そのとき、後ろに下がらせていたジャノビーから、声を掛けられた気がした。





事実、ジャンは私の腕を、そっと握っている。彼の首元からも、やわらかな蔓が伸びてトウコの頬に触れる。朝露の置くような、優しい冷たさに、トウコの上がりきった熱が溶かされていった。体を蝕む病の気から、解放される。


「そう、だよね、私、独りじゃないんだった。」

トウヤもチコもいなくても、今の私の隣にはジャンがいる。アカリもいる。
頼もしい仲間が、傷つき傷つけ立ち上がった経験がある。


「ジャンには助けられてばかりだな。ごめんね、あたし、不甲斐ないトレーナーで」

ジャノビーはゆっくりと首を振る。あなたの、その熱いところも好きなのだ、と。

深呼吸をして、トウコは肺に新鮮な空気を容れる。もう膝は笑わない。少女の変化を察知して、ジャンは手を離した。




コマタナに斬られたからといって、その種族みんなを嫌う理由はない。
私の傷は、心の中に忍ばせよう。


たとえ目の前にいるのが、かつて刃を振るったコマタナだったとしても、もう私は動じない。


失うものがあっても、仲間を愛して愛されて、仲間を増やして、私は生きていく。

この大事な仲間たちと、離れる世界になんてさせない。




トウコは、傷ついたアカリをボールに収めた。そしてジャンはまた彼女の前に、ナイトのように踏み出す。ついには少女の顔に、笑顔が戻った。


「ねぇ格好良いキリキザンさん。あたしと一緒に旅をしない?」


ぴくり、とキリキザンは反応したものの、その攻撃の手は緩められない。
ジャンの首から伸びた蔦が、辛うじてその軌跡をずらし、トウコを交線上からはずす。キリキザンの剣撃をかわすため、トウコもまた草むらを走り回る。興奮で、胸の痛みは忘れた。

「君みたいなカッコイイ子と、もっともっとバトルしたい!一緒に、戦ってみたい!」

キリキザンの鋼の刃と、ジャノビーのリーフブレードが交錯する。先のシャンデラとの戦闘で火傷を負っていたのか、相手の動きは鈍い。

「一緒に、行こう?」


トウコが放ったハイパーボールは、一際鋭い音を立ててキリキザンに命中する。
ボールの内側から放たれた光の中に彼は包まれ、地面に跳ねた。


ボールが一回しか揺れなかったのは、あの赤い忍も、この凛々しい少女と旅をしてみたくなったからなのかもしれない。
かつて自らの刃で傷つけた面影を、今度は自らの手で護りたくなったのかもしれなかった。






26.それぞれの覚悟




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