癖、というよりかはルーティーン。
 好きな人の好きな人をバレないように観察。きっかり十秒経ってから好きな人へと視線を向ければ、彼の視線は私が向けていた所と同じ所に。本人の口から好きなのだと聞いた事は勿論ないけど、こんなに見てるのを見ちゃったら馬鹿でもそれに気付くわけで。ああ、やっぱりなぁと落胆するまでが、そう、ルーティーン。
 飽きもせず、暇さえあればそうやって。放課後になった今だって、自分の分はもう書いたからと日誌を絶賛片想い中の彼に渡して、窓から校庭を見下ろしている。

 うっすらと赤みを帯び始めた空。正門へと向かうふたつの背中とそこから伸びるふたつの影。
 ひとつは、いつも視線を向けてしまう好きな人の好きな人。ちっちゃくて可愛い、その背中の持ち主は彼の幼馴染みで私の親友。
 もうひとつは、ちっちゃくて可愛い背中の彼女が好きな人。彼女より頭二つ分高くてほどよく広い、その背中の持ち主は私の幼馴染みで彼の親友。
 彼らは、両片想いだ。個々に双方から相談されたから多分とかおそらくとかそんな曖昧な言葉なんて語頭にはつかない。

「おい」
「んー?」
「終わった」
「んー」

 そういえば今朝、幼馴染みが僕告白するよ!って意気込んでたなぁ。なんて文字通り他人事でしかないそれを思い出しながらぼんやりと窓下を眺めていたら、人ひとり分には満たない何とも半端な距離を空けた右隣に誰かの気配。

「お前」
「ん?」
「いっつもあいつ見てっけど」
「んー?」
「……あいつら」
「うん」
「付き合うの、時間の問題だろ」
「……だね」

 本当にな!だとか脳内で独り叫びながら右へと視線を移せば、私と同じようにルーティーン実行中の彼。隠すつもりなんてないのだろう。夕陽に照らされたその横顔が不機嫌そのもので、嫌な意味で心臓がきゅって鳴った。
 そんな顔するぐらいならそういう事を言わなきゃいいじゃん。ああ、もうやだ。
 視線を窓下に戻すとふたつの背中はもう見えなくなっていて、これ以上不機嫌に関わるのは馬鹿げてるし面倒だし何より不毛。もう帰っちゃおう。そうだそうしよう。

「なぁ、」

 そんで、泣く。秒で泣く。
 そう決めたところで右斜め上から声が降ってきた。多分、憂さ晴らしにゲーセンだの何だのに付き合えって言うんだろうな。でも待って、今日はもうメンタルもたないダメ。明日にして。
 ほんの少しだけ眉根を寄せて、ゆっくりと右向け右。するとどうだ、いやびっくりだわ。これでもかってくらいに眉根を寄せて、でもどこか泣きそうな、そんな瞳がこっちを見てたらそりゃいくら私だって驚くよ。

「……あんなクソ鈍野郎やめて、俺にしろよ」

 ひゅっ、と喉が鳴った。


クソ鈍野郎はキミだ馬鹿


「え待ってちょっと無理」
「そんなにあいつが好きかよ」
「違うそっちの無理じゃないそうじゃない」
「とりあえずハイかイエスって言えよ」
「ちょっもおぉお!」
 

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