Treasure hunting
見ていない、即ち、もう用はない。
という解釈もあながち、間違いではないだろう。
「っ、が、あ、」
「……次はない」
くそアマ、と男が口にした時点で先は見えていた。
どれだけ人を引き連れていようと、どれだけ血を浴びていようと、所詮は浅瀬しか泳いだ事のない小魚。
陽を浴び続けたその身で深海を目指せばどうなるか、想像だけで終わらせておけばいいものを、欲を出したせいで彼は身をもってそれを味わっている。
「あら。駄目よ、ナイト様。彼にはまだ果たしてもらわなければいけない約束があるもの」
「っざけんな!誰が守るかンなもん!」
「……あら、」
アスファルトに転ぶ"人"だったもの達の中で膝をつき、肩を押さえながら尚も吠える浅瀬の小魚。
その"約束"がどのような内容なのか、見えているのは半分ほどでもう半分は分からない。
だが、それを理由に待ったをかけるぐらいなのだからそれなりには重要な内容なのだろう。
「……それは、残念だわ」
「は。たりめぇだろうが。俺はこいつを、ブラッドを殺せると思ったから話に乗ったんだ」
「……あら。でしたら何故、それを条件になさらなかったの?」
「あ?」
「きちんと条件を提示すれば、未来は変わっていたかもしれませんのに」
ふふ、と。
ゆるりと上がった口端からこぼれるそれはいつにも増して妖しく響いて、他者の鼓膜を無遠慮に侵す。
「そうかよ。なら条件変更だ。殺させろ」
「あら。それは無理な相談ですわ」
「ってめぇ!ふざ」
「ふざけてなどいませんわMr.フィンリー。ただ、私は出来ない約束をしない主義ですの」
「……あ?」
「殺させる、のは無理ですわ。けれど、そのチャンスを与える事は出来ますの」
「……」
「勿論、最初の約束を守って頂く事を前提に新たな条件を此方も付けさせて頂きますけれど」
いかがかしら?と。
彼女が男の目の前に差し出したのは真っ白なハンカチ。
「……付ける条件次第……だな」
す、と。
"キャット様"の手から離れたそれを押さえていた肩へと宛がい、男は小さく呟いた。
「Mr.フィンリーには、死んで頂きます」
刹那、"キャット様"は再び微笑を浮かべた。
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