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「風間くんは背が高くてうらやましいなあ」

放課後、坂道の上。風間くんとふたりで並んで歩く。大きく傾いた夕日を受けて長い影を作り出す彼を見て、ぽつりと漏らしてみた。
くるんとこちらを見た風間くんはなんだか不思議そうな顔をしている。うーん、やっぱり高いなあ。わたしはいたって平均身長だけど、彼が長身なのでいつも見上げる形になってしまうのだ。

「そう?例えばどんなところがうらやましいのかな」
「高いぶん、見える世界がわたしより広いでしょ」
この夕日に照らされた街を、もっと見渡してみたい。でもいくら背伸びしたってこれ以上私の世界は広がらないのだ。それがなんとももどかしい。
わたしがそう言うと彼はいつもの特徴的な笑みを浮かべ、「そうだねえ」と言いながら立ち止まった。

「でもそれなら……」
どんな言葉を続けるのだろうと黙って待っていたら、急に風間くんが屈んだ。ん?それから、背中とひざの裏になにかが触れる感覚。
「えい」と彼が短く声を出すと、急にわたしの周りの景色が低くなった。
「え、おわ、な、なに?」状況がわからなくてきょろきょろとすると、視界いっぱいに風間くんの笑顔が映る。
「あ……!」
やっと気づいた。わたしは彼に、俗にいうお姫様抱っこをされているのだ!一気に体温が上がるのがわかった。待って、色々待って、とりあえずここは公道ですよ!

「ね、こうすればきみにも僕と同じ世界が見えるだろう」

平然とそう言う彼に、わ、わかったからおろして、と慌てて頼んで、なんとか地面に足を付けた。なんだかとても久しぶりの感触のような気がした。とりあえず深呼吸。

「どうだった?僕の見てる世界」
「ど、どうだったって……景色見てる余裕なんかなかったからわかんないよ」
「林檎ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからね。ふふふ、かわいいなあ」
「…………」
よくもまあポンポンとそんなこと言えるなあ、なんというか流石だ。ちょっと呆れてしまったけど。
またどちらからともなく歩きはじめる。風間くんが自然に手を繋いできたのでわたしはまたどきまぎしてしまった。ぐぬぬ、悔しい。

風間くんが静かな声で言った。
「林檎ちゃんは広い世界が見たいって言うけどね」
「うん?」
「僕にはそんなこと、必要ないと思うんだ」
「えっ、どうして?」

世界が広く見られたらその分得じゃないの?きょとんとしているわたしの耳に、彼が唇を近づける。

「僕はいつでもきみの隣にいて、きみだけを見つめているからさ」

「な……!」
今時安いドラマでも言わないようなキザな台詞をさらりと使って(しかも似合ってるからずるい)、また彼はにこり。
赤く照らされた彼の笑顔がとてもきれいで、わたしはまた夕日以上に顔を真っ赤にして笑うのだった。






3/18 加筆修正


















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