大学生になって彼女達は早半年。無機質な寮部屋に高校時代の桜ヶ丘高等部軽音部 、その面子が四人。 その中の秋山澪、そしてその幼なじみの田井中律が隣同士に住み始めたのも同じ時期だった。 『みーおーっ!』 彼女が突然現れるのには澪本人も馴れていた。 大学生になり、恋人同士になった今は尚更の事である。毎日の様に澪の部屋に神出鬼没に現れる律には彼女ももう、馴れたものであったが… 『プリクラ撮りにいこうぜ!』 その言葉には彼女も口を開ける程にしかなかった。 「いきなり何を言い出すんだ」 と澪は呆れながらも不平を零すが、その言葉には凛々と瞳を輝かせる律が居て。 「私達プリクラ撮った事ないじゃん!だからプリクラ撮ってみようよー!」 と、脈略もなく発せられる言葉に澪は茫然とした。 雑誌を読んで、今日の休日を有意義に過ごそうとしていた彼女には突然の事だ。まさか律がプリクラなんて現代社会に流通しているとは思っても居なかった事。 それに加えて、お洒落なんて事も考えて居なかった彼女には口を開ける以外動作が浮かばなかった。 「何口開けてんだよ!プリクラったらプリクラ!」 そんな口からぺらぺらと言葉が出る彼女には 「なんだっていきなり…」 そんな言葉しか出なかった。 それを見た律は頬を掻きながら照れ臭そうに 「いや、大学生になっても私達プリクラとか写真なんて残してないじゃん。それに、街中でも手とか繋ぐのも無かったし…」 と、後半は聞き取れない様な声色で照れ臭そうに話す彼女が可愛くて。内心この場で押し倒してしまいたくなるような衝動を抑えつつも、澪も暇を持て余していた故に雑誌を置いて溜め息を一つ。 「まぁ、撮りに行ってもいいけど…」 「やった!澪恥ずかしがるって思って言いにくかったんだよなー」 可愛い生物だ。彼女からしたらとてもかぶり付きたくて可愛い生物だった。 いつもは道端でも照れ臭そうに手を離したりする彼女が、こんなに愛おしく感じる事はなかった。 「じゃあさ、今日は休みだし!澪の好きなパフェでも食べながら行こうぜっ」 そんなさりげなくアプローチしてくれる彼女を押し倒したい気持ちを抑えながら、悟られないように頷いて着替えを始める事にした。 (どうしようっどうしようっ) 何て律を追い出してからの部屋で一人悶々と衣装ケースを引っ張った。 まだかよーなんて聞こえる声も、あまり耳に届かないまま彼女は服を選ぶしか無かった この際だからお気に入りのワンピースにしようか。 いや、体重も気になるから変えようかなど10分も悶々とケースを眺めた。 そんな時に痺れを切らした律が扉を開け 「まだ選んでんのかよー!」 と半裸の澪を目の前に怒声を上げた。 「だって、プリクラだろ?!」 デートなんだろ、とは口には出せなかった彼女に、頬を膨らませた律は 「選べないなら私がえらんでやる」 と澪を横手に押しやって衣装ケースを押し開けた。 「えっ!お前!」 人の箪笥の中身を解っている様に漁り始め、立っている澪に当てていく服をプロの様に目を凝らす律。 「よし!これだっ!」 見立てた服は彼女の体型…主に胸元を強調しながらも、彼女の体型をスラリと長く見せるワンピース。それとお揃いのネックレスとイヤーリング。 「よし!」 と満足げに頷く律に、今までに着たことのないファッションに戸惑う澪の姿。 「へ、変じゃないか?!」 「なにおー!私のセンスを疑うのか!」 喚く姿に可愛さを覚え、和やかに微笑んでしまった澪。 そこに、トントンとノックの音がした。 『澪ちゃんーりっちゃんの声するけど居るのー?』 この声は大学生になって知り合った菖の声だった。 『ああ、今ファッションショーされてる』 なんて、澪からしたら芸人レベルの解答に、自分で言ってから顔を赤くさせた。 『マジマジっ?!見せてよ!』 そして勢いよく侵入してくる菖。ある意味、ファッション的なセンスはこの子には兼ねそわっていた。 律が冷静に状況を説明すると、菖は目を輝かせ 『カップリング成就とならば!』 と意味不明の言葉を発しながら澪の服を脱がせにかかった。 そして、ファッションショーが行われて数分。 『これで問題ないっしょ!』 と額の汗を拭いながら満足げな菖。 澪は髪型から服装までフェミニンな服装に包まれ、多少たじろいだ。 「これ…似合ってんのか?」 「すっご!めっちゃ完璧!流石は菖!」 そんな澪の会話も流れる様に二人で盛り上がる様子に溜め息をついた。だが、そこでもう一つ溜め息を零す菖。 「澪ちゃんは良いけど、りっちゃんアウト」 その言葉に青白める律の顔。ああ、何をしても可愛いな…なんて思って居る間に、 「恋人同士のプリクラなんだから、気合いいれろっ!」 と、涙ながらに引きずられて行く律の姿。 …そして、10分後。 『完成したよー!』 と菖の声に、目の前の律の風貌に目を疑った。 前髪を下ろしてセットして 髪の毛を結んでツインテール そして、絶対好んで着ないミニスカートと可愛い色合いのブレザー 何もかもが可愛くて、澪は抱き着きたい衝動を必死に我慢した。これだけは菖には感謝の言葉をかけるしかない。だが、向こうから悟ってくれたのかアイコンタクトが飛んできた。 我が友人よ、感謝する。 いや友よ、当然だ! そんな目のやり取りをしつつ、後ろで痺れを切らした律が声を上げた! 「いい加減いくぞー!」 主旨を忘れていた澪と菖は申し訳なさそうに頭を掻いた。 そして、二人きりで出かける間際にムギに激写されて居たにも気付かず、街へ繰り出した。 久しぶりに手を繋ごうか、と手をさりげなく出して来る律。 端からみたら中のいい大学生、いや、女子高生に見られても可笑しくはない。 人が来る度に手を離そうとするお互いに、すっと固く手を握りあって歩いた。 こんな感覚は初めてだと、澪は考えた。 いつもなら隣同士で歩くか、もしくは喋りながら歩く筈なのに、緊張しているのか律は全く話しをしなかった。 近くのゲームセンターに入ると、中は女子同士で賑わっていた。 最近流行りのチュープリ、コスプレなどでごった返していたのである。 「こ…ここで撮るのかよ」 情けない澪の声が零れた。だが、言い出した本人も緊張しているせいか 「が、がんばるぞー!」 なんて空元気な声を出す。 不慣れな空間にどれがいいか、等と迷うが律がはりきってる時点で彼女に任せるしかない澪。 『これだ!』 と丁度いい物が見つかったらしく、手を繋いだまま列に列んだ。律も律で緊張しているのか、手には汗をかいていて。 順番が来るや否や割り勘でコインを四枚入れた。 シャッターの取り方、ポージング、明るさ等に設定があるものの、そこは律の肝の座り方。手早く選んで声をかけてきた。 「みおー、二人でハートマーク!」 言われるがままに澪は引き攣った表情で指示に従った。 だが、ラストのショットに対してはたじろいだ。 所謂、チュープリである。 律も「どうしようかー」 なんて、照れ臭そうにしているものだから、澪は律の頬を掴んだ。 「み…澪?」 「チュープリなんだから仕様がないだろう」 そして。 お互いの唇を柔らかく重ねて甘い口づけをしながらのショットを撮った。 余韻の残る中、二人は落書きコーナーへ。 「やっぱこれ、ヤバいってー…」 顔を真っ赤にさせて落書きを続ける律に、澪は恥ずかしさを寄せ付けない様な笑みを見せた。 「言ったのはお前だからな」 そう言って口づけをしたプリクラに日付を打ち込み、満足げにデコレーションを終了させた澪。 「は、はやいって!」 と念入りにデコレーションする律に笑みを零しながら 「こんな時だけかっこいいんだよな…」 と紡ぐ言葉に頭を撫でた。 出てきたシールは他人には見せられる物では無く、さっさとしまってその場を後にした。 「さって、澪のいきたがってた店でも行くか!」 紛らわすような些細な言葉も、澪には笑えてしまって。 「ああ、行くか」 そんな幼なじみの会話を共にした。 帰宅してから、澪…彼女の手に残った今日のプリクラは、 彼女の律の秘蔵フォルダとも言えるアルバムに、静かに仕舞われた。 ----- 言い訳。夢見たから書いちゃったのーん。落ちちゃんとしてないごめんちゃい しおりを挟む back |