たりとも行けはしないという『常識』を思い出す。
…まるで、この異世界のような世界だ。
また、その果ての向こうには『楽園』があり、
自分はその『楽園』を目指していたのだと。
レサトの双子の姉、手紙の主、シャウラの事を思い出す。
初めて会った時はレサトと良く似ていてとても驚いたこと。
控えめに笑う姿が可愛かったこと。
誰かを想える優しい人だったこと。
自分から言い出した事とはいえ、
彼女と友人になれたことがとても嬉しかった。
彼女にまた会いに行く約束をした、今度はレサトも一緒に。
…またどこかで、会えるといいな。
死んだ、と思った。
自分へ向けられた銃口。
発砲音がどこか遠く聞こえた。
……いつまでたっても、痛みはなかった。
倒れこみ、誰かが自分をきつく抱きしめていた。
痛くなかった。
痛くなかった。
痛くなかった。
うめいていたのは誰?
大量の血を吐いたのは誰?
暫くしてようやく顔をあげた。
「……あ、………」
大切な人の、死に顔が、そばに。
後ろを振り返れば、数多の子供達が僕を見ている。
赤い髪の無口な少女。
金の髪の勝気な青年。
…そして、「僕」が笑う。
『Blue Bird』
ここからはじまる。
幸せは直ぐ傍にあるだなんて、何て皮肉な名前なんだろう。
さぁ、狭い鳥籠を壊しにいこう。
僕達は【テロリスト】だ。
いつものように---とケンカして、
ムカムカした気持ちで部屋に入る。
机の上に椿の日記、いつも鍵がかかっているのに。
開いたページに挟んであったのは、僕に良く似た女の人の写真。
女の人の名前は藤。
日記を見れば、すぐにわかる。
椿の好きな人『だった』らしい。
綺麗な女だ、驚く程、顔が良く似ている。
良く似ている。
ねえ、嫌な感じがする、来ないでよ、やめてよ。
「...」
やめて。言わないで。
「......椿にとっても『僕』は、『代わり』だったの?」
......あーあ。
みとめてくれてありがとう。
生まれてきてよかった、って、思わせてくれてありがとう。
僕も、好きな人の幸いを祈りたい。
......もう少しだけ、頑張ってみるよ。
しにたく、ないなぁ。
僕が「紫音」であること。
僕が僕のままでいられること。
それだけが欲しかった。
その為には全てを惜しまなかった。
全部踏みにじってしまっても、構わないと思ってた。
………どうにもならない事なんて、大嫌いだ。
全ては「自分の為」に収束する。
自己中心的だと蔑めばいい。
僕には僕しか無い事を、誰も知らない。
…………僕は、
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そうだった"僕"を見て、今の"僕"はふとした疑問を生じさせた。
水色の髪の女性に連れられて、
幼い僕はおぼつかない足取りのまま白い廊下を歩いていた。
「どこにいくの?」
「いいから、いいから」
背中を押されて入った部屋の中では、
白い髪に赤い瞳の、僕に良く似た顔つきの子供が
緊張した面持でただ一人椅子に座っていた。
「Happy Birthday!『紫音』、この子があなたの家族よ!」
水色の髪の女性は、白い子供にそう言葉を投げかけた。
「...こんにちは。私は、『紫音』。あなたの、」
その先は聞こえなかった。
思わず振るった拳と、足元から崩れ落ちていくような言い様がない恐怖。
机にぶつかり床に崩れ落ちる子供、
制止する女性の腕も振り切って、
僕は叫んだ。
「ぼくが、僕が、『紫音』だ!!」
......あれ、...僕って、だれ
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「自分」が一体「何」だったのかを、思い出します。
衣擦れ、呼吸、紡ぐ言葉の一つ一つ。
静寂では、一段と音が映えるのだと知った。
「寂」は嫌いだけれど、「静」は、好きでいられる理由かもしれない。
短い橙色の髪、赤い瞳、不思議な長い耳。
静寂を身とした魔女、レオニダスさんの事を記憶に留めます。
一度目は戦いの中で、二度目は相対して、
三度目は不思議な路地裏の店のソファ、
そして、四度目は一緒に並んで歩く事が出来た。
その愚かしさに、何処か懐かしみを感じて寄り添った。
少しだらしなく感じる桃色の髪、赤い瞳、傍らに咲いた花。
怠惰を身とした魔女、ジェルファルレイさんの事を記憶に留めます。
この世界では、髪や眼に色を持つ者が差別されていた。
黒い髪に黒い眼。彼らは全て正しいらしい。
赤、紫、金、緑、青、白、……僕達は全て"罪人"らしい。
その正しさの基準を決めたのは一体誰なのか、何なのか。
差別する側は愚か、差別される側の僕達でさえ、誰も知らない。
心地いい体温、耳に近い鼓動の音。
誰かの背中、赤い髪が伏せた頬に掠る。
ゆらゆらと、歩くような速さで、揺れていた。
子守唄なんていう、気の利いたものはない。
微かな息遣いと、誰かの話し声。
風が吹き抜けていく寒さと、自分を支える大きな男性の手。
薄く開いた眼で全ては見ずに。
ただただ、静かに揺られていた。
…あの人の背中は、僕だけのものだった。
幸せな、僕だけの特権の時間。
もう、家に、帰ろう。
シロツメクサの花冠が頭からズレ落ちていった。
消えた世界、かつて僕は、言葉を支配する「シアン」という女性であった。
黒の髪に、紅と蒼の瞳。華奢な身体。
神であるかれと鏡写しのようにそっくりな、持つ色だけが異なる容姿。
心もきっと逆さまだったのだろう、結局、僕達は分かり合う事なく別れた。
全てを忘れた、全てを無くした、僕だけが。
愛して欲しかった、僕だけを。
愛することを知りたかった、君だけを。
願いたかったんだ、知らない心を。
…最初から間違えていたのは、僕だけ、か。
君がいっておいでよ、僕は、もう見ないから。
独白。
楽園の最期を眼に焼き付けた"僕"は、何処までも一人落ちていった。
記憶の中の、知っている場所。
知らない筈なのに、見覚えがある気がする場所。
干渉ができないまま。
話ができないまま。
ただただ、僕は色んな所を歩いた。
好きな人に背を向けて、散歩を続けた。
貪欲に特別を望んだ時、ふと、願いを叶えるようにそれを手に入れた。
この手にあって、触れられた。
欲得のようなこの能力は、「欲特」と呼ぶのかもしれない。
そう思いながら、僕はまた歩いた。
……僕が戻ったかは、知らない。
焦げ臭い肉の臭いと、壊れ切った小さな村の跡。
只一人生き残った彼女は其処にいた。
壊れた扉、「Bel l」と書かれた子供部屋の隅。
陽に明るい紅色の髪に、紫の瞳。
心を病み言葉を喋れなくなった彼女。
並ぶ死んで腐りきった死体達の前で、
ただ、その小さな両の手を組み祈っていたんだ。
僕は何て言葉をかければいいのか分からなかった。
その紅に、狂おしい程の優しい哀しさに。
誰かを思い出しそうな気がして。
ベル。
君は音がない鈴のよう。
「世界の果て」は少しずつ、近づいて来る。
このまま行けば、はるか未来にはこの世界は崩れて消えてしまうらしい。
そんな果ての未来、とうに居ないであろう僕には想像も出来ないけれど。
きっと、其れが"終わり"なのだろう。
僕達は何処に行けばいいのか。
そんなの、決まってる、"外"を目指すしかなかったんだ。
『最期に見るのなら、怖い位にどこまでも透き通った、雲一つない青空が良かった』
それは物語の終わりで、”僕”の終わり。
解放を何処かで願い、そして終わった僕の、…僕と、…。
「…、全部終わっても、後日談、とか、あるといいのにね」
ハッピーエンドでもバッドエンドでも、”僕”がそれを見ることは無いのだろうけれど。
僕の名前は、東堂"紫諳"。
紫諳という名前は、東堂紫音からの初めての「贈り物」だった。
けれど、僕はそれを拒否した。
ずっと自分が「東堂紫音」だと思っていたから。
そう思って生きていたから。
愛されていて、幸せでいて、好かれていて、愛することを知っていた君。
冷たい試験管の中で、揺り篭の赤ん坊のように眠っていた時から、
僕は、ずっと君で在りたかったんだ。
君になりたかったんだ。
ごほりと、肺の中に詰まった液を吐き出した。
眩しい光は太陽の光じゃなくて、人工的なライトの白色。
少し肌寒い室内で水色の髪の人が僕を視ていた。
言葉は、良く聞き取れなかったけれど。
彼女が祝福するように僕を抱きしめたこと。
僕に向けた言葉の中、”しおん”という言葉だけがなぜか良く耳に残ったこと。
僕の"名前"だ、と直感的に錯覚して、笑顔を向けたこと。
忘れない、あの瞬間。
僕は、海の中から抜け出した。
僕はきっと、一生彼への想いと共に生きていく。
「椿、恋してた」
目の色が変わるのを見るのが怖くて、結局其れは言えなかったけれど。
この想いはずっと変わらずに。
だから、彼が僕に抱いていた想いも、ずっとずっと、変わりませんように。
そう願って、花を添えた。
小さな小さな白詰草。
この想いが、" "となりますように。
椿が死んだ時から、夜独りでは眠れなくなった。
片割れに添い寝をしてもらっても、その人の温もりが怖くなって、
だからといって独りで潜れば、胸の中ががらんどうで怖くなって、
冷たい温度があの死体の体温と重なっていく。
そんな日が続いて寝不足になっていた時、片割れが可愛い抱き枕を渡してくれた。
抱いて眠ってみれば、伝わってくる自分の温もりだけが僕を抱きしめてくれて。
この温かさは、自分が生きている限り消えないのだと分かれば、凄くホッとしたんだ。
"普通の人"とは違う、綺麗な藤の花の色。
僕のこの髪は顔も知らない母親譲りの色らしい。
小さな僕を見下ろしてどこか懐かしむように細められる眼に、
何時も例えようがない不快を感じていた。
けど、
「綺麗な髪だ、伸ばせばいいじゃないか」
椿にそう言って髪を梳いて貰えただけで、
全部どうでも良くなるくらいに嬉しかったのを覚えている。
この髪は、絶対に切らない。
「未来の夢を見るんだ」
どうしても気になって。
足に引っ絡まるようにして尋ね続けて、ようやく教えてくれた。
彼は"未来予知"という不思議な力を持っているらしい。
何時も眠って起きた時に何かを書き記している日記。
僕達には決して見せてくれない頁の中には未来の事がびっしり書かれているんだって。
未来が分かるなら、そんなに便利で凄い事はないのに!
そう言ったら、バツが悪そうに眉を顰められる。
そして、話を逸らすかのように
お前はそういう不思議な事は無いか?と尋ねられたんだ。
……僕はその問いに、首をどっちへ振ったんだっけ。
細い腕に針が刺さり透明な薬が打ち込まれる。
僕は慣れた手つきで、ゴミ箱に注射器を捨てた。
「次から少し薬を強くするね〜」
彼女は何でもない事のようにそう言った。
何の薬だかは分からないけれど、僕が生きるのに必要なんだって。
僕は、大人にはなれないかもしれないらしい。
それじゃあ、ずっと、子供のまま…なのかな?
まだ、その意味が分からなかった。
その日記には"未来"の出来事が記されていた。
観測することで未来が確定されてしまう、
ありえる"かも"しれない全ての可能性が潰されゆく…そんな恐ろしい日記らしい。
それは僕に遺された、椿の日記だった。
あの日が来るまで、何度も何度も見直して、辿った。
僕の死で、日記は終わっていた。
それで終わり。足掻いても無駄。彼の願いも叶って全部終わりなんだと。
この事がせめてもの、彼への償いに…なれ…ば…、…?
……あれ?
…………この、…日記は、何で、どうし、て、続き、が、
着慣れない黒いスーツを身に着けて、僕は海の向こうへと沈みつつある陽を見ていた。
もうじき、儀の開始を告げる大鐘が鳴って、儀式場への扉が開かれる。
僕はこれから、初めて"人"を殺す。
手は震えている。
今更止まれやしない。
取り返しなんてつかなくなる。
…もう、希望を望むのは終わりにしないと。
最後の最後まで、奇跡なんて来やし無かった。
海は、流される血のように赤かった。
金薔薇が咲く日の事。
何処までも透き通った青空の下、白詰草の花畑。
頭上の遠い空には白々しい本物の国。
影のままでしか無かった僕は
がらんどうの虚しい心を抱えて、良く空を見上げていた。
ただ、ただ本物が羨ましかった。
それでも、預けたこの背中は暖かい。
金の髪に翠の瞳の彼と、赤の髪に翠の瞳の彼と。
行きたい未来を語り合った、語り合えていたんだ。
それでも、いつしか、道は分かれていって、過去に。
預けていた背中は冷たくなった。
……あ、…あ、あ、…「テオ」、「セツナ」、
僕は、前にも、君達と会って、
自分と"同じ"ようにして生まれた彼の事を、知っている。
水槽の中に居るときから、君の事をずっと見ていたんだから。
狭い部屋で、言葉や知識を教えたりなんかもしたね、
といっても確認みたいなもので何一つタメになる話なんてしてやれなかったけれど。
嘘でも、弟のようだ、だなんて思わなかった、君、僕より大きいんだもん。
「精一杯、自由に、生きておいで」
なんて、冗談交じりに笑って言ったこともあったっけ。
ねえ、君はまだ、何処かで生きているの?
僕が言ったこと、もしかして憶えていたりなんてするのかな。
忘れていいよ、ううん、忘れて。
僕は、自分にさえ出来なかった事を君に強いる形になってしまった。
この狭い箱庭のような世界の何処かで、生きているのかな。
そうだといいな。
…また、会いたいね。
陸。
強いられた生を、残らされた生を、僕は罰だと認識した。
きっと、永遠に責められるだろう。
きっと、永遠に苦しみ苛まれるだろう。
きっと、永遠に僕は彼から抜け出せない。
………喜んで。
僕はこの世界という奈落に身を落とすよ。
(だから、どうか、主様、僕のせいで死んだ彼を救ってください。
なんでもします、何でもします。
二度と動けなくなってもいい、足をもがれてもいい。
彼を、彼だけでも、幸せな楽園へと連れて行って)
君の"衝動"とはなにか。
──識るということ。誰かにとっての"特別"や"当たり前"を得ること。
それは君の呪文の性質、君が操る事象の姿。
映し出されたのは、唯一を想像し創造する、人の心を捕える芸術……。
君の"理性"とはなにか。
──空(そら)。それは殻の中の世界。空(から)の器。
君の持つべき杖、君を律する友の姿。
手に取ったのは、空(そら)を映し出す輪のついた杖。
満たされることも、溢れることもない。"虚"と名のついたそれ。
君の"伝えたい事"とはなにか。
──"道"を。君が生きていくための、その手伝いを。
それは君の持ち歩く呪文。君が世界へ答える解。
"与えるならば言の葉を 瞳の先の歩む道
世界の広さを識るならば 君の待ち星望み欲し 答えは君に、鳥は僕に"
軽快に言葉を操り、舞台の鳥を飾る君は、そう唱えた。
君の"最も恐れるもの"とはなにか。
──自分自身が、何者であるのか。
それは君が、自覚すべきこと。強大な力を操るものとして、知るべきこと。
君の契約相手として選ばれた魔女は、
"亡きものを覗きこみ、失い続ける" 呪いを持つ、「亡失の魔女」。
名目上、君は彼女の僕となる。けれど忘れないで。
いつでも君は、それに立ち向かうことができる経験と知恵を携えているということ。
私欲を至上の欲として、志すならば欲を持ち、
死するそのときも欲と共にあれ。特別を欲し、欲に至る君に……
"至欲の魔術師"の名を、君に。
すべての知恵に忠実でありなさい。その時こそ、君は魔術師と呼ばれるのだから。
自慢の髪を汚い色に染めて。
自慢の瞳に薄い膜を被せて。
足は軽く、身を隠すように街へと出る。
ショーウインドゥに並んだ可愛い洋服は、全部女の子の物で。
棚に並ぶ沢山の化粧品は、全部女の子の物で。
小さな足を彩るお洒落な靴は、全部女の子の物で。
それらを全部冷やかして。
僕は何も買わずに、元の暗がりへと帰っていく。
彼の日記には、これから先の未来が全て書かれている。
彼の願いも、また其処に。
僕の手元に残された最後の希望だと、信じていた。
勝手に書き加えられた文を、彼が書いたものだと信じ込んで。
僕は、とっくに狂っていたのかもしれない。
…でも、狂ったままの方が、僕は幸せだったのかもしれないね。
正直に言うと。彼のことは。
視界の端の方でうろちょろしてる黄色いのっていう認識しかなかった。
僕よりも紫諳の方を凄く慕っていて、
気に入らなかったっていうのもあるけれど。
でも、傍から見ていて、 ノアは本当に、紫諳の事が大好きなんだなって分かるのに。
当の本人、相手は誰に対しても平等なもんだから、可哀想。
あーあ、ホント。
恋なんて、しちゃったら最後、負けだよね。
最初の呼吸は痛みにも似た苦しさだった。
げほ、げほ、と涙目で喉に詰まった水を吐き出して、まだ上手く見えない霞む目で辺りを見渡す。
はじめて僕の眼に入ったのは、……今思えば、アレは透き通った青空の色。
柔らかなタオルで僕の身体を拭いてくれる其れは、
何かを喋っている中で"しおん"という音を出す。
どうしてか、どうしてだったのだろう。
僕は、其れが"自分"を指す言葉、音なのだと、だんだんと鮮明になる頭で憶えていた。
かつて、僕が紫音では無かったころ。
僕が、神様の影法師であったころ。
僕……シアンには、二人の友達がいた。
テオと、セツナ。
一面のシロツメクサの花畑、ほんの偶然で僕らは出会った。
互いの素性を探る事もなく、
其の日其の日でただ話したい事だけを、感じたい事を確かめ合って、
いつしか、もう話していない事なんて無くなったころ、僕は彼らに問うた。
「ねえ、愛って、いったい何なのだと思う?」
シアンには、終ぞ、分からなかったんだ。
「"初めまして、久しぶり"」
ドレスと同じように赤く染まった彼女を抱いた、祭服の彼が相対した僕を見上げる。
庇ったのだろう、彼を。
生かしたのだろう、彼だけを。
二人共に、死んでしまえたなら良かったのに。
そういう風にステージを組んであげたのに。
馬鹿なひとだ。
でも、其の最期は嫌いじゃないよ。
君だけを見逃したのは、
果たして、僕の甘さだったのだろうか。
また、会いたかった。