トウコの説得は空しく、ベルの心は鋼のように固かった。
応援のプラズマ団員も姿を現し、力付くでチャンピオンロードへの、Nの許への道を塞いでいる。いくら力を持ったトレーナーとはいえ、4対1のバトルで簡単に逃がしてもらえるはずもない。水タイプにはジャローダが攻め、悪タイプの攻撃が来ればキリキザンが受け、ジャン、シノブ、アカリ、の3体はうまく連携して交互に立ち回るが、徐々に体力を削られていく。
トレーナーであるトウコも、焦りでじわじわと削りとられていった。


「ミジュ、シェルブレード!!」
その隙を突いて、ベルのフタチマルの必殺技が、残る体力の少ないシャンデラへと襲い掛った。
そしてそれを見たトウコは、咄嗟に両者の間に割り入った。危機を感じたその時、彼女の頭の中には、ボールも命令もなかった。ただ、仲間を護るために、身体が動いてしまった。ジャンもシノブも反応したが、どうにも間に合わない。

ベルのフタチマルと、トウコの視線が、コンマ一秒噛み合った。
フタチマルの手元のホタチが、わずかに揺らいだ。それを受け止めるため、トウコは自らの腕を顔の前に組んだ。スローモーションの世界でベルを見遣ったが、ついに、視線を交わらなかった。







ガキンッ






衝撃波がびりりとトウコの頬を擦る。しかし、熱い血潮は彼女の中で脈打つだけだった。


「まったく、メンドーなことになってるね」


シェルブレードを受け止めたのは、シャンデラでもトウコでもなく、ヤナッキーだった。そうさせたのは、トウコとベル、二人がよく知る少年だ。手持ちの他のポケモンも出し、プラズマ団に応戦する。ヤナッキーがフタチマルを押さえている間に、ジャローダはトウコを後ろへ下がらせた。



「チェレン!」

「まさかトウコに追い付けるなんてね。こんなにゆっくりしてていいんだ?」


ソウリュウバッジを手に入れ、その足でここまで来たのだろう。言葉こそ冷静なものの、顔は珍しく上気していた。プラズマ団を強く敵視していた彼だ、Nの演説を聞いて、居ても立ってもいられなかったのだろう。

「けど、何なのこれ。ベルはアイツらの側にいるし、君を傷つけることも辞さないなんて」

メンドーなことに、と息を吐いた。
トウコは事情を伝え、プラズマ団の3人とベルを倒す手助けを乞うた。


「いや。君は、今すぐ先に行って。あのNって男を止めるんだろ」
「でもこの人数相手に…!」



「僕のパーティーは4体。数で押し負けやしない。見くびらないでよ。」
チェレンはトウコの背中を押した。





トウコだって理解した。
このまま残れば、きっとプラズマ団の思惑通りであること。
そうなれば、チャンピオンとなったNとレシラムが、世界を変えるため動きだす。
そしてそれは、チェレンの厚意を台無しにしてしまうことだ。



「わかった。お願い、チェレン。」
「君を行かせる策もある。トウコ、僕が合図したら、ど真ん中を走り抜けて。」

「わかった。ありがとう。」

「タイミングずれたら承知しないからね」









31.浮かぶ瀬





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