ある種の鳥の雛は、孵化して初めてみたものを、親と認識するらしい。


この緑毛の雛は、私を親とでも思ってるんだろうか。
「トウコ〜」
私の隣に座ったNは、すりすりと頬を私の肩に押し付けていた。この時ばかりはノースリーブの服だったことを後悔する。

「N、帽子の鍔が当たって痛いよ」
頬を擦り付けてくる度、黒い鍔が上腕をかすめるのだ。実際に痛いというわけでもないのだが、いい年した青年のすることじゃなかろうと思って、遠回しに止めてようとしてみる。

私にたしなめられたNは、おもむろに帽子をとって脇に置くと、再び頬ずりを始めた。

「…Nさーん」
「なんだい?トウコ」
甘い微笑みにほだされそうになるが、それはそれ、これはこれ。

「恥ずかしいんで止めてくれませんか」
「僕は恥ずかしくもなんともないよ。トウコは恥ずかしがり屋だね」

この人に年相応とか一般常識を求めた私がバカだった。

「それにこういうのって、していいのはチビっ子と恋人同士くらいなもんですよ」
「………」

あ、Nが考えこんでる。そうなのかー、って今知ったんだろうな。
それでもって、子供にはもう戻れないから、って考えるはず…てことは


「恋人同士になろうか」

「…そんな簡単に告白しないでくださいー」

「でも本気だよ。本気。トウコにしかこんなことしない、できない。それにトウコも、断る口振りじゃないね?」

変に鋭いとこあるんだよなぁ、この人。
照れ隠しに、キャップを深く被りなおしてみた。













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