ポケモンセンターに着いた私たちはジョーイさんの手当てを受けながら、事の顛末を話した。(それこそが驚くべきところなのだが、)ジョーイさんは話を聞いても驚くことはなく、手慣れた様子で書類を書き上げていった。

「最後に、このエモンガのこれからのことなのですけど…」

町の条例では、虐待を受けたポケモンは他の引き取り手がいない場合、捕獲地に逃がされる。今回については、それを決めることができるのはトウコとNだった。





「僕としては野生に解放したいと思うけれど。彼はもう十分すぎるくらい人間に搾取されてしまった。これ以上人間に関わることで、彼を傷つけるのは避けるべきだ」

トウコは熟考する、記憶の底の自分の経験を掬い上げながら。

「Nが連れていかないのなら、私が引き取ろうかと思う。」
それが、トウコの答えだった。Nは苦い顔をしつつも、一応は同意を表した。自分のポリシーと異なる結論だとしても、本件の立役者はトウコだという譲歩があったからだ。

「…キミになら、任せてもいいかもしれないね。助けた当事者はキミなのだし」
「うん、このままじゃあの子、辛い思い出だけ残っちゃうから」
「!」

今の自分があるのは、辛い経験をした後も、周りに味方がいてくれたから。カノコに引っ越して来てから、チェレンはうるさいくらいに世話を焼いてくれた。ベルは緊張している私を、持ち前の明るさで迎え入れてくれた。
そして今は何より、ジャンがいてくれる。たとえまだ短い時間でも、ジャンと過ごした時は、私を変えてくれた、それも、きっといい方に。だから今度は、私があのエモンガを変えてあげたい。揺るぎない思いがトウコにはあった。

「今度は、私がポケモンたちに恩返しする番なんだ」






僕は今まで、自分の中のトレーナー像に縛られていた。外の世界のトレーナーは皆悪辣で、ポケモンを都合のいい道具や、ステータスの指標、コレクションの競争対象としてしか見ていないのだろうと思っていた。事実、出会うトレーナーは押し並べてポケモンと話すことすらできず、エゴの塊にしか見えなかった。ヒウンシティも例外はなく、今晩路地にいた男はそうだった。
だが、トウコという少女は違う。瞳の奥には決意があり、彼女のパートナーというジャンも、絶対的な信頼を寄せている。彼女は身を呈してエモンガを救い、不条理な悪に毅然として憤った。そして僕よりも真摯に、あのエモンガの心身を気遣っていた。モンスターボールに入れるのも、再びエモンガをパーティーに加えさせるのも、僕は信念と違うことだから否定したがった。ポケモンの声が聞ける僕よりも、彼女の方が一枚上手だった。

そう、彼女は。いや、彼女だけが、特別なのだ。世の凡夫とは違う、本当の強さと優しさを持っている。


「引き取ることも決めたし、私はもう一度あのエモンガに会ってくるよ」

「うん、僕も行こう。彼の様子が気になるからね」


ポケモンセンターの宿泊室を出て、無機質な廊下を歩く。先だって外で歩いたのとは違い隣り合わせで歩くことに、Nは緊張を覚えた。

「さっきはありがとね。Nが来たから、あの男も引っ込みがついたんだと思う。私1人だったら、誰かが傷ついちゃってたかもしれない」

「君は本当に優しいんだね」

「え、そう?普通じゃない」
彼女は事も無げに言うが、そんなはずもない。類い稀な勇気、そしてツタージャとの信頼関係がなければできなかった。

「君は特別だよ。カラクサで会った時から、そう思っていたけれどね」







9.特別な




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