「わぁ、トウコ!と、その男の人、だれ?」 ベルはトウコの隣に立つ、青いウインドブレーカーの少年に目をやった。トウコと同じか、少し上くらいの少年だった。揃いの帽子を被っているせいか、とても似て見える。 「ベル、指差したら失礼だろ」 ベルはごめんなさい、と腕を下ろしたが、トウヤに興味津々なのは明らかだった。 「俺はトウヤ、っていいます。トウコとは…」 「生き別れの兄なんだ!」 トウコはトウヤの言葉に被せ、一息に事情をばらした。親友たちに嘘はつきたくはない、しかし過剰に心配されても困る。だからトウコは、ふざけているかのように捲し立てたのだ。 「ええ〜!トウコ、ドラマの観すぎだよぅ」 思った通り、ベルはトウコの告白を一蹴した。茶化されても、トウコもトウヤも何も言わなかった。そしてチェレンは、早くもトウヤと意気投合したようだ。トレーナー同士は、仲良くなるのも早い。 「じゃあ俺とチェレンで、バトルしてくるよ」 男二人はバトルに行くことで決まったらしい。じゃあ女はどうしようか。ベルとは最近会っていなかったから、話でもしよう。シッポウで、Nの話を気にしていたし、彼女が少し心配だった。 「あは、トレーナーらしいね。じゃあまた後で。私はベルと話してるから」 「そうだね。いってらっしゃあーい!」 ベルは相変わらず、ジムには拘らず街々を回っているらしい。ただ、ポケモンたちと楽しく旅をしているのだとか。 「ライモンのカミツレさん見た?すっごくかっこいいよねぇ!モデルさんって憧れちゃうなぁ…手持ちのエモンガもすっごく可愛いよね!!私最近探して回ってるの。どこにいるのかなぁ?あ、もちろん今私と一緒にいる子たちも大好きで、大事なお友達だよぉ!」 「ベル、そんなにエモンガが好きなの?」 「うん!すっごく気に入ったの!!」 私はボールの中のエモを小突く。エモにも会話が聞こえているのか、ボールが楽しそうに動くのを感じた。 「うん、出ておいで。エモ」 ぱん、とボールから弾けるように飛びだしたエモンガを、ベルが手を伸ばしてキャッチした。 「うっわぁ!すごいすごい!トウコが捕まえたの!?どこで?」 「…ヒウンで、もらったんだ。この辺りには出ないみたいだね」 そーなんだぁー、 エモンガは突然の親愛行動に戸惑ってはいたが、どうやら素直に嬉しいらしい。 「よかったら、交換、しよっか。エモもベルを気に入ったみたい」 「ほんとぉっ!?えと、えと、じゃああたしは、うーん、トウコどの子が気に入るかなぁ」 わたわた、と慌てる仕草は旅に出る前と変わらない。 「ふふっ、誰がいいかなぁ」 「ぜったいミジュは駄目だからね!」 将来のことや気になる人のこと、女の子同士は話が尽きない。私が話すのを休めばベルが喋り、また逆もそうだった。人生初のポケモン交換を終えた後は、お互いいつもより興奮してしまったようだ。 しかし、私は結局プラズマ団やNのことは、彼女には言えず終いだった。きっとベルだって、「解放」の話をすごく気にしていたのに。 少し離れて二人を見つめる2つの影があった。ポケモンバトルを終えた二人は、どうやら語り合っているようだ。 「トウヤ、君は本当は、僕からトウコのことが聞きたかっただけでしょう」 「はは、それもあるよ」 トウヤははぐらかしたが、チェレンの中では、それが事実と認定されていた。生き別れの兄妹、というのが事実だとしても、トウヤの興味は度を過ぎているように感じたからだ。 「君って本当にトウコの兄なの?まるで君、彼女に気が…」 「うん、鋭いね。どっちも正解。」 トウヤは足元のチコリータを呼んで、頭の葉をいじりだした。彼なりの照れ隠しなのだろう。 「チェレンもね、大事なものには、十分に気をつけておかなきゃ。あっという間にどっかに行っちゃう」 「大切な、もの、」 チェレンにも何かしら心当たりはあったと見えて、眼鏡の奥の瞳をそっと揺らした。そして自らの言葉が届くのを見届けたトウヤは、誰にともなく呟く。 「別れる前も今も、あいつのことが一番好きだよ」 18.言えること、言えないこと |