36.秒読み







アデクの最後の砦、ウルガモスが力なく倒れる。手持ちの六体を先に瀕死にさせた方が負け、そんな基本ルールを忘れてしまっているかのように、元チャンピオンは呆気にとられてしまった。まさか、こんなおかしな青年に。自分が。歴代最高齢・最長のチャンピオン歴も、Nを退けるには力不足だった。


「アデク、あなたはチャンピオンの座に胡座をかき、何もしてこなかった。理想を持ちつつも、真実に嘆きつつも、何ら行動に移すことはなかった。」

「儂は、人とポケモンの未来を思って…」

「思って何ができた!?チャンピオンという位にありながら、只唯のんべんだらりと放蕩していただけじゃないか!」

壮年のアデクには、かつてのような燃える覇気は消え失せていた。燃え尽きた炭のような、脆いかたちをしている。

「それでも!お主のような偏った方法は採りたくはない。ポケモンと人を分かち、その先になにがあるのだ!」

「その先、ですか。未来を変えようとしない貴方に、僕の考えに賛同してもらおうとは思わない」

ただ、敗者は王座を下るのみ。


その声を合図に、チャンピオンリーグが大きく揺れた。アデクは、すわ地震か、と身構えたが、それ以上の驚きをもって目を見開くことになる。
地下からせりだしたコの字型の建築物がリーグの神殿を取囲み、見る間にリーグの高さを越えた。そして恐ろしい一突きをもって、今のフロアに階段を差し込んだのだった。ドーリア式の美しい柱廊は破壊され、残る柱が辛うじて重い天井を支えている。

「これは…城だとでもいうのか…?」

「御名答。そして、プラズマ団の、僕の城だ。世界はこの、玉座の上の玉座にひれ伏す」

Nはしずしずと、差し込まれた階段を上る。その間にも、城からは数多のプラズマ団団員が姿を現し、あるいは身を乗り出て王子を一目見ようとした。中央階段の半ばで待ち構えた女性二人が、赤い生地に白いファーを備えたロングローブをNの肩にかける。そしてNの頭には、大きな冠が載せられた。


「正しいポケモンの在り方を、世界中に知らしめる!ポケモンと人間との分離共存を!弱者が虐げられることのない世界を!新チャンピオン、N・ハルモニアがここに宣言する!!」



宣言と喝采を遠くに聴きながら、トウコは走る。リーグの大階段を、つまづきながらも走る。彼女を先導して、あるいは率いられて、ジャローダ、シャンデラ、キリキザンが走る。たった今出現した城を目指して、
否、チャンピオンを目指して。
















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