雨なんて嫌い 雨なんて好きじゃない。むしろ嫌い。だって部活が休みになっちゃうでしょ?え?違う違う、私は部活入ってないから関係ないんだけどさ、ほら、外でやってる部活は休みになるでしょ? …って、なに勝手に一人で語っているんだ私は! 「はぁ、雨やだなぁ…」 私が放課後に必ず訪れる図書館から見えるテニスコートには人影はなく、冷たい雨がコートを濡らすだけ。 テニス部やらないならここに居ても意味ないし…… 「帰ろうかな」 「帰るのか?」 「え?」 後ろから声がして振り返ると、柳が立っていた。 「や、ややや柳!?なん――」 「何でここにいるんだ、とお前は問う」 「わかってんなら答えてよ」 「見ての通り、今日は雨だ。部活が出来ないのでたまには図書館でゆっくりしようと思ってな」 そう言って私の前にある椅子に腰掛けた。 「そっか…」 放課後の図書館には、私と柳の二人だけ。うちの学校の図書館は放課後は解放してて、委員の子がいる時もあればいない時もある。今は二人きりというからには後者である。 二人きりとは、柳を好きな私にはとても気まずいわけで… 「絢奈、」 「な、ななななんですか!?」 や、やっちまった。吃っちゃったよ、緊張してるって完全にばれたはず。 「……何故吃る」 「きゅ、急に呼ばれてびっくりしたから?」 「あぁ、すまない。そういうつもりは毛頭なかったのだが」 「大丈夫だよ。で、どうしたの?」 「……お前は放課後、たいてい図書館にいるようだがなにをしているんだ?」 「え…」 うわっ!!それ、1番触れてほしくない質問なのだが。だって私はここでいつもテニス部を……いや、柳を見ているから。 ……よく考えるとストーカーじみた行動してるな、私。 「絢奈?」 「なんで柳は私がいつもここに居ること知ってるの?」 「質問したのは俺なのだが…」 「あ、ごめん」 そっか、そうだよね。普通は私が先に言うべきだよね。 「フッ、まぁいい。俺が何故絢奈がここに居ることを知ってるか、だったか?」 「うん」 「それは練習をして居ると必ずお前がここからテニスコートを見ているからだ」 「なっ、なんでそれを…」 「フッ」 私がそう聞くと、柳はいつもみたいに笑った。 「俺も図書館を見るからに決まっているだろう」 「なんで…」 「お前は先ほどから質問攻めだな」 「あ、ごめん」 「まぁいい」 「……ありがとう」 「俺が練習中に図書館を見る理由は絢奈を好きだから、といったところか」 「え?」 い、いいいいま好きって言った!?聞き間違いとかでなく、いまはっきりと柳の口から『好き』っていう単語が聞こえた。 ねぇ、私も好きって言っていい? 「話を戻すが、絢奈は何故放課後に図書館に居るんだ?」 「……さっき柳が言った通り、テニスコートを見るため。ここからが1番見やすいの」 「テニスコートを見るのは何故?」 「うっ、」 くっ、勘の鋭い柳ならこの雰囲気からしてわかってるはずなのに…!わざわざ私に言わせる気だ。 こいつがこんなにSだったとは!! 「……柳を、見るため」 「どうして俺を見る?」 「柳の意地悪」 「フッ、なんとでも言うといい」 「あぁもう!!柳が好きだからだよ!!」 ふんっ、どうだ!私だって言おうと思えば言えるんだぞ! 「俺も、絢奈が好きだ」 「う、うん。……あの、」 「なんだ?」 「これはお付き合いを始める、ってことでいいんだよね?」 「お互いに好き合っているのだから、そういうことだろう」 「で、ですよね」 あんまり実感わかないけど、ずっと好きだった柳と付き合えるなんて……うれしすぎてどうにかなっちゃいそう。 「では帰るとするか」 「え?」 「どうした」 「図書館でゆっくりするんじゃなかったの?」 「そんなの会うための口実に決まっている」 「あ、マジか」 雨なんて嫌い 前言撤回、好きになった。 「帰るぞ」 「うん!」 [モドル] |