――――本日行われました公判により、××××氏の実刑が確定しました。被告は、自身の5体のパートナーポケモンを虐待した容疑で逮捕され、裁判にかけられていました。その事実と残虐性から、今回の判決が適切だったのか、世論が巻き起こっています。


『一見、穏和そうな人だったんですが、ストレスが溜まっていたのでしょうか』

『毎週末になると、部屋から叫び声みたいな鳴き声が聞こえて、恐ろしいやら』

『やはり、立場の弱い者を虐待するのは許せませんね』


『ポケモンにとって、人に捕まることは不幸なのかも』







長身の、マントを纏った男はヒウン広場で声を上げた。ゲーチスと名乗るその男の声はやたらに重く、通りすがる者をも立ち止まらせている。

「今このとき、私達とポケモン達との関係が問われています!そもそもポケモンは歴史上、人間にこき使われ、望まぬ戦いに捲き込まれ、自身のアイデンティティーを蹂躙させられてきたのです!」

広場に集る人々は、耳にするのは初めてではないその議論に、心を惑わせていた。

「トレーナーとポケモンとの絆を否定するっていうのか?!」


「そうではありません。絆があれば、モンスターボールなど必要ないはずなのです。縛り付けておかなければ保てない友情を、絆とは呼びません」


「それは……」


「だからこそ、解放なのです。ポケモンたちを自然な状態に戻し、彼らの自由意思を再び取り戻してあげることが、人道的だと思いませんか?」

男の問いかけに、強く頷く者もいれば、まだ首を傾げる者もいる。しかし確実に、手放さない者への『蔑視』は始まっていた。


「そして今日は、この解放運動の本当の立役者を紹介させていただきます。名は伏せますが、彼は、通称、N。」

演説する男が外套から手を空に掲げると、人々の視界は影に入った。天使の梯子とは逆に、光が翳るその天辺には、小さな影があった。おそらくそれは雲ではない。

「誰よりもポケモンのことを考え、心を痛めている彼の崇高なお気持ちを実現させるのが、ワタクシ達プラズマ団員なのです」


影は上空に留まったと思いきや、急速に浮力を失ったように頭から真下に落下した。加速度的に速まるスピードで、空中の影は聴衆たちに近づいていく。落ちてくるほどに、それは翼を持ったポケモンと、その背に乗る人間だとわかる。

「キャーッ!」「ポケモンが落ちてくるぞ!!」
「あれってリザードン?」「トロピウスかも」
「いや違う。白いぞ…?」

上空5メートルに差し掛かると、白い大竜は頭を無理矢理に天へ向け、ぐるりと力づくのターンをした。翼で巻き起こる突風と旋風に、地上の人々はよろめいた。そして竜は一度空中で制止していななき、彼方北の空へと飛び去った。


「伝説の、ドラゴン……?」
聴衆が金縛りから解ける前に、ゲーチスは恭しく語りだした。


「あれこそ、真実を追い求める者の前にのみ現れ、力を貸すというイッシュ建国譚の竜。N様は、そのレシラムを従える御方なのです!」



「英雄…」

「竜を蘇らせるなんて、英雄じゃないか!」

「英雄!英雄」





テレビクルーは、思わぬ収穫に沸いていた。
「これはっ、ニュースだぜ!映像もある。やはりプラズマ団、やってくれたな」

程なくして全国放送は、レシラムと謎の『英雄』Nを世の中に知れ渡らせた。
うねりと化した人々の熱狂、新しい思想の波が、イッシュを飲みこんでいった。










29.英雄





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -