ずっと忘れていた、私の家族のこと。 私には、お母さんと、お父さんと、お兄ちゃんがいた。小さい頃、お父さんは警察の仕事が忙しくて、めったに家にいなかった。お母さんも何かお仕事をしていて忙しかったはず。 だからトウヤとトウコはいつも一緒に遊んでいた。お互いに、一番仲の良い親友で、家族だった私たちは、お互いに恋をした。 恋と呼べるようなものではなかったかもしれない。でも二人は手を繋いで歩き、愛を囁いて、キスをした。家には父も母も居なかったから。そんな私たちを可哀想に思ってか、父は私たちに一匹のポケモンを預けてくれた。それが、チコだ。 「トウヤ、久しぶりだね。やっと、思い出せたよ」 「うん、6年ぶりかな、長かった。トウコもずっと大きくなってて、最初わからなかったよ」 愛しい思い出、苦しい思い出、それらがない交ぜになって私の頭をはい回る。忘れていた記憶が、走馬灯のように引き出されていった。 「あたしがカノコにいた間に、トウヤは旅に出てたんだね。それで、前よりもっと強く、かっこよくなってた」 「ありがとう。トウコも見違えたよ、また可愛くなってさ。やっぱり、トレーナーになってたんだね」 「うん。………」 昔のことを謝ったらいいのか、再会を喜んだらいいのかわからない。トウヤが苦虫を噛み潰したような表情をしていることも、トウコを更に不安にさせた。どうして二人は離れ離れで暮らしていたの?まだ蘇りきらない記憶の隙間から、混乱が湧き出してくる。だから、その空気に耐えきれなくなって、トウコは逃げ出す。 「あ、あたし、友達と約束してたんだった!もう、行かなきゃ。またね、トウヤ、チコ!」 「トウコ……。うん、またね。今度は、ゆっくり話そう」 トウヤは一瞬切なげな表情を見せたがすぐに流して、引き留めることはしなかった。 「うん!じゃあね!」 そう言い残して、トウコはギアステーションを出た。走るように、逃げるように。後ろは、振り向かない。後に残されたのは、トウヤとチコリータだった。 「チコ、やっと、やっとトウコと逢えた…!」 ずっと焦がれていた彼女は、立派に少女としての美しさを備えるようになっていた。離れ離れでの生活が苦しくて、急いて旅に出たがいくらバッジを集めたところでトウコを見つけることは叶わなかった。それが、とうとう、ここで会えた。 「うっ…く…」 トウヤはトレーナーキャップを深く被り直して、嗚咽を洩らしながら駅を出た。 彼女とお揃いの鍔の深い帽子は、旅立ちの日に父からもらったものだ。帽子を大事にしろと言われた意味が、初めてわかった。 11.とうとう逢えた |