観覧車に、乗らないかい?上から、プラズマ団が探せるかもしれない。それに、込み入った話があるんだ。



奇妙な提案だったが、観覧車だって公共の乗り物だ。一周は長くはないし、このNという男が悪人ではないことは知っている。そしていつだって、私にはジャンたちがついているのだ。

「構わないわ。私も少し、話があるもの」


二人分のチケットを買ってもらい、乗車口へ上る。まるでお姫様を扱うように階段をエスコートされ、気恥ずかしくなる。恋人同士ではないのだから。

「あれかな?ジェットコースターの前にいる人たち」
「あれは黄色い服でしょ。私が探してるのは水色の服の人」

「ふぅん」

「Nって目が悪いのね。眼鏡とかした方がいいんじゃない」

そうかもしれないね、と言ってNは私に向き直った。下界を見下ろすのではなく、向かいに座る私を真っ直ぐに見つめた。



「さて、まずは僕のことを話させてもらうよ。僕はね、プラズマ団のおうさま、だ。次期リーダーと言った方がわかりやすいかな?」

王様、という言い回しに違和感を覚えたものの、十分に予想の範囲内の告白だった。彼の思想からいって、プラズマ団に傾倒しているのはわかっていた。浮世離れしているというか、どこか、人を見下すような、軽蔑するような態度がそう思わせたのだ。トウコはわずかに瞳を揺らしただけで、決然とNの視線に耐えた。


「世界のポケモンたちは苦しんでいる。人間と引き離さなければ、彼らに安息はない」

私はすぐにライモンシティで出会ったエモンガのことを思い出した。自分勝手にポケモンを傷付ける人はいくらでもいる。息継ぎを疑うくらいに、彼は早口でまくしたてていた。きっとNにとってこの言葉は、台本を読むよりも簡単なのだろう。
だから私は、そのペースにのまれないよう、私の歩調で喋る。

「悪い人がいることは否定しない。人間だって虐待されるんだもの、全てのポケモンが虐待されないわけがないわ」

人間同士だっていさかいも虐めも起こるのだから。ポケモンとの間にも、起こるだろう。間違いなく。

「それを矯正するのがプラズマ団の役目だ。僕は心も体も傷ついたポケモンをごまんと見てきた。彼らを搾取した人々が、本当に憎いよ。だから離す」

「助け合って暮らしているポケモンとトレーナーが1000人いても、彼らを引き離すっていうの?」

「それの他に、苦しみを除く手立てはないだろう」

「正しい人も悪い人も、同じように扱うの?」

「ああ、結局はその方がポケモンのためなんだよ」

「じゃあ、あなたもまた、トモダチと別れるのね」

「そうだよ。いつもしてきたように、ね」

肩をすくめて、Nは私を嘲笑う。当たり前のことをなぜ受け入れないのか理解に苦しむ、賢者が愚者を笑う態度だった。

しかし、私は知っている。今までの言動や行動から、Nは心からポケモンのことを好いていると。なのになぜだろう。好きな相手なのに離れるのか、離れなければならないのか。トウヤとトウコも、離れなければいけなかったのか。

だからこそ、私はいつも以上に感情的になり、積もっていた反抗心をぶつけた。そしてそれは、私の決意表明。たった今から、私のもう1つの目標になる。

「邪魔してやる、邪魔してやるわ。止めてあげる、離ればなれになんかさせない!あなたになんか負けない!」

「上等だね。キミが英雄足り得るか、試してあげることにしよう」

「たった1組でも、ポケモンと人間が仲良く暮らしているなら、私はその仲を引き裂かせない。不幸になんかさせないよ」

「人間らしい言い分だ。いるかもわからない善人を仮定して、確実に存在する悪人に目を瞑る。ポケモンの声に耳を傾けることもできないくせに」

もちろんだ。私には、ツタージャの気持ちなんてわからない。しかし、

「少なくとも私の前に、ポケモンを愛する1人がいるわ。それだけでも十分よ」



「くっ、あはは、あはははははは。面白い、実に面白いねトウコ。キミは理想を追い求めてる!強い意思がある!気に入った!」

私の恫喝に眉ひとつ動かさなかった男が、笑う。


「君には、ダークストーンを預けよう。英雄の石の片割れを。君が英雄の器であるならば、伝説の竜がキミに力を貸すだろう」

僕はライトストーンを持とう、この灰色の世界を明るく照らすためにね。


Nはトウコに黒く、重たそうな球を手渡した。石は、トウコの掌の感触を確かめるように一度疼くように転がったが、その後は何も起こらなかった。


「これで名実ともに、君は僕のライバルだ。宿命の相手だ。灰色の世界を分かつ、白と黒の戦いだ」

Nは白い珠を抱いて、もう一度、嬉しそうに笑った。







14.観覧車





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