インソムニア
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陣営:制限無し
推奨人数:1人
推奨スキル:無し ※「上級動物語」を魔適に関わらず自動取得
時間:2時間程度
GMボーナス:ステータス成長5pt or SP50
ダンジョン「瑠璃色の森」専用シナリオです。
探索とロールプレイがメインで、戦闘はありません。
クリア失敗は基本的にはありません。
◎制限時間はなし。
※シナリオに書かれていない情報については、GMの裁量にお任せいたします。
以下、フレーバー文となります。
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──"愛しいものなど、もう何処にも無いのでしょうね。"
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"制定者"によって与えられた役目を果たす、またはその役目を放棄する。
エンディングは2種類。(エンディングまでプレイすればクリア)
あなたの、"役目"。
はなむけを手向ける。彼女は、すう、と胸を上下し、息をする。
……彼女の瞳に、瑠璃色の涙が滲み、頬を、伝って。
はく、はく、と、危うげにうごく唇から、彼女は言葉を漏らした。
「どうして」「たすけて」「くるしい」……、それは、どんなものだったろう。
流れ落ちた瑠璃を合図に、彼女に無数の蝶が群がり、
蝶たちに喰いつくされるように、その肉体は綻び、溶けてゆく。
彼女を歪めた呪いは消えた。
魔女と呼ばれた少女は、ただの少女として、喰われていく。
その光景を瞳に映すあなたの胸に、流れ込むものがある。
安息を抱いて尽きていく者たちの、心。
それは、あなたから溢れだして、あなたの言葉になる。
(※探索者の言葉で"愛したものに、愛されたかった"
といったセリフを含むRPをしてもらえるよう、雑談で伝えてください)
……溢れ出したそれは、誰の願いだったのだろう。
そして、ぐらりと視界が揺れる。
眠れぬまま、永い時を過ごしたこの森は、
蝶たちの歓喜の声とともに、待ち望んだように消えていくのだろう。
その喚き声が遠くなっていく。あなたの意識が、崩れていく。
……目を覚ませば、拠点のベットの上。
眠れぬ夜を過ごしたような鈍い頭痛が、目の奥で疼く。
窓の外には、夜明けを迎えようとする空が見える。
誰が救われたのだろう。誰が、許されたのだろう。
答えが見つかることはない。
おぼろげな夢の残滓のなかで、そんな言葉を、抱いて。
──愛しいものなど、もう何処にも無かったとしたら。
以上でシナリオクリアとなります。お疲れさまでした。
「役目」に背こうとするあなたを責め立てる声はだんだんと、
訳の分からない、まるで狂気の海の中を溺れるような喚き声に変わっていく。
声はざわざわとあなたの心を犯し、不安感、苦痛、不自由、
それは運命さえ束縛するのだろう、役目を放棄した者への、"裁定者"からの制裁。
かすみ、ゆがむ、あなたの視界の先には、……あの少女がいる。
冷え切った瞳はあなたを見つめ続ける。あなたは支配されていると確信する。
まだ、遅くはない。終わらない狂気のなかへ堕とされる前に、
……あなたは答えを出さなければならない。
(※役目に応じる場合、ここで元の進行に戻ります。
ここでも応じない場合、このエンディングで確定となります。)
溺れる。溺れていく。呼吸ができない。
けれど何故か、此処はあまりに哀れで、滑稽で、可笑しい。
あなたは声を上げて笑いだす。高らかに、歌うように。
眠ることも、目覚めることもない、この夢と現の狭間へ、ひらり、ひらりと堕ちていく。
体は軽い。戯れるように舞い飛ぶ。言いようのない幸福、そして絶望、その"狂気"。
瑠璃色の蝶があなたに群れる。あなたはその蝶たちに、くすくすと囁く。
(※探索者の言葉で"ああ、幸せだ。こんなにも悲しい。けれどたまらなく、それが可笑しい"
といったセリフを含むRPをしてもらえるよう、雑談で伝えてください)
蝶たちはあなたに答える。"そうでしょう" "そうじゃないわ"
"そうだったかしら?" "あなたはだれ?" "わたしは此処" "幸せね!"
ああ、なにもかも、なにもかもがちぐはぐで、幸福で、不幸で、滑稽だ。
あなたはとうに、変わってしまっていた。
ひらり、ひらりと狂気の中を戯れる、あの瑠璃色の蝶に。
意識さえ消え去っていくその最中、……涙を流す彼女を、見た気がした。
──目を覚ます。あなたは拠点のベットの上、
酷く痛む頭痛のあとのような感覚を残した、真夜中。
握った手を開けば、翅を毟られた瑠璃色の蝶の、死骸があった。
たまらなくなるような幸福感、その余韻は体の芯を溶かすようだ。
その死骸を見つめ、微笑む自分の姿が窓に映る。──何故。
……狂気におぼれた夢の中で、果てることのなんと甘やかな、ことか。
以上でシナリオクリアとなります。お疲れ様でした。
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瑠璃色の葉や木々に、蝶たちが舞い飛ぶ、美しい森。
この瑠璃色は、「月の魔」の力が強く働くものに宿る色であり、
かつては多くの獣たちが棲み、また森も深緑の色をうつしていたが、
ここへ逃げ込んだ"彼女"の背負った「月の魔」の影響で、
森は瑠璃色に染まり、眠らぬ呪いにのまれてしまった。
その狂気に堕ちてしまった獣たちは、蝶に姿を変え、
眠ることも、目覚めることもできないまま、
うわごとを吐きながら、夢と現の間を彷徨っている。
静寂のなか、かすかに響く囁き声は、かれらのものだ。
森は眠らぬまま、ずいぶんと永い時が経っている。
もし月の魔の呪いが解けるときがくれば、
森はそのとき、待ち望んだように消えていくのだろう。
この世界の中心には、「月の領域」と呼ばれる、人知の及ばぬ領域がある。
そこには二つの月が巡り、世界の理を支配している。
ひとびとの想い、祈り、願い、恨み、嘆き……、
それらに"月"たちが与える力を、「月の魔(つきのま)」と呼ぶ。
土台となるのはひとびとの"思いの力"であり、
信仰や文化により、その性質は多種多様に分かれる。
それは生まれた国、伝承などの数多く寄せ集まった"思い"から、
代々家に伝わるまじない、個人のジンクスなど、単一の強い"思い"にもやどるという。
月の魔はひとびとに神秘を与えるが、
一歩間違えれば、月の魔はひとびとを狂わせるものにもなりえる。
さめざめと零れ落ちる涙のように冷え切った水面に、銀色の靄を孕んだ泉。
元々は森の獣たちの喉を潤す、変わったところのない、
せいぜい水が甘やかで美味しいといった程度の泉だったが、
"彼女"が森へ逃げ込み自害しようとした呪いのはじまりから、
少女を恨んだ獣もいたが、けれどそうしたところで、
この苦痛に終わりなどこないのだと、ただの少女としての"彼女"と森の獣たちの、
お互いを慰め合う「想い」に月の魔がやどり、「慰めの泉」となった。
それは、かなしさ。それは、くるしさ。それは、あきらめ。
"仕方がなかった" "誰が悪いわけではない" "ならば、せめて"……
その水を飲むと感覚や意識が鈍り、苦痛を和らげることができるそうだ。
蝶たちが群がる、瑠璃色の果実。
魔女の"裁定者"としての力が強く働いている場所にのみ、実る。
実は柔らかく、簡単に割れる。中には大きな種がある。
「与えられた役目を果たす為に必要な道具」が、その種から芽吹く。
食べることもできる。食感はみずみずしく、味は舌に残らない程度の甘さ。
食べた者は爪先や瞳、涙などが一時的に瑠璃色に染まる。
つまりは魔女との同化に近いものだ。……あまり勧められるものではない。
この世界においての「魔女」と呼ばれる存在は、"裁定者"としての力を持つ。
無作為に選び取った対象に、役目を与え、善悪を分け、罪を成し、罰をもって裁く。
運命の支配とも呼べるそれに、魔女となったその人の意思はない。
月の魔が生み出した強大な力は、選ばれた者、魔女本人すらも歪めてしまうということ。
この"裁定"から逃れようとすれば、その者は終わらぬ狂気の海に堕ちる。
呼吸もままならず溺れるまま、瑠璃色の蝶となって、うわごとを吐くばかりだろう。
この森に住む獣。かつての仲間たちが眠れぬ狂気と苦痛から逃れるために
互いを喰い殺しあったとき、その光景のおそろしさに
たまらず逃げ出し、一度この森を離れた。
自身のその行為を仲間たちへの裏切りだと感じ、ひどく後悔している。
罪滅ぼしのために、瑠璃色に染まった森へ戻った彼は、
この森の最期を見届けることを選んだ。
月の魔の影響をうけており、人間との意思の疎通をすることができる。
彼もまた眠れぬまま、この森とともに永い時を過ごしている。
この森が待ち望んだ最期をむかえたとき、かれも共に消えていくのだろう。
一人称は「ぼく」、二人称は「きみ」、名はリトという。
辺境の小さな村に住んでいた少女。はつらつとして明るく、
たくさんのものを愛し、またそれらからよく愛されていた。
閉鎖的な村の雰囲気からは、少し浮いて見えていたようだ。
歌や言葉が上手で、表情もずっと豊かな彼女は、
ひとびとの心をつかむ魅力に満ちていたが、
やがてひとびとは、その"ひとより得意な事が多い"彼女を妬んだり、恐れるようになった。
月の魔はそうしたひとびとの想いに宿り、彼女への言葉は呪いとなって、
ひとびとがそう呼んだように、彼女は正しく「魔女」となってしまった。
村を追いやられ、呪いから逃れようとするようにこの森に逃げ込み、
絶望しきった彼女は、持ち出した毒薬で自害を試みる。
しかし月の魔は、彼女に"死"すら許さず、彼女は死ぬことも生きることもできなかった。
彼女は未だこの森で眠り続け、その代わりとでもいうように、
森は眠れないまま、狂気に蝕まれている。
……銀色の棺は、慰めの泉と同じように、獣たちと彼女の悲痛な想いによって現れたものだ。
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暗闇の中、こちらを冷たいまなざしで見つめる少女。
探索者が彼女に"裁定"される場面から、シナリオは始まります。
探索者は、その強大な支配によって、強い苦痛を覚えるでしょう。
ここでの探索者のRPの内容は、自身の経験や記憶に基づくもの、
それらとは関係ない苦しみによるもの、どちらでも構いません。
取り戻している記憶以外のものでも、
一時的・断片的に蘇ることもあると、PLに伝えてください。
落ちていく意識、目覚めれば瑠璃色の森へとたどり着きます。
探索者は一匹の牡鹿と出会います。
かれは探索者が少女に役目を与えられた人物だと知り、探索者を導きます。
ここで探索者から深い事情に関して質問があった場合でも、
詳細は答えず、まずは慰めの泉へ誘導してください。
この時点で役目の拒否を探索者が行った場合、
【5.牡鹿との出会い】の欄にある(※牡鹿の言葉に応じない場合の描写)を
参考に、それをはさんでから【Ending2.眠らぬ狂気】へ進行してください。
これ以降に役目の拒否が行われた場合も、同様の処理を行ってください。
慰めの泉へ辿り着くと、少しの休憩をしたあと、牡鹿は事情を話します。
大筋のセリフは用意してありますが、探索者の質問に応じて、
【2.用語やアイテム、人物、舞台】を参考に、GMは情報を提供してください。
会話を終えれば、牡鹿は探索者に「魔女の実」の在り処をしめします。
探索者がその実を割り、種を植えれば、"役目に必要な道具"が芽吹きます。
芽吹くもののすがたは、探索者が自由に決めることができます。
PLにその描写のRPをお願いしてください。
この道具は、望まぬ裁定者となった彼女の命を絶つ、その役目に使うものですが、
直接的にひとを殺す道具でなくとも、"手向ける"という行為それ自体によって
彼女は最期のときを迎えることになると、必要であれば雑談で補足してください。
芽吹いたものを手にすれば、牡鹿は探索者を銀色の棺へみちびきます。
棺を開き、中で眠る少女に手向けのものを贈れば、
【Ending1.「眠る森」】でのシナリオクリアとなります。
どちらのエンディングにもある、"指定された台詞を探索者の言葉でRPさせる"
演出ですが、これは「探索者の感情に月の魔がはたらき、言葉が漏れる」
という、僅かな強制力をもったものであると、雑談でPLに伝えてください。
探索者の意思と異なる、そんなことは口にしない、などの齟齬を生まないための処置です。
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これが永遠なのであれば。
終わりなどないのであれば。
愛しいすべてに裏切られてしまえば。
この苦痛が、狂気が、罰なのであれば。
なにを、犯したというのだろう。
なにも、叶うことがないのなら、
誰を許せば、いいのだろう。
………
……
…
あなたはひとり、暗闇と静寂の中へぽつんと佇んでいる。
視線の先には、……誰かがいる。赤茶の長い髪を、片側に寄せ編んだ、少女だ。
少女はあなたを見つめている。
その瞳は、心というものが欠け落ち、血の温度を感じない、ひどく無感情なものだった。
……ふいに、少女の腕が糸で釣られた操り人形のように、
引き攣った動きであなたを指さす。
途端に、あなたはあらゆる苦痛と不自由に苛まれる。
失っているはずの記憶の空白すら、痛みを伴って滲み、疼く。
あなたの内に潜むそれらが、溢れだしてはあなたを縛り付ける。
(※探索者のRPがあれば待ってください)
……少女は、あなたを指さしたまま、苦しむあなたへ言葉を連ねる。
「私は"裁定者"」
「役目を与え、善悪を分け、罪を成し、罰をもって裁く」
「お前は逃れる事はできない」
「私はお前を選んだ」
「役目を果たせ」
「さもなくば、お前はあの森と同じく、眠らぬ狂気の中へ落ちる」
「苦しいだろう」
「助けが欲しいだろう」
「ならば、役目に従え」
「私は"裁定者"」
「もう一度忠告する」
「"お前は逃れることはできない"」
彼女の最後の言葉を耳にすると、苦痛はよりいっそう強く、あなたを縛りつける。
「こんなことをしたくなかった」「裏切られた」「選択肢など、ひとつもなかった」……、
叫びだしそうに痛む頭の中に浮かぶ言葉に、
あなたは絶望をあおられ、そして責め立てられる。
(※探索者のRPがあれば待ってください)
……その苦痛は、次第にあなたの心を飲み込む。
裁定者、役目、罰、森、眠らぬ狂気……、
それらに疑問を浮かべることすら、今のあなたにはできないだろう。
耐えられず手放された意識は、足場を失くしたように落下していく。
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(※GMへ)
少女は探索者からの質問や投げかけなどには応じず、
決められた言葉だけを告げます。意思の疎通はできません。
⇒【牡鹿との出会い】へ
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………、……。
目を、覚ます。……夜。しんとした、静寂。
辺りを見回せば、深い、深い森の中。
あなたをかこう木々や葉は深い色に染まる、ここは瑠璃色の森。
そして、ぼんやりと照らす月明かりのむこうで、
一匹の牡鹿が、静かなまなざしであなたを見つめていた。
『きみを、待っていた』
語り掛けたのは、あの牡鹿だろうか。かれはゆっくりと森の奥へ歩んでいく。
……その足取りは、まるであなたを導くようにみえた。
牡鹿のあとを追って森の奥へと進めば、
木々の影のあいだにひっそりと身を寄せ、佇むかれの姿が見える。
かれはあなたの気配に気付くと、顔をあげ、ゆっくりとこちらを見据えた。
『ここは、眠らぬ森。夢見るときを、奪われた森だ』
『きみを、待っていた。ぼくや、かれらを、眠らせてくれるきみのことを』
『きみにとっては、突然なことに思えるかもしれないが……、』
『……そういうものだ。"役目"というものはね』
『どうか、訝しまずに、……ぼくについてきてほしい』
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(※牡鹿の言葉に応じない場合の描写)
あなたが"それ"を拒もうとすれば、頭が重くなるような頭痛と共に、
たくさんの何かが、あなたを責めるように喚き立つ。
「約束を破った」「話が違う」「許されることではない」「お前のせいだ」……、
その声を聞いていると、ざわざわと胸が騒ぎ、大きな不安感に襲われるだろう。
『……すまない。それが、"役目"というものなんだ』
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あなたがかれの言葉に頷くと、かれはかるく頭を下げるしぐさをする。
『奥の、泉へ行こう。きみも、わからないことばかりだろうし、いくらか事情を話すよ』
『──眠れぬときを、ぼくとともに、過ごそう』
そう語った牡鹿は、森の奥へと静かに歩み出す。
あなたが一歩、かれの後を追おうとすると、……ひらり。
瑠璃色の森のなかで、淡い光を放つ小さな蝶が一匹、舞った。
蝶は牡鹿のそばを、戯れるようにひらひらと飛んでいく。
牡鹿は蝶を見止めると、瞼を伏せ、
そうっと鼻先で触れた後、……また森の奥へと歩んでいく。
▼牡鹿の後に続く⇒【慰めの泉】へ
▼応じずに、役目を拒否する⇒【シナリオクリア条件:Ending2.眠らぬ狂気】へ
◎skill情報--------
「注視」⇒(周囲)
辺りに広がるのは、深い瑠璃色の木々や葉たち。
今は夜なのだろう、視界は暗く沈み、浮かぶ月だけが此処に光を下ろしている。
「注視」⇒(蝶)
蝶もこの森と同じ、瑠璃色の翅をしている。
淡く光をやどしており、戯れるようにひらひらと
舞い飛ぶすがたはうつくしいものだ。
蝶たちは、散らばった言葉を口々に囁き合っており、
とうていその意味はわかりそうにない。
くすくすと笑ったり、突然叫んだり、金切り声のようなもので喚いたり。
……あまり耳を傾けていると、気がおかしくなりそうだ。
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音のないしんとした静寂のなか、かすかに響く蝶たちの囁きが聞こえる。
木々の間を抜け、ずいぶんと歩けば、
瑠璃色の森の夜更け、暗く沈むその視界のさき、
きらきらと銀色の水面を揺らす、輝く泉が見える。
牡鹿はそのほとりで座ると、あなたに目くばせする。
随分あるいたろう、きみも少し休もう、と牡鹿は語り掛ける。
『……ここは、慰めの泉だ』
『彼女はぼくたちを、ぼくたちは彼女を、互いに慰めあっている』
『つらければ、泉の水をすこしだけお飲み』
『飲めば、くるしみは和らぐ。……ゆったりと、感覚が鈍くなるんだ』
『眠らぬこの森に、彼女から与えられた休息、だよ』
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(※泉の水に触れた場合の描写)
泉の水に触れると、水面のなかにのぞく銀色の靄が、揺らめくのが見える。
……あなたの胸に、流れ込むものがある。
それは、かなしさ。それは、くるしさ。それは、あきらめ。
"仕方がなかった" "誰が悪いわけではない" "けれどこの苦痛はおわらない"
ならば、せめて。辛苦のようなこのときを、慰めあって。
はたり、頬を伝った雫は、……だれのものだっただろうか。
(※泉の水を飲んだ場合の描写)
泉の水を口にすると、ふわり、とした浮遊感を伴う、軽い眩暈がする。
思考が、ゆったりと鈍くなる。手や足の先が、わずかにしびれるような感覚。
瞼に降りる重みは、眠り込むそれとは、非なる。
揺らぎ、ぼんやりと霞む視界は、覚めていく夢に似ていた。
(※泉の水を持ち帰る場合)
泉の水を汲む容器があれば、それを持ち帰ることができます。
★アイテム入手:
「慰めの雫」
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あなたの具合を伺いながら、
「事情を話すといったね」と、牡鹿はゆっくりと語りだす。
『ひとより少しだけ、言葉が上手だっただけ』
『ひとより少しだけ、声が綺麗に響いただけ』
『ひとより少しだけ、歌や踊りが得意だっただけ』
『……ひとより少しだけ、ひとの心をつかむ魔法を、彼女は持っていただけ』
『やがてひとびとの羨望は妬みや憎しみに変わった』
『彼女が、ひとよりすこしだけ上手にできたそれらを、ひとびとは恐れた』
『"月の魔"は、ひとの想いにやどるものだ』
『彼女を呪ったひとびとの言葉は、やがて彼女のかたちを歪めた』
『ひとびとがそう呼んだように、彼女は正しく、"魔女"となった』
『彼女はひとびとから追いやられるようにこの森に逃れた』
『彼女は言った。"愛しいものなど、もう何処にもないのでしょうね"』
『月の魔は、──死すら、彼女に許さなかった』
『毒薬を飲んだ彼女は、未だ、銀の棺で眠り続けている』
『その代わり、とでもいうように』
『彼女が眠りについてから、この森はずっと、眠れないままだ』
『……蝶は、彷徨うかれらだ』
『月の魔は森を蝕み、獣たちは互いを喰い殺し合った』
『かれらにできた、たったそれだけが、くるしみと狂気から逃れる手段だった』
『かれらは、めざめることも、眠ることもなく、』
『うわごとを吐きながら、夢と、現のあいだを、彷徨っているんだ』
『蝶たちの囁きに、耳を貸してはいけないよ』
『かれらはすっかり、眠れぬ狂気のなかで踊っているだけ』
『……きみの気が、おかしくなってしまうからね』
『ぼくは、……許されたいだけなんだ』
『みなが互いを喰い殺し合ったとき、』
『……みなが、互いをくるしめないようにと、そうしたとき』
『ぼくは、逃げ出したんだ』
『とてもとても、恐ろしくて。みなが見えなくなるまで、走った』
『やがてこの森にもどった時、そこには蝶たちがいた』
『……罪滅ぼし、だ。かれらを眠らせてやりたいと、そう思った』
『ぼくはこの森を、……捨てきることは、できなかった』
『……都合のいい、話だ』
▼牡鹿との会話を終える ⇒【魔女の実】へ
▼役目を拒否する ⇒【シナリオクリア条件:Ending2.眠らぬ狂気】へ
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もう、頃合いだろう。牡鹿はそう呟くと、あなたを泉の奥へと誘う。
その木々の葉に隠された場所へ、この森に踏み入れたとき見た蝶と
同じ姿のものたちの、群れがあった。
蝶たちの翅のあいだからのぞくのは、手のひらほどの大きさをした丸い実だ。
この森の木々や葉と同じく、深い瑠璃色をしたその実を見上げ、
牡鹿はあなたに、その実を手に取り、割るように言う。
(※魔女の実はひとつしか手に入らず、持ち帰ることはできません)
『……魔女の実だ』
『魔女は、"裁定者"だ。役目を与え、善悪を分け、罪を成し、罰をもって裁く』
『魔女の"裁定"に意志はない。彼女が望んだことではないんだ』
『けれど、きみは選ばれた』
『きみに与えられる道具、"彼女"へ最期のときを与えるに相応しいもの』
『……その実を、きみが割るんだ』
『きみが"役目"を果たすために必要なものだよ』
『きみの役目というものは、……そう』
『彼女の命を、絶つことだ』
『魔女の実の種から芽吹いたものを手向ければ、月の魔は解ける』
『……永いときをすごしたこの森は眠りにつき、消えていく』
『苦しく、思うこともある。けれど──
それがみなにとっての、救いなのだろうとぼくは思う』
両手でその実をつかみ、割ろうとすれば、柔らかい実は驚くほど簡単に裂けて、割れる。
その中にあるものは──『種』だ。
"魔女"と呼ばれた彼女、その最期へ手向けるに相応しいはなむけとして、
あなたが"相応しい"と思う、もの。
この森の目覚め。呪いの終わり。
望まぬ"裁定者"となった彼女の、あなたへの指図。
──あなたの、役目。その姿。
銀の棺を開けたとき、あなたは何を手にしているだろう。
思い描くそれが、……種を植えれば芽吹くだろう。
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(※GMへ)
ここでは、種を植え芽吹くものを、探索者に自由にRPしてもらう形になります。
それはどんなものでも制限はありませんが、
「どんな呪いでも解けるもの」「どんな眠りでも覚めるもの」
など、"この森の呪いに関するもの"だった場合、
この時点ではその通りに芽吹きますが、実際に少女へ手向けるとき、
"裁定者"からの干渉を受けます。
その際の描写は、「探索者の苦痛をあおり、責め立てるもの」であれば
好きにしていただいて構いません。
(描写の例)
あなたの意識をざわざわと"なにか"が侵していく。
「許されない」 「何故そうした」 「すべてお前のせいだ」 「お前の罪だ」
苦痛はあなたの自由を奪う。あなたを責め立てる声は止まない。
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▼種を植え、芽吹いたものを手にする ⇒【銀色の棺】へ
▼役目を拒否する ⇒【シナリオクリア条件:Ending2.眠らぬ狂気】へ
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あなたが手にしたものを見つめると、牡鹿は行こう、と立ち上がる。
銀色の泉をあとにして、森のさらに奥へと、進んでいく。
蝶たちはわめき立つ。すすり泣く蝶、笑いだす蝶、怒り昂ぶる蝶……、
"そこ"へ近づくにつれて、狂気と呼べるものが、明らかに色を濃くしていく。
蝶たちの囁き合いは、歓声のように騒がしくなり、
しかしその場所へたどりつくと、だんだんとその声は引いていき、
かすれた喚き声を最後に、……あたりには何も聞こえなくなっていた。
……あなたの前には、銀色の棺が、ある。
『それを、……彼女に手向けてやってくれ』
銀の棺を覗く。
視線が、合った。
涙の痕をのこし、目を開いたままの彼女と。
諦めた様にも、縋る様にも見える表情。
生きることも、死ぬことも許されなくなってしまったそのときのまま、
少女は、老いることもなく、つめたくこわばった身体を横たえて、眠っていた。
その姿は、此処を訪れる前の暗闇、あの少女と重なる。
"愛しいものなど、もう何処にもないのでしょうね。"
……彼女のその言葉が、いやに頭の中に残っていた。
▼少女へ手向ける ⇒【シナリオクリア条件:Ending1.眠る森】へ
▼役目を拒否する ⇒【シナリオクリア条件:Ending2.眠らぬ狂気】へ
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▽クリア報酬
ステータス3pt or SP30 (共通)
Ending1:「二度と見ない夢、あるいは待ち望んだ夢」の記憶
Ending2:「終わらない狂気、あるいは知っていた最期」の記憶
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