≪番外編 ベル ―反響―≫ 自分には何もない。 旅に出て思い知らされたのはそればかりだった。 パパもママも私の旅立ちをずっと反対していて、過保護の心配性。 トウコやチェレンと一緒に行きたいとしつこく粘ったら、ようやく諦めてくれたみたい。眉を八の字にして送り出してくれたっけ。 なのに、やっぱり心配みたいで、ライモンまで押し掛けてきて、私を連れ戻そうとしてた。 ヘリコプターペアレントってやつ? そんなんだから、私がいつまで経っても独り立ちできないのに。 「トウコはいいよねー、親にうるさく言われなくてさ。お母さんも元凄腕トレーナーだから、旅にも理解あるし」 「しかもバトル始めたらめちゃめちゃ強いし」 「優しそうなお兄さんもいて、チェレンにも好かれてるし」 「運動神経いいし」 「行動力あって」 「まっすぐで」 「可愛いし」 「細いし」 そんな女が近くにいるなんて、劣等感で吐きそう。 でもきっと別の街に行けば、私にしかできないことが見つかるはず。外は怖いけど、小さい町にいるよりマシだと思った。カノコには何もないから。 なのに、 バトルの才覚を開花させ、頭角を表すトウコと 弱く信念もみつからない私がいた。 そんなの、だめ。 私は、私だけの、輝くものを見つけなくちゃいけないのに。 もがけばもがくほど、わたしは惨めだった。 あたし、かわいそう。 「ミジュマルも、エモンガも、あたしのところにいるばっかりに、負けて傷ついて。」 この子たちは、かわいそう。 * そして緑髪の青年の言葉が、ベルの心を、大きく掻き鳴らした。 プラズマ団はベルのような従順な娘を欲していて、ベルは自分の存在を誰かに認められたくて、かくして両者の思いは重なり、反響した。 「トレーナーに囚われたかわいそうなポケモンたちを、解き放ってあげましょう!」 そしてまた一人、また一人と、少女の配るビラに心を動かされる者が出ることで、彼女の心は充たされていくのだった。 |