「ね、その顔って本物なの?」 「顔?」 「うん、なんかほらドッキリガム?とかバンジーテクスチャー?とかで作って貼り付けてんのかなって」 「……バンジーガムとドッキリテクスチャーだよ」 「あれ?そうだっけ。ごめんごめん。それでどうなの?実はちょー不細工だったりするの?」 「それ、今の顔はかっこいいってことかい」 「話逸らさないでよー。無駄に整ってるのはまあ認めるけど」 「ふーん……」 「ニヤニヤすんな。で、どうなの?」 「もちろん本物さ」 「ええー……ほんと?」 「結局言ったって疑うんじゃないか」 「だってヒソカ嘘ばっかつくからさー。どうしても信用できないっていうかさー」 「ヒドいなあ……。ああ、じゃあ触ってごらんよ」 「あ、そっか。触れば分かるのか」 「じゃ、どうぞ」 そう言ってヒソカは軽く両手を広げて、にこりと笑った。うさんくせー。 「失礼しまーす……」 瓦礫の上に隣り合って座っているので、お互い上半身だけ相手の方に向けている。すこし身を乗り出して、両手で彼の頬を触ってみる。……おお、改めて見るとやっぱりこいつ色白だ。なんかすべすべだし。 「え、普段何か手入れしてるの。なんでこんなキレーなの」 「ひみつだよ(はぁと)」 「うわっ」 なんだろ。最近はずっと旅団のみんなと一緒だから、食生活とか生活リズムとかは同じはずなんだけどな。ヒソカにあってわたしにないものって、なんだろう。 あ……! わたしは恐ろしいことを発見してしまったかもしれない。返り血だ!昨日も一緒に仕事したけど、こいつは率先して返り血を浴びに言ってる感じでちょー気持ち悪かったのだ。なるほど、あれはまっしろ美肌のためだったのか。妙に納得した。やっぱり美しさのためにはそういうちょっと恐ろしいことをしないといけないのか。じゃあわたしはいらない。 「林檎、まだ触り足りないかい」 「え、あ」 どうやらわたしはいつの間にか思考の海にダイビングしてしまっていたらしい。ああしかもその間ずーっとヒソカの顔(特に頬)をむにむにすべすべしていたようだ。うええなんたる不覚! 「ごめんごめん、よーくわかった。ちゃんと本物だったわ」 「だろ?」 「うん。……ん?」 てゆーかなんか息かかるんだけど。さっき二人で食べた飴のかおりがする。なんで?あ、あれださっきより顔が近、えっ、近い!!! 「ぎゃ……っ」 急いでからだを引こうとすると、大きな手に頬を挟まれた。逃げたいけどがっちりがっつりホールドされてて動けない。ちょ……! 「ま、なに、放し、……ッんむ!?」 わたしの必死の抗議は奴の唇に阻止された。え、唇?え?思わず目を閉じてしまう。ぬるりとなんかもう分かりたくないけど分かっちゃう生暖かいなにかが侵入してきて好き勝手に暴れる。 「ん……ッ、ふ、ちょ、待、」 なんでここでそういう気分になるんだ!てゆーかここアジト……アジト!!!すぐ向こうにみんないるじゃん!やだやだやだ、どんどんどん、奴の胸を叩くけどびくともしなくて、力の差に絶望すると共にもういい加減酸欠で死ぬ……とか思ったらようやく解放された。 「っ、ん、げほ、」 涙目でむせながら奴を睨む。目を細めて唇をぺろりと一舐めするのが妙にサマになってて腹立った。 「な、なんなの、なにすんの!」 恥ずかしさとか何だか変な感覚とかを振り切りたくて奴に飛び蹴りを食らわそうとしたけど、すぐに相手が戦闘狂なのを思い出してやめた。というか物理的な戦いで勝てる気が(悔しいけど)しないので、わたしは言葉の攻撃をするしかない。 「ば、ばか、ヘンタイ、すけべ、えーと、ばか!」思いつく限りの悪口を並べ立ててみる。しかしわたしの語彙力では全然だめで、こいつには全く効いてないらしくただニヤニヤ見つめられるだけだった。ぐぬ! 「なんとか言ってよ、ここどこだか分かってて……て、て、あ、」 アジト!!!!!!!!!!!! ぐわっと勢いよく首を回してみんなの方を見る。あわわわわ。案の定みんなこっちを見て、それぞれいろんな表情をしていた。ああみんなだいたい呆れてらっしゃる。特に女性陣の呆れ具合やばい。ボノさんとフランクリンはなんだか可哀想なものを見る目をしてるし、フェイタンは読書中だけどすごく不機嫌そう。コルトピは髪で隠れてて顔が全然分からない。逆に怖い。強化系組が奴と同じようにニヤニヤしてるのであとでシメる。 見られてた?いやいやそれはないよねみんなトランプとかしてたもんね。どうか「何騒いでんの」的なことを言ってくれますよう「そういうの、部屋でやってくれない?」に……。シャ、シャルナ――――ク!!!!!!!なに!その!苦笑い!!!!!! 「そうだね、じゃあボクの部屋に行こうか」 おまえも何言ってんの!潰す!!!! 確実に見られてたしヒソカの態度は腹立つしもうどうでもよくなったわたしは奴のこめかみにありったけの力で回し蹴りを食らわせて、そのままアジトの出入り口に走り抜けその勢いのままシャルナークに飛び蹴りして逃走した。 (あーあ、行っちゃった) (腹減ったら帰ってくんだろ) 勢いで書きました…… |