切原くん家のお姉さん
気遣い
侑士くんを発見したが特に何もせずに只見ていた。
一瞬"キャー!!頑張ってー!!"とか叫ぼうかと思ったが声が裏返りそうな気がしてやめた。
それに私が叫ばなくても彼女達が叫んでくれているだろう。 そう思い私は若くんを見つめた。
若くんは私の視線も気にせず練習に励んでいる。 ちょっと寂しい様な気がするが、今日は若くんに会いに来ただけなので、取り敢えず満足している。
『うーん…』
何か思い出せる様な気がしたが… 困った事に全く思い出せない。
どうして若くんに会えば何か思い出せると私は思ったのか分からない。 私は取り敢えず、じっと若くんを見つめた。
"…忘れねーよ"
" ……"
"忘れられる訳…ねーじゃん…"
"そうだよ…みんな実奈ちゃんが好きなんだから…"
"うん、忘れないよ俺達みんな…"
『……っ』
不意に昔の会話を思い出した。 だけどハッキリとは分からない、 只とても懐かしくて…嬉しかった。 それだけはハッキリしている。
「先輩……?」
休憩になったのか若くんが目の前に来ていた。 私は若くんを見つめた。
「何で…泣いてるんですか…」
私は慌てて頬に手を当てた、頬は確かに濡れていて自分が無 意識の内に涙を流していた事に気づいた。
『ごめ……何かゴミ入っちゃったみたい』
若くんに顔を見られないよう俯いた。
始めて家族以外で泣き顔を見られた。 私は涙を堪え若くんを見た。
若くんは難しい顔をしていた。 きっと私が涙を流していたせいだろう。
『…休憩終わっちゃうよ?』
「……帰り駅まで送ります」
それだけ言うと若くんはドリンクを取りに行った。
余計な気を遣わせてしまった… 何だか申し訳ない気持ちになった。
その後、私は"どうして涙を流したのだろう、あの記憶は一体いつの記憶??"そんな事を部活終了時刻まで考えていた。
「……先輩」
『お疲れさま』
「………ハァー」
若くんは私を見て溜め息をついた。 ちょっとその態度失礼じゃない??とか思ったが相手が若くんなので"しょうがない"と思い取り敢えず笑っておいた。
「帰りますよ」
『はいはい』
そう言って若くんが歩き出したので私は後ろをついて行く。 途中、後ろから侑士くんの声が聞こえた気がしたが、今日は会いたく無かったので聞こえないフリをして若くんを追いかけた。
「良いんですか??」
『良いの…今日は若くんに会いたかっただけだから』
「……そうですか」
横目で若くんの顔を見たら少し赤くなっていた。 からかって見ようかと思ったが今日はやめておいた。
『ありがと…』
「それじゃ…」
『うん…またね』
「……実奈先輩」
『ん?』
「………何でも無いです」
それだけ言うと若くんは私に背を向けて歩いて行った。
暫く若くんの後ろ姿を見つめた後ホームへと歩いて行った。
彼の気遣い
いつもの私なら きっと嬉しかった筈なのに 今の私には若くんの優しさが苦しい
20120424
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