≪番外編 トウヤートレーナーズ・キャップ―≫






「行くんだな」

戸口に立って、まさに家を出ようとしたとき、父に呼びかけられた。普段全くといっていいほど家に居ない父親だが、俺の大切な日はきっかり見送りをしてくれる。愛されているのだ、きっと。

「うん。父さんがくれたチコと一緒に、旅をしてくるよ。そして」

「トウコに会う、か?」

昔あった事件以来、母と妹とは離れて暮らしている。母は時折訪ねて来て、娘の様子を教えてくれるが、会わせてくれることはなかった。俺と同じく、父も彼女とは会えてはいない。それは全て、あの子の忌まわしい記憶を封印したままにするためだ。

「うん。きっと、探してみせるよ。父さんや母さんに、居場所を教えてもらうんじゃ意味がない。俺自身で探し出す。」

トウコの記憶をできることなら蘇らせたくはない。
あの子の歪んだ顔は、もう見たくないから。だから、親に頼んで会わせてもらうことはしたくない。

しかし、もしも、旅の中で再び会えることができるなら、それは奇跡だ。奇跡なら、再会は罪ではない。



俺は賭けをする。
負ければ彼女を守ることができ、勝てば彼女とまみえることができる。
どちらにせよ、悪くはなかった。

「その帽子、大事にしろよ」


「うん、ありがとう。行ってきます」


最後の父の言葉が本当の意味でわかったのは、その旅立ちの日から数年経った後だった。















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