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「大工ーっ!宿題写させてえええええ!!」

私史上最速であろう速度で教室に駆け込み、同時に同級生の名前を叫ぶように呼んだ。

「あ、園咲来たぞ桜井くん」
「よかった、ありがとうございました、部長!」

大工の声がした方を見ると、呑気な笑顔の大工と一緒に見慣れない可愛らしい顔がこちらを見ていた。あ、違う。見慣れてはないけどこの子、私の知ってる子だっていうか今一番会いたくないあの子じゃないのおおおお!!!!
逃げ出したい気持ちを抑えながらできるだけ平静を装って話しかけた。

「えーと、な、なんできみが、」
「これ、先輩のですよね」
「え?あ……!」

近づいてきた彼が私に差し出したのは、一晩ぶりに見るいつもの黄色。昨日私が屋上に置き去りにしてきたお弁当箱だった。どうして彼が持っているのかとか屋上にないわけだぜ超無駄足とか色々な事が頭の中をぐるぐるする。私は状況がよく理解できないまま彼の手からお弁当箱を受け取った。

「えっと、ありがとう……?」
「はい!どういたしまして!」

にこりと笑った顔はまだまだ幼くて、やっぱり可愛いなあとさっきまでの疑問が空に飛んでいきそうになる。ぎりぎりのところで尻尾を捕まえて、口に出してみた。

「あの、どうしてきみが持ってるの…?」
「あ、それはですね」

彼は人懐っこい笑顔のまま、事の経緯を話し始めた。
なんと私は昨日あの時、コーラと一緒にお弁当箱も渡してしまっていたのだそうだ。(なんて馬鹿なことを、と頭を抱える私に彼は「大丈夫ですよ俺もたまにやりますから」という苦しいフォローをしてくれた)
それから彼はどうしようかと迷って、結局放課後になってしまったので家に持ち帰って洗ってくれた。洗ったのは姉ちゃんなんですけどね、とちょっとばつが悪そうに言ったのがとても可愛かった。この子ほんとに高校生か。あとお姉さんにまで迷惑かけてごめんなさい。
そして今日の昼休みにまた私が屋上にいると思って一度行ったのだそうだ。でも私は教室でお昼を食べていたのでいなくて、とりあえず彼もお昼を食べてからなんと私を探して校内を回ってくれたのだ。
うちの学校は恐ろしく人数が多いので(私はP組だ)当然ながら私は見つからず、困っているところにちょうど部活の先輩である大工が通りかかったらしい。大工の部ってちゃんと部員いたんだ。
そこで事情を話したところすぐに「それはうちのクラスの園咲だ」と言われ、(どうしてわかったんだろう)一緒に教室で私を待っていた、と。

なるほどつまり私は後輩とそのお姉さんと同級生にとても迷惑をかけたということですね。
「ほんとごめんなさい…………」
「あっいえ、全然いいですよ!」
よくないよ……!フォローしてくれるし不審者の落し物は届けてくれるしこの子どこまでいい子なんだ。ああ視界が滲む。

きんこんかんこーん。
チャイムが鳴った。同時に教室内のクラスメイト達がざわざわと自分の席に向かう。

「あっヤベ、教室行かねーと!じゃ先輩また!」

そう焦った様子で挨拶をすると、彼は急いで教室を出て行った。ああ、彼が授業に遅れたら私のせいだ。本当にごめんなさい。

「よかったな、弁当箱戻ってきて」
「うん、大工もありがとう」
「おー。そういや園咲、さっきなんか俺に言ってなかった?」
「え?」
「なんか急いでただろ」
「……………………あ、」

「宿題だあああああああ!!!!!」


急いで大工にノートを借りようとすると大工が「あ」と間抜けな声を出して私の後ろを見る。ははは嫌がらせかその手に持ってるノートを寄越せ。とは言えないのでできるだけ丁寧に、
「お願い早く、先生に見つかったら絶対怒られ……」
まさか。一瞬、漫画でよくあるシーンが頭をよぎった。
ぎぎぎ、とそのシーンよろしく振り向くと、そこには数学の先生がにこにことさっきの彼とは違った種類の笑顔で立っていた。お、お約束ですよねー……





一通り叱られ廊下に立たされた私が中庭に鹿を発見するのはまた別の話である。


















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