エドワード・スティールバード
◆陣営: Justice
◆名前 : エドワード・スティールバード
◆性別:男
◆年齢:24
◆身長:196cm
◆ステータス
【HP/5、攻撃/2(+19)、魔適/6、耐久/10(+4)、魔耐/4(+2)、敏捷/7(+3)】
◆装着スキル / SP : 300(+180)
◆
個人ページ
内心の読めない薄ら笑いと芝居掛かった冗長な口調が特徴の、不遜な青年。
上品かつ穏やかな語彙で人を皮肉り茶化しまくる。
どのような場合でも何かしらふざけた言動を取り、
「不謹慎が服を着て歩いてる」といった状態になることもしばしばだが、
場や神経をかき乱すことで優位を確保するのが彼のやり方で
要するに全てが作為。苛立った瞬間彼のペースだ。
一人称は普段は「僕」だが、素に近づくにつれ「俺」となる様子。
と言っても、これはさほど意図して使い分けているわけでもなく、
気分次第といったところのよう。
胡散臭く信用のおけない振る舞いを仮面に見立て、
巧妙に自己を隠している。
またそうしたキャラクターからすると意外にも思えるが、
根は愛情深い人間で身近な人物に対しては実は相当気を遣っている。
集団の中で人間関係のバランスを整えるのが上手く、
潤滑油のような役目を果たすことも多い。案外周りをよく見ている。
勘が良く、特に嘘に目敏い。良くも悪くも、心理を見抜くのに長けている。
性的にはバイセクシュアル。かわいい子なら誰でも好き。
自身の見目と体格の良さは十二分に理解していて、
誘いにかかることもしばしば。ただ自信があるというよりは、
それらを「武器として通用する」と認識している、といった具合。
なぜかはよくわからないけれど犬がとにかく苦手だ。どんな小さい犬でも怖い。
どうしても反射的に、「×に×さなきゃ」、と思ってしまう。
表面上はあまり変化はない。というのも、
人生の大半を「今の自己防衛」の方法で切り抜けてきたので、
道化師的な振る舞いはもはや意識しなくても自然と出てくる。
すっかり身に染みてしまっているのだ。
ただ内心に常にある警戒心の正体がまだわからないので、やや戸惑いは感じている様子。
それから、不明な喪失感。なにかぽっかりと自分の中に、あるべきものがなくなった感覚。
なくしてしまったものはなんだろう。早くそれを思い出したい。
鮮やかすぎる青を見ると、泣きたくなるのは、なぜだろう。
◆返還記憶-----
春。 俺の、好きな季節。彼と出会った季節。彼の生まれた季節。
今でも昨日のことのように、思い出せる。下卑た貴族に拾われて、貧民街を抜け出してすぐ、次の月には学校に通えと言われた、あの頃の俺には、何もかも全てが阿呆らしく映った、質のいい絹のブラウスも傷一つなく磨かれた靴も、朝食の席に並べられる銀の食器も瑞々しい葡萄も、演劇の小道具じみて空疎で、そんなもんを神妙な顔して消費している養家のヤツらが滑稽に見えて仕方なかった。多分、いま見てもそう思う。
その日、4月から通う学校の見学に行かされた。養家が雇ってるメイドの女性と。俺は彼女のことは好きだった、今でも好きだ、多分。__校舎へと続く一本道は桜並木に囲まれて、燦々と舞い散る花びらを俺は鬱陶しがって何度も払った。なだらかな坂を登ると、やがて、校舎がのっそりと顔を出す、__先に。
彼はいた。この世の何よりも、青い“青”が。
「……あ、」
彼は白いワンピースを着ていた。死神に連れて行かれないように、身体の弱い子供には本来の性と異なる服装をさせる習慣があったそうだが、そんなのスラム育ちの俺が知っているはずもない、だから、華奢な身体に白い麻を纏い門の前に佇んでいた彼を俺は疑いなく“彼女”だと思ったそして、見惚れた。意識の外に追いやられていた桜の香がわっと押し寄せて、陽の光は彩られていく、薄桃色の花弁の向こうに瞬く瞳。青の中の青。
「おやあれは、シザーフィールド家の」
メイドの声が届いたか、彼は父親らしき男と話すのをやめて、振り向いた。思わず強張ると、彼は逆に綻ぶような微笑みを見せて、それから、父の、手をとり校門を潜っていく。汚水と泥濘と塵芥の底で這いずり回ってきた俺が初めて出会った、……あの瞬間。
カーティス・シザーフィールド。君の青を、覚えてる。
脳裏に過るもの。
大気までもドロドロに溶け落ちていく真夏の、あれは、ライ麦畑。
靡く穂の一房一房が、金色に光を照り返す、嘘みたいな青空の下。
倒れていたんだ。四肢を投げ出して、壊れた人形みたいに、彼が。擦れる草の音で、俺が探しにきたことに気づくと、どんよりと曇った瞳を俺に向けた、……きっと、見えちゃいなかった。ただ首を傾けてみただけだ。怖くなった、何か、ひどく、取り返しのつかないことが彼の身に起こったのだと、凄惨で理不尽な何かが、彼をめちゃくちゃに打ちのめしてしまったのだと、わかったから。
駆け寄って抱き起す。力の入らない彼の肢体はいつもよりずっと重かった。恐れと不安と、どうしようもない怒りを抱いた、ダラリと下がる腕に、首に、口の端を濡らす透明な滴(しずく)に、ぐちゃぐちゃに乱された服から、覗く肌を汚す、赤い痕に。
小さな口が、すぅ、と開いて、……アイツは、俺になんて言った? 今にも泣き出しそうな瞳で、アイツは、俺に何を誓わせた? わななく唇で、……震える声で、
「エディ、……おねがい。だれにも、……いわないで」
彼の病床で、俺は彼の、細くなった手を取っている。
彼の髪は伸びて、腰に届くほどの長さになって、それを整える体力もなくて。
焦点のぼやけた瞳は、それでも俺を見つめていた。
どうして? と、彼の喉が震える。
「どうして?」「どうして姉さんは、ぼくにこんなことするの?」
意識が混濁している。彼を苛んでいるのは、彼の幼い頃の記憶だと、……すぐに、理解する。
「どうして? なんでいなくなってしまったの? ぼくの大好きな姉さんはどこ?」
握る手が、軋む。彼が、物凄い力で握っているからだ。訴えるように。縋るように。
「くるしいよ ぼくがわるいの? エド、」
「ぼくが、何をしたの?」「ぼくは、」「ぼくは、いったい、どうしたらよかったの?」
「助けてよ 助けてほしかったよ なんで なんでこんなふうに ぼくは、」
何も言えなかった。何もできなかった。苦痛と絶望に顔を歪めて、泣きじゃくる彼の髪を、撫でるだけで、
「死ななきゃならないの? エドワード」
どうして?
(彼が傷つかないように、守る存在になれたらいい、と。――夢みたいなことを、――ほんの、一瞬だけ。)
なんて、バカな夢を見たんだろう。もう、二度と、望むまい。
クソ野郎。
顔も、名前も、思い出したくなかった。姿が脳裏をただ過るだけで、腹の底から嫌悪と憎悪が湧き上がり、即、沸騰する。――(いつか×す、いつか×す、いつか×す、いつか×す、)――解っている。己れが奴を前にして、牙も爪も剥き出しに唸るしかないのは“隠せない”からだ、あの男が目の前に居ることが刹那も許せないのは、あの男が、隠しようもなく“×い”から、……彼は常に圧倒的な【支配者】。
ヘクター・レオフォーク。かつての上司。そして未だに記憶の残像で、俺たちの何処かを支配する、男。
「なんだよ、お前」
「ごめんね」
「……ハァ?」
なぜ謝られたのか分からなかった。謝る必然性があるとしたら、恐らくはオレのほう、……な、はずだ。社会のことはよく分からない、がオレの行動は、この社会では是正されるべきものであることが極めて多い。クラスメイトの女子が泣いたのは、オレの言動によるものであると、そのことはよく分かっていた。なぜなのかまでは、不明だったが。
「あやまりたかったの。ゆるしてもらえるか、わからないけど」
目の前にいる彼は、そのはっとするほど青い瞳を真っ直ぐオレに向けてくる。何と無く、居たたまれなくて目を逸らした。さっきもそうだった。泣いた少女に彼は駆け寄り、オレを真っ直ぐ見上げて、――初めてこの学校に来たとき見かけた“あの子”こそ彼だった、――だからか、オレは無性に悔しくなって、黙って教室を出て行ったのだ。どうして彼が俺を見つめたのか、どうして自分はそれが悔しいのか、なぜ出て行きたいと思ったのか、何一つ、分からなかった。分からないからひどくイラついて、ますます考えがまとまらない。
だってのに余計に訳の分からぬ事態となってしまった。なぜ彼が、オレを追いかけてきてまでオレに謝っているのか、さっぱり不明だ、しかしなんとか理解しようと顔をしかめていると、突然、彼はぴしっと背筋を伸ばし、迷いなく頭を下げた。両手を膝の上で重ねて。
「きずつけてしまって、ごめんなさい」
……、……? きず、つけ、た?
呆気にとられた。傷ついた? オレが? どうしてオレが? なんで、オレが、いや、オレは、――傷ついた、のか。傷ついて、だから悔しくて、だから、出て行った? そうだったのか。オレは、……あのとき、悲しかったのか。これは、傷ついたってことなのか。……案外、簡単なことで傷つくもの、なんだな。人は。
「なぁに言ってんだ、お前」
そう思ったら可笑しくなって、オレは彼の目の前へ歩み寄るとぎゅっと頬を抓った。彼は「ふえ、」なんて女子みたいな声をあげて、なおさら笑えた。
「カーティスっつったっけ?」
「う、うん。よくしってるね、」
「おう覚えてんぜバッチリな、いけすかねえヤツと思ってたから」
大ウソだ。なんなら初見で惚れた。
「ぼくのこと、きらい?」
「ああキライだ」ついでにオレはウソを重ねる。
「ぼくは、きらいじゃない」
嬉しくなった。悟られぬよう、片眉を上げる。わざと不遜に応えた。
「オレの名前知ってる?」
彼は、オレに抓られたままで、うん、と頷いた。
「しってる。エドワードくん、」
「エディでいい。次からはそう呼べ」
その時、ほんの一瞬、思った。身の丈以上のことは望んでこなかった、望もうとは、思わずにきた人生だけれど。その時だけは、――彼と親しくなりたい。彼のことを知って、彼のそばにずっといて、……それで。
彼が傷つかないように、守る存在になれたらいい、と。――夢みたいなことを、――ほんの、一瞬だけ。
人を殺したことなんて幾らもあるが、初めてのそれは、随分あやふやなモノだった。つまり本当に殺したのだか、未遂に終わったのだか分からない。それなりに整った見目に生まれてかつ、立場が弱ければ、何らかの被害にはいっぺんくらいは遭うものだ。遭わずに済むならラッキーだ。俺は遭った。その時の話だ。
詳細に述べるのも煩わしいほど有り触れた話で、だから割愛するが、レイプされかけて半殺しにした。今の俺なら“厳重注意”で済ませられただろうが(そもそも、今のガタイで襲う気になる奴がいるともあまり思えないが)、その頃は、弱いガキだった。余裕がなかった。余裕がないから、必然的に死に物狂いだ。どんな弱者でも、死に物狂いになってしまえば発揮する力は絶大なモノで、しかしまあ犬に襲われた時のがヤバかったな、腹減ってたしな。半狂乱になりながら滅多矢鱈に打ち据えたことだけ覚えているけどなにで殴ったかも、どのくらいの間殴ってたのかも思い出せない、動かなくなっても、怖くてまだ叩いていた。殺意はなかったし、死んでもいいやとさえ思ってなかった、怖かっただけ、怖かったから殴り続けただけだ。それで、少しずつ落ち着いて、やがて、自然と腕が止まった。
沈黙しているそれを見て、後悔も焦りもありはしない、あるのは安堵だ。ああ、良かった。冷静になり始めた脳はこれが刑事事件として扱われる可能性を考慮し始めたが、いくら捜査したところで、戸籍すらないガキが捕まるわけがない。それ以前にそもそも、警察がこんなチャチな事件をマトモに調べるはずもなかった。「問題ナシ」。床に伸びるそれが、死んじまったのか気絶しただけか、興味もなかったしそのまま出てった。だから俺は人を殺すことに忌避感を覚えたことはない。初体験がこの始末なんで、感慨を持てと言われてもね。
しかし学んだことはある。あんまり人を、追い詰めるもんじゃないってことだ。どんな雑魚でも、命懸けで噛み付けば指の一本は落とせるものだ。恐怖に震える時にこそ人は暴力的になる。……怖がらせるのが役に立つこともそりゃあるけれどやり過ぎは良くない。加減が大事なのさ、諸君。
僕だってそう。排除されないために、無害な振りをすることだって時には大切。だって怖いものには、いなくなってほしいと思うだろ?……その気持ちは僕自身にも、痛いほどよく、分かるのだから。
(ゆきと道連れ:「冬」に関する記憶の一部分)