8歳のとき、トウコの方がだいぶ背が高かった。俺にはそれがコンプレックスで、ことあるごとに背の高い彼女をからかっていた。
「やーい、デカトウコ!刑事にでもなる気かよ!」


14歳になると、トレーナーとしての旅に出ることになり、俺とトウコの背は並んだ。それがどれだけ嬉しかったことか。1年に10センチも伸びた、と周りに自慢して回った。


「まったく、チビのくせに生意気なんだからー」

旅立ち前の時間、トウヤとトウコはからっとした日差しを楽しみながら、一番道路の端を草むらを避けて歩いていた。土手には夏の花が競うように咲いている。

「トウコ、もう俺のこと小さいなんて言わせないぜ。この調子でいけば、来年には俺の方がだいぶ高くなってるしな!」

ここぞとばかりに、トウヤの身長アピールが始まった。コンプレックスが解消されることほど、人を元気付けるものはない。

「来年、か」

トウコは、誰にともなく呟く。

「ベルもチェレンも、トウヤもトレーナーになって旅をするのに、どうしてあたしだけダメなんだろ」

その理由が動かしがたいものであることを、トウヤは知っている。だからこそ、無理に楽天的なことを言ったり、同情して沈み込むこともしなかった。

「トウコはさ、ずっと俺の目標だよ。強くて、明るくて、みんなの面倒をみる優しさもあって、身長もあったから、さ」

「もう、お世辞にもほどがある!それに背は伸びたんだからいいでしょ」

また背のことを持ち出されて、トウコは苦笑いした。小さい男と同様に、大きい女もなかなかにコンプレックスが生じるものだった。
「あぁ。お日様みたいなトウコを追っかけてさ」

すいっ、と天に伸ばしたトウヤの手が、高くて明るく強い光の太陽を指差す。かと思うと、そのまま指先を引いて地面に向けた。

「俺はあのヒマワリみたいにぐんぐん伸びまくったぜ」

大輪の向日葵のように朗らかな笑顔で、彼は振り向いた。トウコがいてくれたから成長できたと、彼自身常々思っていた。それを伝える機会は、きっと今しかない。旅に出る前に、どうしてもその感謝を伝えておきたかった。

「そんなきざったらしいセリフ、よく言えるわね」

満開の向日葵に振り向かれた太陽は、それはもう真っ赤に燃えていた。




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