ライモンシティは、青色を基調として近代都市的な無機質さを持ちつつも、随所に花壇や水場が配されており、その景観は調和が保たれている。
<娯楽の街>と称されているこの街も、人工物だけでは人の心を満たせないのだった。




シッポウではジムの復旧までに時間が掛かり、ヒウンでは大きな街を巡るのに時間を掛けてしまった。そしてライモンでは、忘れていたはずのトウヤと再会した。その間にも、おかしな組織<プラズマ団>は暗躍を続けているらしい。悪い噂は絶えず、近頃ではニュースにされることもしばしばだ。カラクサでの講演会、そして石の盗難事件にポケモン強盗。彼ら曰く、非道な人間から全てのポケモンを解き放つため、強奪という方法も顧みないらしい。Nを筆頭として、報道に載る彼らの主張・イデオロギーに賛同する人も、徐々に増えているようだ。しかし主張に理を感じつつも、そのラディカルな解放の方法を嫌悪する人は、私を含め大勢いる。少しずつ、その対立は浮き彫りになってきていた。

許しがたい卑劣な行為と、一理あるともいえる彼らの思想。
悪行さえ為していないのなら、理屈と同情で賛同してしまいそうな考え方を前に、私は惑う。ヒウンで出会ったエモのように、虐待されているポケモンは世の中にたくさん居て、それが日常茶飯事のように扱われることも知った。それに対し、無力感と憤りに心を支配された人が、プラズマ団に入るのだろう。シッポウタウンでNの話を聞いた時の、ベルの思い詰めたような瞳が思い出された。


「ジャン、私あなたと離れたくないよ…!」
思わず彼を抱きしめると、彼も何かを感じ取ったらしい、短い両手と尾をいっぱいに使って、優しく抱き締め返してくれた。カノコを出て、何処にも何時でも一緒だったジャン。こんなふうに仲良く暮らしている人とポケモンまでをも、どうして離さなくてはいけないのだろう。







そのとき、スタジアムの方から悲鳴が聞こえた。
「キャーっ」
普通なら、試合の観客の歓声が上がったのだと思う。しかしその考えは、血相を変えて会場から走り出でてきた水色の装束に振り払われる。

普段着ではありえないような、暑苦しい頭巾にPZのエンブレムをつけている。噂のプラズマ団に間違いなかった。盗みを働いたのかとトウコは勘繰り、中から飛び出してきた他のトレーナーと共に追いかける。


「あっ、チェレン!」

「トウコか。あいつら、試合に夢中な観客のポケモンを盗ろうとしたんだ。僕が防げたからいいものの」

ということは、今ポケモンが盗まれているわけではないのか。トウコは少しだけ安心したと共に、自分の邪推が当たってしまったことを苦々しく思う。

「やっぱりプラズマ団は悪の組織だよ…それから、君が気にしていた男じゃないかな、緑の長髪が、奴らと一緒にいた!」

緑。つい先日、ヒウンシティで会ったばかりだ。この街に来ている可能性は低くない。髪色それだけで断定はできるはずもないが、あの特異な髪は大都会にだって1人しかいなかった。あの人は、Nは――――


「あいつら、二手に分かれた!トウコは右に、僕はあっちを追う!」

そう言うとチェレンは、自転車に乗って女性プラズマ団員を追いかけていった。
チェレンに合わせて全力疾走したため、膝が笑う。私はとうに、もう1人の団員を見失っていたので、立ち止まった。膝を押さえて屈むと、地面が見えた。すると、色の地面に黒が差す。隣に来た誰かの影だ。





「やぁ、トウコ。また会ったね」
あの珍しい緑色は、やっぱりここにいた。




13.天秤





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