『だいもんじ』が、ハチクのフリージオをとらえる。勝負は決した。シャンデラはくるくると燭台のような手を丸めて、トウコと一緒に喜んだ。 「いいね、アカリ!よくやったよ!」 「申し分ない力だ。このアイシクルバッジを受けとるとよい」 和服のような奇妙な修行の着物を纏ったジムリーダーは、トウコとシャンデラの力を褒め称えた。 「しかし、そのパーティーでは、前のフキヨセジム戦は苦労したのではないか?」 「いえ、あのときは、シャンデラではなく、エモンガがいたんです。だから、なんとか勝てました」 「ふむ、タイプ相性は基本だからな。苦手なタイプばかりでは、なかなか勝つことは難しい。実力が拮抗する相手ならなおさらだ。私はフウロやシャガには負けんが、ポッドには勝ったことがない」 恐面なハチクだが、ジムリーダーたちのことを語る顔は優しげだ。 「これからは、強力なドラゴンタイプのジムや、連戦を強いる四天王のチャンピオンリーグがある。御主も手持ちが2体では、苦しい戦いになるぞ」 「…そうですね」 * ジム戦に挑む2日前のこと、私がポケモンセンターを出たとき、塔には行かずセッカシティに残っていたチェレンと、偶然鉢合わせた。 「トウコ!無事だった!?」 「トウヤに庇われてね。チェレン、伝説の竜は、やっぱり居たよ」 「トウコが捕まえたのか!?」 ううん、と私は首を振る。私の持つ石は、まだ何も起きていない。心に想いを誓ったけど、石が反応してくれることはついになかった。 「そう。あのプラズマ団のNに渡された石なんだろう。偽物かもしれないし、君には何かが足りないのかもしれない。僕としては、一刻も早く警察に届け出て欲しいところだけどね」 チェレンは私にライバル心を燃やしつつも、必ず心配してくれる。 「ま、頑張りなよ。トウコを止めても無駄だってわかったしね。それと、これ、ネジ山に軽く特訓に行ったら拾った。ドリュウズが堀り上げてきたみたい。少なくとも僕の手持ちには必要ないから、あげるよ 」 そう言うと、中で暗い煙が立ち込めているような、半透明の石を手渡された。 「それは闇の石。君のランプラーが、それで進化するはずだ。君の手持ちだと、氷のジムは厳しいし、使っておくといいんじゃない」 「ありがとう」 「何そんなに驚いてるんだよ。じゃ、僕は僕で先に進むよ」 「ねえ、アカリ。あなたは、進化したい?」 腕を組んで頭を捻ったのち、アカリは頷いた。 「変わるのって、少し怖くないのかな。経験を積んで、前の自分と変わるのはわかるけど。石で、突然変わっちゃうなんて」 ゆっくりと、アカリは首を振った。 トウコが闇の石を近づけると、アカリはぶるぶると震えだした。苦しいのかと思い、トウコが手を引っ込めようとすると、アカリがそれを制止した。やがて痙攣が落ち着くと思うと、激しく光が溢れた。眩しさから解放されると、そこにはランプラーではなく、進化形であるシャンデラが、その姿を現した。 「わ、あ」 アカリは自身の体をためつすがめつ検分して、トウコにも見せびらすようにくるくると回った。 「すごい!綺麗だよ、アカリ!優雅で、とっても強そう!」 心配していたトウコも、アカリの美しい進化に、手を打って喜んだ。変化を経てより頼もしくなった仲間の姿に、また愛情が溢れ出してきた。 「変わるのを怖がってたって、だめなんだね。変わる意志があれば、きっと、もっと、強くなれるんだ」 ツタージャは経験で進化したように、石や、ポケモンにはさまざまな成長の仕方がある。 そして、きっと、人にも。 アカリは、トウコに炎が当たらないように気を付けながら、しなやかなその腕を伸ばした。 24.化わる |