「水色の装束を着た男たちがね、逃げていくのを見た子がいるんだよ」


ジム戦を終えたトウコが盗難事件について尋ねると、アロエもまた詳しいことはわからないようだった。
シッポウジムのリーダーであるアロエはトウコの戦いを気に入ったらしく、稽古をつけてくれることになった。

「ジムの管理が甘い、って、お上からも叱責を受けちまったよ」

「まだ、犯人は捕まってないんですよね」

水色の装束といえば、カラクサで講演していた組織。頭まで覆ったアオザイのような服だった。たしか、名前はプラズマ、団。彼らはただの悪の組織だったのだろうか、それとも、今回の盗難は、彼らとは無関係なのか。

「服の色だけで、プラズマ団とは即断できないね。プラズマのよくない噂はちょいちょい聞くけど、あまり表沙汰にはなっていないし」

しばしば、あの団服を見掛けることがある。ポケモン強盗の真似事をしていた、とアロエは続けた。


「盗まれたものって、何なんですか?ニュースだと、化石か何かだって」


アロエは黙る。さすがに、無関係の子供に話すのは憚られたのだろうか。

「あの、話せないことだったら、」

「ダークストーンとライトストーンさね。英雄伝説が伝わる一対の石だよ。歴史的に価値のあるものだから、転売だって簡単じゃないはずだ」

英雄伝説の、石か。ではやはり、Nがカフェで言ったことは本当だったのだ。盗人は何のために、という疑問は残る。Nが何故それを、という疑問も残る。

「本当はアタシも、この手で犯人探しをしたいよ。けどね、ジムをいつまでも閉めておけるわけじゃないのさ」
トウコは、アロエが強く拳を握りしめているのに気が付いた。彼女は浅黒い肌ゆえに、怒りで頬を紅潮させることなどはなく、ただ静かに憤っていた。

「アロエさん…」

「あれは、大切な石なんだ。伝説のポケモンが封じられてるとも言われてる。二体のドラゴン、レシラムとゼクロムがね」







アロエの特訓を受けたトウコは、次なる目的地、ヒウンシティへと旅立つことにした。ヒウンジムの属性は虫、トウコのツタージャでは不利だろうということで、十分に鍛えていたのだ。

「アンタ、もし旅をしてて、石の行方についての手掛かりがあったら教えとくれよ」

「はい、もちろんです!ありがとうございました!」
「あぁ、行っといで」

ヤグルマの遊歩道を抜け、ワンダーブリッジを渡る。薄暗い森との対比で、目が眩みそうだった。思わず息が漏れる、スケールの大きさに圧倒されてしまった。橋下を走るトラックや、アーチをくぐる客船、長い橋を歩く人はまばらで、橋の広さと長さを強調させた。

そして、ブリッジの向こうに霞むのは、摩天楼聳えるヒウンシティだ。新たな景色に心踊らせ、トウコは陸橋の階段をかけ降りた。




7.噂




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