慣れない洞窟道に気を使ったため、セッカシティに着いた頃には皆くたくただった。しかし、トウコは歩みを止めることはできない。既にNは、あの塔に辿り着いているだろうか。そして、伝説の竜を手にしているのだろうか。そして野望を達成すべく、次のジムへ向かってしまっているだろうか。

ダークストーンは、いまだトウコの鞄の中にその重みを横たえているだけ。それを思うと、トウコの心臓は大きく音を立てるのだった。

「僕は少し休んだらジムに挑戦するけど、トウコは…」
きっとチェレンは、わかっている。友達なのだ、私の性格も、表情も、このままジムへ行きそうなそれではない。

「リュウラセンの塔に行く。急がないと、手遅れになってしまう気がするんだ」

以前、Nはリーグで待つと言った。しかし、それは私が彼をまともに追いかけていられた場合だろう。

「私一人で平気よ、決戦まではあいつらが危害を加えてくることもないだろうし。」

「トウコ!あの塔には、強いドラゴンポケモンだって生息してるはずだよね。一人では行かせられない。俺も行く。」


何かを言いたそうで黙ったままのチェレンだったが、その隣のトウヤは頑として別れることを拒んだ。


20.離れない





リュウラセンの塔は、セッカシティを抜けた木立の先にあった。
湖に浮かぶように、くすんだ大理石の塔が螺旋を巻いている。



「ここが―――」

イオニア式のような、細部まで手の込んだ柱が、湖の中央の塔へ続く回廊に規則正しく並んでいたのがわかる。うち何本かは年月の侵食で倒れ、折れ、朽ちてはいるが、大理石の豪奢な雰囲気を消してはいない。少年と少女を呑み込みそうな威厳をもって、そこは佇んでいた。



「トウコ、気を付けて。足元不安定だ」

幾時代を耐えた石畳は、ところどころ割れて風化している。二人は慎重に歩みを進めた。

遺跡の中は恐ろしく静まりかえっていた。ネジ山の洞窟とは違い、かつて使われていた建物であるため、採光は悪くない。しかしながらその静謐は、14才の少女にはやや心細く感じられた。そのため彼女は、先を行く兄に話し掛けた。


「トウヤは、いつから旅に出ていたの?もう、イッシュのジムは制覇してるって言っていたよね」

難しい顔をして歩いていたトウヤも、トウコが話しかければ、ぱっと蕾がほころぶように笑む。

「二年前かな。ゆっくりイッシュを回って、今は仕事を考えているところ。ジムリーダーを目指してはいるけど、なかなか難しそうだな。ずっとチコと戦っていきたいけど、草タイプを使うのはサンヨウくらいだし」

唯一草を扱うサンヨウのジムトレーナー試験は倍率が高く、難関だという噂は聞いていた。しかし、草担当のデントさんは現在旅に出ているのだとか。そのため、繰り上げで一席空きがある。


「応募資格には、チャンピオンリーグ勝ち抜きが必要だからね。こうして修行中なんだ」
「そっか」

トウヤの旅の終着は、ジムリーダーへの道だ。では私の旅は、どこまで続くのだろう。リーグを抜けて、Nと戦い、どうするのだろう。

「それとね、俺はトウコを探していたんだ」
「えっ」

兄の旅の目的に自分の名前が出て、トウコはやや驚いた。自分が元のことを忘却してしまって新しい生活をしているうちにも、彼は自分のことを考えてくれていたのだ。カノコに越してきてから、味気なく、乾いていた記憶が潤いを取り戻したように思えた。

「親が離れて暮らすようになって、連絡先もわからなかったろ。会えたらいいな、ってぐらいのもんだけどさ。記憶をなくしたままなら、それはその方が幸せだろうとは思うんだけど、会いたいには違いなかったよ」

トウヤの真摯な思いに、少なからずトウコは感動した。つい先日まで、兄のことなど毛ほども脳裏によぎることなく生活していたことに、少なからず恥ずかしささえ覚えた。
トウヤはいつもの少年らしい笑顔をひっこめて、精悍な表情を見せている。失われた十年間を悔やんだだろう、己の至らなさを責めただろう、妹への愛情が募っただろう、それを感じさせる表情だった。


「もう昔の俺とは違うから、二度とトウコを危険な目にあわせたりなんかしないよ。俺が守るから」


「ポケモンを使って、かい?」


不意に、柱の影から若い男の声がした。





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