切原くんお姉さん
無くす

ミチルに連れられて、千春達の元に戻る。



「実奈!!」



千春が私の姿を見て慌てて近づいて来た。


私は誰とも目を合わせたくなくて俯いた。



「あ…千春先輩、救急箱あります?」

「う、うん…」



ミチルは私の手を引いて救急箱の近くに腰を下ろした。
千春も同じ様に腰を下ろした。



『天ちゃんは?』

「あ、雅治が保健室に…」

『そ…』



私は傷の手当てをしようと救急箱に手を伸ばした。



「ダメです」



ミチルに止められた。



『………』

「何処ですか?」

『服の下』

「………脱げますか?」



私は無言で制服を脱いでいく。


誰も喋ろうとしない。
私は多少の気まずさを感じながらシャツのボタンを外す。



「姉ちゃ」

『「「………」」』



声のした方を見れば赤也が肩息をしながらこちらを見ていた。
私は何も言わず赤也を見た。


目は…合わさない。



「千春!!」



続いてまーくんが来た。


何だコレ。
そう思いながらミチルの手にある消毒液とガーゼを取り、足と腕のかすり傷に消毒液をかける。



「ああ!!私がやります!!」



我に返ったミチルが慌てて私の手から消毒液とガーゼを奪い取った。


私は小さく溜め息をついて、大人しくミチルに手当てをしてもらう事にした。


流石に背中は自分じゃできないし。



「な、何でブ!?」

「って姉ちゃん傷!!傷が!!」



そう騒いでいる2人を気にしないで青痣に湿布を張る。
背中の届かない所はミチルに貼ってもらった。


私はミチルにお礼を言って制服を着た。



「姉ちゃん…」

『………何』

「その傷…なんだよ」

『どの傷?』

「全部」

『…さっき揉めた時に出来た』

「揉めたって…」

『………言わなくても分かるでしょ』



そう言って立ち上がり制服についている砂を払う。


お昼食べれなかったなー…
まあ、良いか別に死ぬわけじゃないし。



『じゃあね』



お弁当袋を手に持ち、そのままフェンスを登ろうと歩き出した。



「待って」



グッと手を掴まれた。



『何?』



振り向かないで答える。



「何で…何で目、合わせてくれんの?」

『合わせたくないから』

「何で…?」

『……そういう時もあるでしょ』



掴まれていた手を振りほどき歩き出す。


私はフェンスに登らず校門に向かう。



『今は誰とも居たくないんだよ…』



小さく呟いた私の言葉は誰に聞こえる事もなく風に掻き消された。





自分

何もかも分からない。
消えてしまいたいぐらい。




20120502
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